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家族 3
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改めて聞かれると答えに困る。
だって私たちは色々と普通じゃない。
恋愛に『普通』がないことは分かってるつもりだけど。
それにしても。
再会して強引に車に乗せられて無理矢理キス。
その後すぐに打ち合わせと言う名のプチ旅行。
よく分からないまま体の関係を持ち
その後ようやく告白されて
父に結婚の許可を得て
プロポーズ…
箇条書きしてみたら人様にお披露目できるような馴れ初めが…ない…。
おまけに本当は一番最初にあの事件が来る。
何て答えようか…。
「依子!」
少し大きめの声で母に名前を呼ばれて我に返った。
真実を見極めようとする鋭い母の眼光は鋭さを増している。
「お、お付き合いはしてません」
「え?」
「交際期間なしで、いきなりプロポーズだったから」
ここだけ切り取ればそう不自然ではないはず。
「それってやっぱり………
………依子からなの?」
母の言葉に一瞬耳を疑った。
「な、何でそうなるのよ!?」
「だって桐嶋くんて、結婚なんて一生しなさそうなタイプじゃない?だから依子から結婚を迫ったとばかり…ほら、お父さんに結婚か法科大学院かなんて言われてたし」
「それにしても酷くない!?」
「じゃあまさか…桐嶋くんからなの?あんな見るたびに別の綺麗な女の子連れてた桐嶋くんが、色気も化粧っ気もない依子に?」
「…っっ」
く、悔しいけど言い返せない…!!
そこは親なんだから
『さすが桐嶋くん、見る目があるわね』
とか言ってくれても良いんじゃないだろうか。
「お母さんがどう思おうが、桐嶋が結婚って言い出したの!私じゃありません!!」
母はまだ疑いの眼差しで私を見ている。
「ちゃんと指輪も貰ったし」
「…ガラスなんじゃないの?」
疑い過ぎでしょ…。
こんなやりとりをしつつも専業主婦歴29年の母の手際は良くて、あっと言う間に五人分のお膳の準備が整った。
座敷に戻ると父が子どものように目を輝かせながら桐嶋のノートブックPCを見ていた。
「お父さん、桐嶋さんと大地先輩は?」
「依子!見てみろ!!桐嶋くんが早速うちのリフォームの図面と3Dの間取りシュミレーションを作ってくれたぞ」
「わぁ!本当だ!すごい!!…じゃなくて!!そんなことより二人は?」
「そんなことよりって…依子ならこの図面の素晴らしさが分かると思ったのに」
ディスプレイを抱きしめて拗ねるのは止めて、お父さん。
「あなた、依子が困ってますよ?」
「あぁ…二人なら依子の部屋がどうとか言ってたな。昔来たことあるし、堂本先生が案内してるんじゃないのか」
「ええっ!?何それ。ちょっと見て来ます」
見られて困るようなものは…ないと思う。
私の部屋も桐嶋の部屋と同じで、実家に帰った時に使う程度で普段物置だから。
だけど…
普通勝手に部屋に入らないでしょ!?
デリカシーなさ過ぎ!!
スリッパも履かずに今来た廊下を駆け戻っていたら、私の部屋から大地先輩が出て来た。
「大地先輩、桐嶋は?」
「アイツなら中だよ」
「何で急に私の部屋に…?」
「俺は忘れ物取りに行っただけ」
「忘れ物…?」
「DVD。昔依子の部屋で見たヤツ。って言うのは口実で、本当はアイツに『俺依子の部屋入ったことあるんだぜ』って見せつけたかっただけなんだけど。そしたら一緒に来るって言い出して」
「見せつけるって…」
まだ桐嶋にそういう対抗心を持っている大地先輩に、正直少し戸惑う。
「…プロポーズ、受けたんだ?」
大地先輩は私の手に視線を落として言った。
「あ、ハイ」
「俺のは断ったのに?」
「ごめんなさい」
「あいつのこと、許せた?」
「…多分」
「そっか。依子を幸せにできるのは俺しかいないと思ってたのに」
少し寂しげな顔をして、私の左の頬を大地先輩が軽く撫でた。
「近ぇよ!触んな!」
引き戸の隙間から桐嶋がすごい殺気を放ちながら睨んで来る。
「依子も気安く触らせてんじゃねーよ」
大地先輩は余裕のある笑顔を崩さない。
「…依子、過度な束縛はDVだからね。身の危険を感じたらすぐ俺のところに相談においで?いつでもシェルターになってあげる」
「そのまま監禁する気だろ。誰がそんな危ねぇシェルターになんて行くかバーカ」
段々エスカレートしそうな雰囲気にうんざりしながら
「…もう二人ともその辺にして座敷に戻りません?」
と軽く嗜める。
「じゃ、俺先に戻るよ」
と大地先輩は素直に座敷に戻って行った。
「冬馬も戻ろう?」
「もうちょい…」
と真剣な顔で何かを見ている。
「何してるの?」
部屋に入って覗き込むと桐嶋が見ていたのは高校の卒アルだった。
大地先輩に大人しくついて行ったのはこれが目的だったらしい。
「ちょっと…!勝手に!!」
人生で一番沈んでた時代。
貧血、低血圧、寝不足、多分自律神経もやられてて、大体陰気な顔しかしてない。
見せたくなくて、取り上げようとした私の手を簡単に払いのけ、
「…見たい」
と食い入るように見つめる桐嶋に
「…持って帰っていいから」
としか言えなかった。
*
その後の会食は、母の目論見どおり想像していたより和やかな雰囲気で進んだ。
父は終始桐嶋のPCに夢中。
大地先輩は桐嶋が飲めないことに気付いて絡みまくり、
桐嶋はその苛立ちをぶつけるかのように母のお節を平らげていった。
そんな桐嶋を見て母は
「お口にあったみたいで良かったわ」
と満更でもなさそうな様子だった。
病院の時よりは桐嶋に対する悪印象が薄れてくれていると良いんだけど…。
お屠蘇で軽く酔った様子の大地先輩はお昼過ぎにはタクシーで帰って行き、片づけも終わってゆっくり4人でコーヒーを飲んでいた時だった。
「あなた達、初詣は行ったの?」
という母の言葉に顔を見合わせて首を振る。
桐嶋と初詣…。妙に縁遠い響きに感じる。
神も仏も全く信じてなさそう。
「ちゃんと行かなきゃだめよ。お父さんしばらくはあの状態だろうから、今のうちに行きましょう」
だって私たちは色々と普通じゃない。
恋愛に『普通』がないことは分かってるつもりだけど。
それにしても。
再会して強引に車に乗せられて無理矢理キス。
その後すぐに打ち合わせと言う名のプチ旅行。
よく分からないまま体の関係を持ち
その後ようやく告白されて
父に結婚の許可を得て
プロポーズ…
箇条書きしてみたら人様にお披露目できるような馴れ初めが…ない…。
おまけに本当は一番最初にあの事件が来る。
何て答えようか…。
「依子!」
少し大きめの声で母に名前を呼ばれて我に返った。
真実を見極めようとする鋭い母の眼光は鋭さを増している。
「お、お付き合いはしてません」
「え?」
「交際期間なしで、いきなりプロポーズだったから」
ここだけ切り取ればそう不自然ではないはず。
「それってやっぱり………
………依子からなの?」
母の言葉に一瞬耳を疑った。
「な、何でそうなるのよ!?」
「だって桐嶋くんて、結婚なんて一生しなさそうなタイプじゃない?だから依子から結婚を迫ったとばかり…ほら、お父さんに結婚か法科大学院かなんて言われてたし」
「それにしても酷くない!?」
「じゃあまさか…桐嶋くんからなの?あんな見るたびに別の綺麗な女の子連れてた桐嶋くんが、色気も化粧っ気もない依子に?」
「…っっ」
く、悔しいけど言い返せない…!!
そこは親なんだから
『さすが桐嶋くん、見る目があるわね』
とか言ってくれても良いんじゃないだろうか。
「お母さんがどう思おうが、桐嶋が結婚って言い出したの!私じゃありません!!」
母はまだ疑いの眼差しで私を見ている。
「ちゃんと指輪も貰ったし」
「…ガラスなんじゃないの?」
疑い過ぎでしょ…。
こんなやりとりをしつつも専業主婦歴29年の母の手際は良くて、あっと言う間に五人分のお膳の準備が整った。
座敷に戻ると父が子どものように目を輝かせながら桐嶋のノートブックPCを見ていた。
「お父さん、桐嶋さんと大地先輩は?」
「依子!見てみろ!!桐嶋くんが早速うちのリフォームの図面と3Dの間取りシュミレーションを作ってくれたぞ」
「わぁ!本当だ!すごい!!…じゃなくて!!そんなことより二人は?」
「そんなことよりって…依子ならこの図面の素晴らしさが分かると思ったのに」
ディスプレイを抱きしめて拗ねるのは止めて、お父さん。
「あなた、依子が困ってますよ?」
「あぁ…二人なら依子の部屋がどうとか言ってたな。昔来たことあるし、堂本先生が案内してるんじゃないのか」
「ええっ!?何それ。ちょっと見て来ます」
見られて困るようなものは…ないと思う。
私の部屋も桐嶋の部屋と同じで、実家に帰った時に使う程度で普段物置だから。
だけど…
普通勝手に部屋に入らないでしょ!?
デリカシーなさ過ぎ!!
スリッパも履かずに今来た廊下を駆け戻っていたら、私の部屋から大地先輩が出て来た。
「大地先輩、桐嶋は?」
「アイツなら中だよ」
「何で急に私の部屋に…?」
「俺は忘れ物取りに行っただけ」
「忘れ物…?」
「DVD。昔依子の部屋で見たヤツ。って言うのは口実で、本当はアイツに『俺依子の部屋入ったことあるんだぜ』って見せつけたかっただけなんだけど。そしたら一緒に来るって言い出して」
「見せつけるって…」
まだ桐嶋にそういう対抗心を持っている大地先輩に、正直少し戸惑う。
「…プロポーズ、受けたんだ?」
大地先輩は私の手に視線を落として言った。
「あ、ハイ」
「俺のは断ったのに?」
「ごめんなさい」
「あいつのこと、許せた?」
「…多分」
「そっか。依子を幸せにできるのは俺しかいないと思ってたのに」
少し寂しげな顔をして、私の左の頬を大地先輩が軽く撫でた。
「近ぇよ!触んな!」
引き戸の隙間から桐嶋がすごい殺気を放ちながら睨んで来る。
「依子も気安く触らせてんじゃねーよ」
大地先輩は余裕のある笑顔を崩さない。
「…依子、過度な束縛はDVだからね。身の危険を感じたらすぐ俺のところに相談においで?いつでもシェルターになってあげる」
「そのまま監禁する気だろ。誰がそんな危ねぇシェルターになんて行くかバーカ」
段々エスカレートしそうな雰囲気にうんざりしながら
「…もう二人ともその辺にして座敷に戻りません?」
と軽く嗜める。
「じゃ、俺先に戻るよ」
と大地先輩は素直に座敷に戻って行った。
「冬馬も戻ろう?」
「もうちょい…」
と真剣な顔で何かを見ている。
「何してるの?」
部屋に入って覗き込むと桐嶋が見ていたのは高校の卒アルだった。
大地先輩に大人しくついて行ったのはこれが目的だったらしい。
「ちょっと…!勝手に!!」
人生で一番沈んでた時代。
貧血、低血圧、寝不足、多分自律神経もやられてて、大体陰気な顔しかしてない。
見せたくなくて、取り上げようとした私の手を簡単に払いのけ、
「…見たい」
と食い入るように見つめる桐嶋に
「…持って帰っていいから」
としか言えなかった。
*
その後の会食は、母の目論見どおり想像していたより和やかな雰囲気で進んだ。
父は終始桐嶋のPCに夢中。
大地先輩は桐嶋が飲めないことに気付いて絡みまくり、
桐嶋はその苛立ちをぶつけるかのように母のお節を平らげていった。
そんな桐嶋を見て母は
「お口にあったみたいで良かったわ」
と満更でもなさそうな様子だった。
病院の時よりは桐嶋に対する悪印象が薄れてくれていると良いんだけど…。
お屠蘇で軽く酔った様子の大地先輩はお昼過ぎにはタクシーで帰って行き、片づけも終わってゆっくり4人でコーヒーを飲んでいた時だった。
「あなた達、初詣は行ったの?」
という母の言葉に顔を見合わせて首を振る。
桐嶋と初詣…。妙に縁遠い響きに感じる。
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