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解放 1
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まだ薬の影響が残っていたのか、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
大地先輩がシャワーを使っている音で目が覚めた。
ベッドから下りようとした時に左手が少し重いことに気が付く。
目をやると、シルバーの手錠が嵌められていた。
もう片方は私の右手ではなく、ロフト部分の階段の手摺に嵌められている。
特注なのか、チェーンの部分がコードリール仕様になっていて、玄関の外以外であればどこでも行けそうだ。
既に許可は得ているので、まだフラつく足で室内を見て回る。
持ってきた鞄の中にスマホは見当たらない。
書斎部分には模範六法からアメリカの州法に関するものまで書棚にギッシリと並んでおり、机にはノートブックPCと今担当している裁判資料と思われる書類が散らばっていた。
「守秘義務違反になるなぁ」
と背後で声がしたのは、私が机上の裁判記録に手を伸ばしかけた時だった。
ビクっとして振り返る。
「大地先輩…外してください」
「いいよ。これにサインしてくれるなら」
すっかり身支度を整え終わっていた大地先輩は、笑顔で紙とペンを差し出して来た。
「…婚姻届…?」
「サインしてすぐ不受理申請するのはナシだよ?」
「大地先輩、私仕事が…」
「依子の気持ちが固まるまで待つよ。でも、それまではうちから出ないで」
そう言い残して、大地先輩は部屋を後にした。
…これはいわゆる『軟禁』というやつでしょうか。
参った。
まさか大地先輩がここまでするなんて。
ドアを開けて騒げば、誰かが助けてくれるとは思う。
だけど、そんなことをすれば確実に騒ぎになって大地先輩が勤める父の事務所にも影響が出てしまう。
…そこまで計算してるわけですね。
実はさっきからスマホといっしょに下着と着てきた服も探しているけど、見つからない。
…私の行動も、全部計算の範囲内なんだろうな。
諦めてシャワーを浴びると、大地先輩のクローゼットから肌触りの良さそうな服をひっぱり出して着た。
ノーブラ。
ノーパン。
元彼シャツ。
自分の間抜けな格好を自嘲しながら、ちょっと肌寒いのでパーカーも拝借して誰もいない部屋の探索をした。
一とおり探索も終わった。
収穫はあったような、なかったような。
テレビを点けるとお昼のワイドショーが始まっていた。
日頃見ない番組を見たことで、いつもは会社に行っている時間だと実感する。
あぁ…無断欠勤なんて人生初だ。せめて会社にだけでも連絡させてもらえば良かった。
人として、社会人として失格だ。
なんて自己嫌悪を爆発させていたら、マンションのエントランスではない方のインターホンが鳴った。
カメラで確認するまでもない。
ドアの向こうから放たれる禍々しい気配が、頼んでもないのにそこに居るのが誰かを告げている。
何?
何で?
困惑しながら鍵を開けて隙間から顔だけ出す。
「…お前、ここで何やってんの?」
大地先輩がシャワーを使っている音で目が覚めた。
ベッドから下りようとした時に左手が少し重いことに気が付く。
目をやると、シルバーの手錠が嵌められていた。
もう片方は私の右手ではなく、ロフト部分の階段の手摺に嵌められている。
特注なのか、チェーンの部分がコードリール仕様になっていて、玄関の外以外であればどこでも行けそうだ。
既に許可は得ているので、まだフラつく足で室内を見て回る。
持ってきた鞄の中にスマホは見当たらない。
書斎部分には模範六法からアメリカの州法に関するものまで書棚にギッシリと並んでおり、机にはノートブックPCと今担当している裁判資料と思われる書類が散らばっていた。
「守秘義務違反になるなぁ」
と背後で声がしたのは、私が机上の裁判記録に手を伸ばしかけた時だった。
ビクっとして振り返る。
「大地先輩…外してください」
「いいよ。これにサインしてくれるなら」
すっかり身支度を整え終わっていた大地先輩は、笑顔で紙とペンを差し出して来た。
「…婚姻届…?」
「サインしてすぐ不受理申請するのはナシだよ?」
「大地先輩、私仕事が…」
「依子の気持ちが固まるまで待つよ。でも、それまではうちから出ないで」
そう言い残して、大地先輩は部屋を後にした。
…これはいわゆる『軟禁』というやつでしょうか。
参った。
まさか大地先輩がここまでするなんて。
ドアを開けて騒げば、誰かが助けてくれるとは思う。
だけど、そんなことをすれば確実に騒ぎになって大地先輩が勤める父の事務所にも影響が出てしまう。
…そこまで計算してるわけですね。
実はさっきからスマホといっしょに下着と着てきた服も探しているけど、見つからない。
…私の行動も、全部計算の範囲内なんだろうな。
諦めてシャワーを浴びると、大地先輩のクローゼットから肌触りの良さそうな服をひっぱり出して着た。
ノーブラ。
ノーパン。
元彼シャツ。
自分の間抜けな格好を自嘲しながら、ちょっと肌寒いのでパーカーも拝借して誰もいない部屋の探索をした。
一とおり探索も終わった。
収穫はあったような、なかったような。
テレビを点けるとお昼のワイドショーが始まっていた。
日頃見ない番組を見たことで、いつもは会社に行っている時間だと実感する。
あぁ…無断欠勤なんて人生初だ。せめて会社にだけでも連絡させてもらえば良かった。
人として、社会人として失格だ。
なんて自己嫌悪を爆発させていたら、マンションのエントランスではない方のインターホンが鳴った。
カメラで確認するまでもない。
ドアの向こうから放たれる禍々しい気配が、頼んでもないのにそこに居るのが誰かを告げている。
何?
何で?
困惑しながら鍵を開けて隙間から顔だけ出す。
「…お前、ここで何やってんの?」
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