forgive and forget

恩田璃星

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不知 1

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 桐嶋との電話の後、麗ちゃんは力技で私と桐嶋の話題に戻して来た。

 突っ込まれてオタオタする内容もあったけど、麗ちゃんと話すことで一人で考えるより自分のことも桐嶋のことも分かったような気になるから不思議だ。

 そんな悲喜交々の時間の終わりを告げたのはセンサーだった。

 「あ。麗ちゃん、ストップ。来た」

 「は?」

 「桐嶋。もうその辺に…」

 そう言いかけると、女性客で賑わうカフェの空気が色めき立つ。

 無駄に目立つなぁ。

 「依子」

 広い店内で、迷う事なく真っ直ぐ私の所に向かって桐嶋が歩いて来た。

 「…もはや超能力ね」

 麗ちゃんの言葉に桐嶋が気付く。

 「何が?」

 「あんた達二人ともよ!」

 「桐嶋も?」

 つい、驚きの声を上げてしまった。

 「『も』って何だ?」

 桐嶋は長い足を組んで私の隣の席に踏ん反り返って座った。
 華やかな桐嶋と麗ちゃんが居るこの席に、周囲の視線が集まって来るのが分かる。

 「あんたさ、祇王寺で依子が集合時間に遅れたそうになったとき、真っ先に見つけて私に居場所教えたわよね」

 麗ちゃんがニヤニヤしながら聞く。


 「…さあ。そんな昔のこと覚えてない」

 「私は思い出したわ。あの修学旅行シーズンで制服姿の学生ごった返す京都であんなに早く見つけられるなんて人間技じゃないわよ。現にこの広い店内で真っ直ぐここに来たじゃない」

 そんなことがあったなんて全然知らなかった。
 …ってことはあの時、あの祇王寺の景色を桐嶋も一緒に見てたのか…。

 「俺のことはいいから、依子の超能力って何だよ」

 「れ、麗ちゃん!言わなくて良いから!」

 「言え、藤原」

 「センサーよ、センサー」

 「…センサー?…」

 「麗ちゃん!!」

 昔、麗ちゃんに聞かれたことがある。
とうやって桐嶋を回避しているのか。
まさかこうして暴露されることになるとは。

 「あんたがある程度近くに来ると、依子は背中がゾワゾワし出すのよ」

 「…ゾワゾワ…」

 「どうせあんたのことだから気付いてたんでしょ」

 え!?気付かれてた?
 ビックリして麗ちゃんと桐嶋の顔を交互に見る。

 「確信はなかったけど、そんなとこだろうとは思ってた」

 「それ使って五十嵐くんの告白邪魔したクセに」

 「うっせ」

 「どうせこれからも依子に近寄る男を排除して行くんでしょ?ちゃんと依子のこと大事にしなさいよ」

 「…何でお前に言われなきゃなんねーんだよ」

 「あんたのせいで依子が隙だらけになっちゃったからよ。知らないわよー。依子モテるんだから」


 麗ちゃんの発言で急に周りの沢山の目が上から下まで見られてるような気になる。

 「れ、麗ちゃん、テキトーなこと言わないで。モテてないから!」

 「後輩くんにガード緩いって言われたってことは、迫られたってことでしょ」

 「後輩?」

 「あんたが来る前は五十嵐くんがベッタリだったわよ」

 「!!出よう!!とりあえずお店出よう!!!」

 慌てて席を立って、二人を引っ張る。
 カフェには一人で来るものだとこの年になって学んだ。

 「お前まだ神田にちょっかい出されてたのか」

 「か、神田くんはちゃんとお断りしたし」

「お断りってことは告白されたの!?その話は聞いてないわよ」

 「俺も聞いてねぇ」

 あぁっ。もう!!

 「あー。依子からかうの面白~。赤くなったり青くなったり」

 「やめてよ麗ちゃん!私で遊ばないで」

 「藤原、そろそろ依子返せ」

 「返すって依子はあんただけのもんじゃないんだからね!たまには私にも貸しなさいよ。じゃないと押し掛けるから」

 そう言うと、麗ちゃんは駅の方に向かって歩き出した。

 「い、一緒に帰らないの?」  
 
と声をかけると、

 「やーよ。桐嶋からあからさまに邪魔者扱いされるのに。また連絡するわー」

と、振り返りもせずに答えた。

 お店の前で取り残されて、急に二人きりの状況に狼狽える。

 「依子」

 「は、はいっ」

 「電話の最後ー」

 ああ、できれば触れないで欲しかった…。

 「呼べって言ったから…それに優子さんが来る前にも呼ばせたじゃない」

 「お前のことだから優子を呼び寄せたら元に戻すと思ってた」

 バレてた…。

 「何で分かるのよ」

 「そういうヤツだろ」

 そういう風に言われると昨日今日の話から『ずっと見てたから』と言われているように感じる。

 「車こっち」

 ごく自然に私の手を握り、ごく自然に指を絡める。

 真横に並んでいるのでどんな表情をしてるのかは分からない。
 知りたければ意識的に見上げなければならず、それをするときっと桐嶋はいつもの涼しい顔に戻ってしまう。

 そんな事を考えながら歩いてると、横断歩道を渡った先にショーウィンドウを見つけた。

 ほんの一瞬。
 そこに映る桐嶋の顔をチラッと盗み見ただけなのに、ガラス越しにバッチリ目が合った。

 「…見んな」

 「ごめんっ」

 反射的に謝ったけど、見てたのは桐嶋も同じじゃない?
 ちょっと酷くない??

 「初めて…」

 「え?」

 「何でもない」

 桐嶋が言ったことの意味も、手を繋いでいたときどんな顔をしてたのかも分からないまま駐車場に着いた。




 
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