forgive and forget

恩田璃星

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集 3

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 その後もずっと麗ちゃんから質問&日本酒責めにされ続け、何を話しても墓穴を掘りそうだったので、のらりくらりとかわしているうちにお開きになった。

 立ち上がると日本酒がかなり効いている。
 酔い覚ましに冷えた空気を吸うために、みんなより一足先にお店の外に出ると、五十嵐くんが一服していた。

 「あ、幹事お疲れ様~」

 ペコッと頭を下げるだけでフラッと来る。

 五十嵐くんは煙草を消すと少し辺りを警戒しながら近寄ってきた。

 「ありがとう。二次会は特に予定してないからここで幹事から解放だよ。良かったら二人で飲み直しに行かない?」

 「や、今日はもう…飲み過ぎちゃって」

 「え?いいじゃん!行こうよ。まだいけるでしょ?」

 そう言って腕を掴まれた。

 いや。もう今日は帰ってお風呂入ってソッコー寝たいんですが。

 五十嵐くんの手を振りほどきたいんだけど、力が入らない。

 どうしよう…。
 昔暗記した日本国憲法の前文でも唱えてみたらドン引きして手、離してくれるかななんて考えていたら、お店からチラホラ人が出て来始めた。

 あ。

 桐嶋。

 と、アレはクラスで一番可愛かった北村さん。
 相変わらずキラキラしてるなぁ。

 二人が腕を絡ませ歩いていくのが視界に入る。
 絵になるなぁ。

 まぁ、昔から来るもの拒まずだもんね。
 遊び相手には苦労してないって言ってたし。
 だから、こんなの見たって驚かない。

 驚かないけど…なんだろ。
 ちょっとだけ胸の奥がちりちりと音を立てている。

 さっきの麗ちゃんの言葉が頭に浮かぶ。

 「男はセックスするためなら『好きだ』とか『愛してる』とか思ってなくても平気で言うんだから」

 なるほどなるほど。




 「あれ?」

 考え事をしていたら、五十嵐くんにバーに連れて来られていた。

 もしかして、神田くんが言ってたガードが緩いってこういうところのことなんだろうか。

 もう一滴も飲めないと思いつつ、折角ここまで来たなら一杯だけ飲もうと思っちゃうのが飲兵衛の悲しい性。

 スッキリしたくて、季節外れのモヒートを頼む。

 「五十嵐くん、ほんっとに眠いからこれ飲んだら帰るね?」

 「まぁまぁ、そんなこと言わずに。さっきは藤原も居たし、まさかの桐嶋まで来ちゃったから全然話せなかったし」

 「何で桐嶋…?」

 「園宮さん、俺が告白したときのこと覚えてないでしょ?」

 こ、これは。
 覚えてないと正直に言って良いんだろうか。

 でもそれってすっごく失礼な話じゃない?

 私だったらそんなの耐えられるだろうか。
 告白した人にそのことすら覚えていてもらえないなんて。

 「アハハ。大丈夫だよ。園宮さんのせいじゃないから」

 五十嵐君は私の表情を汲んで、笑い飛ばしてくれた。

 そして深く息を吐いて話始めた。

 「邪魔が入ったんだよね、あの時」

 「…邪魔?」

 「今日は大丈夫だと思うんだけど。さっき別の子と消えてったし」

 「…もしかして邪魔したのって桐嶋?」

 「当たり」

 「何で桐嶋が邪魔したの?」

 「そりゃあさっき女子たちが騒いでたじゃん。初恋だの、何だの?」

 「いやいやぁ…否定してたよ?」

 「俺はさっき聞いた話と自分がされたこととを照らし合わせて確信したけどね。でもさ、園宮さんは中学の時桐嶋のこと避けてたでしょ」

 「…何で?」

 「てっきり仲良いのかと思って、三年で同じクラスになってから観察してたんだけど…園宮さんって桐嶋が近くにくると超自然にその場から離れてたよね。ねぇ、二人って何かあったの?実は付き合ってたとか?」

 恐るべし五十嵐くん。
 麗ちゃん以外にも私の桐嶋避け能力に気付いた人がいたとは…。

 「いや…単純に嫌いだっただけで」


 「完全に接触を避けてたよね?アレ、どうやってたの?」






 「俺も是非聞きたいね、その話」




 この場で響く筈のない、低い声が荊のように私を縛る。
 少しでも動いたらその棘が容赦なく体にも心にも食い込みそうだ。

 初めて桐嶋が背後に来るまで気付かなかった。
 今まで、反応しなかった事なんて一度もなかったのに。
 そう10年以上経って再開したあの日でさえも。

 だから動揺が酷くて、

 「き、北村さんと一緒じゃなかったの?」

とひっくり返りそうな声を辛うじて抑えた。

 一気に酔いが醒めていく。

 「あんなのテキトーに撒いて来た。お前こそこんなところで何やってんだよ」

 「俺が誘ったんだよ。ていうか…またお前かよ」

 「五十嵐には聞いてねぇ。で?どうやって俺を避けてたワケ?」


 『私には桐嶋センサーがありマス』

 これで納得してもらえる…ワケないか。

 「ていうかお前ら今普通に喋ってるじゃん!どういうこと?やっぱ付き合ってんの?」

 「その話、私も詳しく聞きたいんですけど!!」

 デジャヴを感じて振り返ると今度は麗ちゃんが背後に立っていた。
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