66 / 108
蜜月京都旅行編
2
しおりを挟む
駅に着くと、父をはじめとした事務所の面々が既に集合していた。
父のパートナー弁護士の前田先生や、式に来てくれた原田さん、顔なじみの事務員さん達に挨拶をする。
その他知らない顔もチラホラあって。その一団に向かって軽く会釈をすると一人が寄って来た。
私より若い男の子。
比較的上品な顔立ち。
着てるものも全体的に嫌味なく、さり気なく上質。
どこかで見たことあるような気がする。
「ヨリ姉!」
「は?」
「ひどっ。忘れた!?俺のこと」
薄目で相手の顔をジッと見る。
んんん?
んーーー。
「眉間のシワ深過ぎっ」
あぁ!!もしかして。
「まーくん!!」
「時間かかり過ぎ!」
そう言って笑った従兄弟の顔には確かに昔の面影があった。
まーくんこと園宮 真斗は私の3つ下の従兄弟。
大学在学中に司法試験に合格、司法修習を終えて最近父の事務所に勤め始めたらしい。
「うわー。ちょっと見ない間にすっかり大人になって」
「ヨリ姉、そのセリフ親戚のお姉さんじゃなくて、親戚のおばさんのだから」
「おば…」
「ま、最後に会ったのって俺が中三の時だからかれこれ10年くらい前だから分かんなくても仕方ないか」
ギクリとしたのは最後に真斗に会った当時、私はまだ桐嶋の件のリハビリ中で、学ラン姿の真斗を見てパニック状態に陥った過去があったからだ。
ちょっと気持ちを落ち着かせて、駅のホームを歩きながら切り出す。
「まーくん、あの時はごめんね」
「何だったの?アレ」
「うん、ちょっと」
「ちょっと…ねぇ。俺すっごいショックだったんだけど。ヨリ姉に久々に会えたと思ったら、突然顔面蒼白になって部屋に閉じ籠もられて」
「ほんと、ごめんって」
「俺のことがイヤだったわけじゃないんだ?」
「そんなこと全然ないよ」
「そっか、良かった」
真斗はそう言って昔と同じ屈託のない笑顔を見せた。
たまたまなのか原田さんの配慮なのか乗り込んだ新幹線の席は真斗と隣同士。
「ところでヨリ姉、結婚したって本当?」
「うん、今年ね」
「…相手ってまさか堂本先生?今日も一緒に来てたし」
「え?違うよー」
「どんな男?」
「どんなって…」
「ちょっと顔が良いだけの横暴で口が悪くてサディストで粘着質で束縛激しい男」
後ろの席から大地先輩が口を挟んだ。
「は!?ヨリ姉何でそんなヤツと結婚したんだよ!?」
「ちょ、まーくん大地先輩の言葉をそのまま信じないで」
「じゃあヨリ姉にとってはどんなヤツなの?」
「………オレ様で、ぶっきらぼうで、ちょっと意地悪くて、ねちっこくて、心配性?」
「ヨリ姉、それ堂本先生の説明と変わらないから」
「ついでに女癖も悪いな」
「大地先輩っ!」
結婚してから半年近くになるけど、こういうのまだ慣れない。
でももう少しマシな印象を持ってもらいたくて。
「わ、私のことずっと好きでいてくれる男、かな」
くーっ。
自分で言っといて信じられないくらい恥ずかしい。
大地先輩はしょっぱい顔をして自分の席に戻って行った。
「そんな理由なら俺と結婚すればよかったのに」
「え?」
「俺なんて物心ついた時からヨリ姉のこと好きなのに」
うっわ…久々だとキッツい。
真斗のシスコン。
私達はお互い一人っ子で、比較的家が近く、交流も頻繁だったので私が中学に入るまで本当の姉弟のように育った。
小さい頃金魚の糞みたいに「ヨリ姉ヨリ姉」と懐いてくれて、確かに可愛かったけど、この年になって言われると…
「…きも…」
「は!?ヨリ姉!?」
「いや、だって普通にキモいでしょ。まーくん何歳?」
「…に、25」
「逆の立場で言われてみなよ。引かない?」
後ろの席から大地先輩の失笑してるのが気配で分かる。
「引かない!萌える!」
「…そんな頭でよく司法試験通ったね、本当に」
「ヨリ姉と結婚して園宮綜合法律事務所継ぐ為に必死で勉強したし!」
「私、真斗先生と結婚しないし」
「従兄弟同士は法的に結婚できるよ!」
「だから、私もう結婚したんだってば。バカなの?」
「…弁護士捕まえてバカ呼ばわりって、流石ヨリ姉…」
「やっぱりアイツに似てきたな」
って大地先輩の声がまた後ろから聞こえた。
久々に会った従兄弟とそんなバカなやり取りをしていたらあっという間に京都に着いてしまった。
“京都に着いたよ”
駅で桐嶋にラインしたら即電話が掛かってきた。
「もしもし?」
「無事?」
「無事だよ」
「アイツ、近くに居んの?」
「席後ろだったよ」
「近ぇよ。ツムジが無防備だろ」
ツムジって。思わず笑ってしまった。
「そうそう。冬馬、さっき聞こえなかったんだけど出掛けに玄関で何て言ったの?」
「玄関?」
「そう玄関」
「何してるとき?」
「何って…キ…」
途中まで言いかけて、電話の向こうで意地悪く笑う桐嶋の顔が鮮明に浮かぶ。
「キ?」
「周りに人が居るのにわざと言わせないで!」
ちょっとムキになって声が大きくなってしまった。
「何やってんの?バスもう来たよ。隣座っていい?」
真斗が覗き込んで声を掛けてきた。
「ごめん、電話中」
通話口を押さえてそう真斗に伝えたのと同時にブツッと音がして、不自然に電話が切れた。
電波が悪かったのかなと思い、すぐに掛け直したのに、いつもは仕事中でもワンコールで出る桐嶋が電話に出なかった。
父のパートナー弁護士の前田先生や、式に来てくれた原田さん、顔なじみの事務員さん達に挨拶をする。
その他知らない顔もチラホラあって。その一団に向かって軽く会釈をすると一人が寄って来た。
私より若い男の子。
比較的上品な顔立ち。
着てるものも全体的に嫌味なく、さり気なく上質。
どこかで見たことあるような気がする。
「ヨリ姉!」
「は?」
「ひどっ。忘れた!?俺のこと」
薄目で相手の顔をジッと見る。
んんん?
んーーー。
「眉間のシワ深過ぎっ」
あぁ!!もしかして。
「まーくん!!」
「時間かかり過ぎ!」
そう言って笑った従兄弟の顔には確かに昔の面影があった。
まーくんこと園宮 真斗は私の3つ下の従兄弟。
大学在学中に司法試験に合格、司法修習を終えて最近父の事務所に勤め始めたらしい。
「うわー。ちょっと見ない間にすっかり大人になって」
「ヨリ姉、そのセリフ親戚のお姉さんじゃなくて、親戚のおばさんのだから」
「おば…」
「ま、最後に会ったのって俺が中三の時だからかれこれ10年くらい前だから分かんなくても仕方ないか」
ギクリとしたのは最後に真斗に会った当時、私はまだ桐嶋の件のリハビリ中で、学ラン姿の真斗を見てパニック状態に陥った過去があったからだ。
ちょっと気持ちを落ち着かせて、駅のホームを歩きながら切り出す。
「まーくん、あの時はごめんね」
「何だったの?アレ」
「うん、ちょっと」
「ちょっと…ねぇ。俺すっごいショックだったんだけど。ヨリ姉に久々に会えたと思ったら、突然顔面蒼白になって部屋に閉じ籠もられて」
「ほんと、ごめんって」
「俺のことがイヤだったわけじゃないんだ?」
「そんなこと全然ないよ」
「そっか、良かった」
真斗はそう言って昔と同じ屈託のない笑顔を見せた。
たまたまなのか原田さんの配慮なのか乗り込んだ新幹線の席は真斗と隣同士。
「ところでヨリ姉、結婚したって本当?」
「うん、今年ね」
「…相手ってまさか堂本先生?今日も一緒に来てたし」
「え?違うよー」
「どんな男?」
「どんなって…」
「ちょっと顔が良いだけの横暴で口が悪くてサディストで粘着質で束縛激しい男」
後ろの席から大地先輩が口を挟んだ。
「は!?ヨリ姉何でそんなヤツと結婚したんだよ!?」
「ちょ、まーくん大地先輩の言葉をそのまま信じないで」
「じゃあヨリ姉にとってはどんなヤツなの?」
「………オレ様で、ぶっきらぼうで、ちょっと意地悪くて、ねちっこくて、心配性?」
「ヨリ姉、それ堂本先生の説明と変わらないから」
「ついでに女癖も悪いな」
「大地先輩っ!」
結婚してから半年近くになるけど、こういうのまだ慣れない。
でももう少しマシな印象を持ってもらいたくて。
「わ、私のことずっと好きでいてくれる男、かな」
くーっ。
自分で言っといて信じられないくらい恥ずかしい。
大地先輩はしょっぱい顔をして自分の席に戻って行った。
「そんな理由なら俺と結婚すればよかったのに」
「え?」
「俺なんて物心ついた時からヨリ姉のこと好きなのに」
うっわ…久々だとキッツい。
真斗のシスコン。
私達はお互い一人っ子で、比較的家が近く、交流も頻繁だったので私が中学に入るまで本当の姉弟のように育った。
小さい頃金魚の糞みたいに「ヨリ姉ヨリ姉」と懐いてくれて、確かに可愛かったけど、この年になって言われると…
「…きも…」
「は!?ヨリ姉!?」
「いや、だって普通にキモいでしょ。まーくん何歳?」
「…に、25」
「逆の立場で言われてみなよ。引かない?」
後ろの席から大地先輩の失笑してるのが気配で分かる。
「引かない!萌える!」
「…そんな頭でよく司法試験通ったね、本当に」
「ヨリ姉と結婚して園宮綜合法律事務所継ぐ為に必死で勉強したし!」
「私、真斗先生と結婚しないし」
「従兄弟同士は法的に結婚できるよ!」
「だから、私もう結婚したんだってば。バカなの?」
「…弁護士捕まえてバカ呼ばわりって、流石ヨリ姉…」
「やっぱりアイツに似てきたな」
って大地先輩の声がまた後ろから聞こえた。
久々に会った従兄弟とそんなバカなやり取りをしていたらあっという間に京都に着いてしまった。
“京都に着いたよ”
駅で桐嶋にラインしたら即電話が掛かってきた。
「もしもし?」
「無事?」
「無事だよ」
「アイツ、近くに居んの?」
「席後ろだったよ」
「近ぇよ。ツムジが無防備だろ」
ツムジって。思わず笑ってしまった。
「そうそう。冬馬、さっき聞こえなかったんだけど出掛けに玄関で何て言ったの?」
「玄関?」
「そう玄関」
「何してるとき?」
「何って…キ…」
途中まで言いかけて、電話の向こうで意地悪く笑う桐嶋の顔が鮮明に浮かぶ。
「キ?」
「周りに人が居るのにわざと言わせないで!」
ちょっとムキになって声が大きくなってしまった。
「何やってんの?バスもう来たよ。隣座っていい?」
真斗が覗き込んで声を掛けてきた。
「ごめん、電話中」
通話口を押さえてそう真斗に伝えたのと同時にブツッと音がして、不自然に電話が切れた。
電波が悪かったのかなと思い、すぐに掛け直したのに、いつもは仕事中でもワンコールで出る桐嶋が電話に出なかった。
0
お気に入りに追加
581
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる