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嵐 2
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彼女の発言の意味が咄嗟には分からなくて、言葉を失う。
「…なーんてね」
そう言った篠原さんの挑発的な笑顔は、きっと誰が見てもさっきの発言が冗談ではないことを示している。
投げつけられた爆弾にさほど動揺しなかったのは、私の数少ない桐嶋情報の中に女癖が超悪いというものがあったから。
逆に再会してから今日までの間に、この手のトラブルに巻き込まれなかったことが不思議なくらいだ。
当の桐嶋に目をやると、こちらの状況に全く気付かず、都築くんが来るまでPCを開いて仕事を続けていた。
神田くん担当の取引先だし、変に拗らせるのは得策ではない。
今日を凌げば何とかなる、そう言い聞かせて相手をすることにした。
「嫌だなぁ、篠原さん。びっくりするじゃないですか。私、そういう冗談慣れてないんで、どうしようかと思いました」
「あら。ごめんなさいね。でも冬馬の特別になるってことは、こんなことばっかりよ。頑張ってね」
「…ご忠告、ありがとうございます」
あぁ…!疲れる…。
都築くんが合流して始まった桐嶋の誕生日会兼私達の婚約祝い兼神田くんの残念会は、非常に微妙な空気の中進み、最初の予想より随分早いお開きとなった。
いつものとおり飲まなかった桐嶋は、三人を珍しく送って行った。
留守番の私は片付けをした後、一人ゆっくりお風呂に入り、気付くと日付が変わっていた。
遅い…。
メンバーの住んでる場所は近い順に都築くん、神田くん、篠原さん。
この時間はそんなに道も混んでないから往復で1時間もあれば帰れるはず。
なのに、ここを出てもう2時間になる。
『私に返して』
と篠原さんは言った。
私が知ってるのは中学の頃までの桐嶋だけど、以前神田くんから聞いた話によると大学時代も『来る者拒まず』だったと言っていた。
篠原さんとはいつ頃付き合っていたのだろうか。
そもそも二人の関係は終わっているのだろうか。
モヤモヤしていたらスマホが鳴った。
差出人は神田くんから。
「桐嶋さん、戻りました?」
画面にメッセージが浮かんでいる。
「来る者拒まず…か」
と独りごちて、布団に入る。
神田くんに返事もしないまま、目を閉じた。
微睡みかけたところで私の部屋のドアが開いた。
ギシッという音がして私の背中側のマットレスが沈む。
「ただいま」
桐嶋が耳もとで囁いたけど、寝たふりをしたのは、桐嶋が淡く彼女の香りを纏っていたから。
だけど、桐嶋はそんなに甘くない。
突然、グチュッという水音がダイレクトに耳に響いた。
「ひゃあっ」
慌てて跳ね起きて耳に手を当てる。
「寝てる人の耳の穴にいきなり舌入れないでよ!」
「依子が寝たふりするからだろ」
「し、してない!」
「息殺して寝るやつなんていねーよ、バカ」
「…っ。婚約者の寝室に他の女の香り付けて入ってくる人にバカとか言われたくありません!」
私の言葉を聞いて桐嶋は黙ってしまった。
ほら。
やっぱりね。
言い訳もしないんだ。
分かっていたこととは言え、酷く虚しい気持ちになって布団を頭から被る。
早く部屋から出て行って欲しい。
再びギシッとマットレスの音を立てて、桐嶋が立ち上がった。
本当に…ごめんの一言もないわけね。
と、思っていたら一気に布団を剥ぎ取られた。
「責任、取れよ」
私に覆い被さった桐嶋が強く私に押し付けてきた下半身のソレは、既に固くなっている。
いやいや、済ませて来たんじゃないの!?
訳が分からないまま唇を貪られる。
でも、やっぱり香る彼女の匂い。
「…やだってば!!」
「依子…妬いた?」
「妬いてなんかないっ。やめてってば!」
「無理」
「…あっ」
顔を背けたせいで、無防備になったうなじに噛み付かれて思わず声が漏れる。
服を脱いだ桐嶋からは不思議と彼女の香りは全くしなくて、あっという間に快感に酔わされてしまった。
「…ぁっ、あ、冬馬」
「より…こっ、生で中に、全部出し…たぃっ」
「ダ…メっ、んぁっ、ちゃんと…着けて、て!」
「俺ので、中ドロドロにしたい…っ依子?」
「ーーーーっ!」
「キツ過ぎ!…っ!!」
この間まで悩みの種だった件については、ご覧の通りで。
婚約がきっかけなのか、アフターピルのせいで暫く拒み続けたのが原因なのかは定かではないが、桐嶋はちゃんと避妊してくれるようになった。
だけど、一難去ってまた一難。
桐嶋の女癖の悪さをすっかり忘れて婚約したのは完全に私のミスだ。
結婚前から不倫してる男と結婚するなんてどうかしてる。
…結納したわけでも指輪をもらった 訳でもないんだし。
今ならまだなかったことにできるだろうか。
脱ぎ捨てられた他の女の香りの付いた桐嶋の服を横目で見ながら言ってみる。
「婚約…なかったことにする?」
疎ましそうな顔で使用後の避妊具の口を縛っていた桐嶋は、
「…は?」
と物凄く怪訝そうな声を出した。
「なかったことになんてさせるかよ。お前、本当にバカだな」
桐嶋は吐き捨てるようにそう言うと、ゴミ箱に向かってブツを投げ、付け新しい包みを手に取った。
「ちゃんと理解るまで、何回でも教えてやる」
「…なーんてね」
そう言った篠原さんの挑発的な笑顔は、きっと誰が見てもさっきの発言が冗談ではないことを示している。
投げつけられた爆弾にさほど動揺しなかったのは、私の数少ない桐嶋情報の中に女癖が超悪いというものがあったから。
逆に再会してから今日までの間に、この手のトラブルに巻き込まれなかったことが不思議なくらいだ。
当の桐嶋に目をやると、こちらの状況に全く気付かず、都築くんが来るまでPCを開いて仕事を続けていた。
神田くん担当の取引先だし、変に拗らせるのは得策ではない。
今日を凌げば何とかなる、そう言い聞かせて相手をすることにした。
「嫌だなぁ、篠原さん。びっくりするじゃないですか。私、そういう冗談慣れてないんで、どうしようかと思いました」
「あら。ごめんなさいね。でも冬馬の特別になるってことは、こんなことばっかりよ。頑張ってね」
「…ご忠告、ありがとうございます」
あぁ…!疲れる…。
都築くんが合流して始まった桐嶋の誕生日会兼私達の婚約祝い兼神田くんの残念会は、非常に微妙な空気の中進み、最初の予想より随分早いお開きとなった。
いつものとおり飲まなかった桐嶋は、三人を珍しく送って行った。
留守番の私は片付けをした後、一人ゆっくりお風呂に入り、気付くと日付が変わっていた。
遅い…。
メンバーの住んでる場所は近い順に都築くん、神田くん、篠原さん。
この時間はそんなに道も混んでないから往復で1時間もあれば帰れるはず。
なのに、ここを出てもう2時間になる。
『私に返して』
と篠原さんは言った。
私が知ってるのは中学の頃までの桐嶋だけど、以前神田くんから聞いた話によると大学時代も『来る者拒まず』だったと言っていた。
篠原さんとはいつ頃付き合っていたのだろうか。
そもそも二人の関係は終わっているのだろうか。
モヤモヤしていたらスマホが鳴った。
差出人は神田くんから。
「桐嶋さん、戻りました?」
画面にメッセージが浮かんでいる。
「来る者拒まず…か」
と独りごちて、布団に入る。
神田くんに返事もしないまま、目を閉じた。
微睡みかけたところで私の部屋のドアが開いた。
ギシッという音がして私の背中側のマットレスが沈む。
「ただいま」
桐嶋が耳もとで囁いたけど、寝たふりをしたのは、桐嶋が淡く彼女の香りを纏っていたから。
だけど、桐嶋はそんなに甘くない。
突然、グチュッという水音がダイレクトに耳に響いた。
「ひゃあっ」
慌てて跳ね起きて耳に手を当てる。
「寝てる人の耳の穴にいきなり舌入れないでよ!」
「依子が寝たふりするからだろ」
「し、してない!」
「息殺して寝るやつなんていねーよ、バカ」
「…っ。婚約者の寝室に他の女の香り付けて入ってくる人にバカとか言われたくありません!」
私の言葉を聞いて桐嶋は黙ってしまった。
ほら。
やっぱりね。
言い訳もしないんだ。
分かっていたこととは言え、酷く虚しい気持ちになって布団を頭から被る。
早く部屋から出て行って欲しい。
再びギシッとマットレスの音を立てて、桐嶋が立ち上がった。
本当に…ごめんの一言もないわけね。
と、思っていたら一気に布団を剥ぎ取られた。
「責任、取れよ」
私に覆い被さった桐嶋が強く私に押し付けてきた下半身のソレは、既に固くなっている。
いやいや、済ませて来たんじゃないの!?
訳が分からないまま唇を貪られる。
でも、やっぱり香る彼女の匂い。
「…やだってば!!」
「依子…妬いた?」
「妬いてなんかないっ。やめてってば!」
「無理」
「…あっ」
顔を背けたせいで、無防備になったうなじに噛み付かれて思わず声が漏れる。
服を脱いだ桐嶋からは不思議と彼女の香りは全くしなくて、あっという間に快感に酔わされてしまった。
「…ぁっ、あ、冬馬」
「より…こっ、生で中に、全部出し…たぃっ」
「ダ…メっ、んぁっ、ちゃんと…着けて、て!」
「俺ので、中ドロドロにしたい…っ依子?」
「ーーーーっ!」
「キツ過ぎ!…っ!!」
この間まで悩みの種だった件については、ご覧の通りで。
婚約がきっかけなのか、アフターピルのせいで暫く拒み続けたのが原因なのかは定かではないが、桐嶋はちゃんと避妊してくれるようになった。
だけど、一難去ってまた一難。
桐嶋の女癖の悪さをすっかり忘れて婚約したのは完全に私のミスだ。
結婚前から不倫してる男と結婚するなんてどうかしてる。
…結納したわけでも指輪をもらった 訳でもないんだし。
今ならまだなかったことにできるだろうか。
脱ぎ捨てられた他の女の香りの付いた桐嶋の服を横目で見ながら言ってみる。
「婚約…なかったことにする?」
疎ましそうな顔で使用後の避妊具の口を縛っていた桐嶋は、
「…は?」
と物凄く怪訝そうな声を出した。
「なかったことになんてさせるかよ。お前、本当にバカだな」
桐嶋は吐き捨てるようにそう言うと、ゴミ箱に向かってブツを投げ、付け新しい包みを手に取った。
「ちゃんと理解るまで、何回でも教えてやる」
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