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告白 4
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あのキスの後、桐嶋は、私に絡みついたまま眠ってしまった。
さっきのは何だったんだろう。
本心なのか、酔った勢いなのか。
ずっと謝りたかったっということは、多少は罪悪感を抱いていたのか。
「…園宮?何時?」
急に声をかけられて思わずビクっとする。
「よ、4時前。あの…腕離して」
何となく不服そうな顔だったけど私の身体に巻き付けていた腕は解いてくれた。
「…風呂入ってくる」
そう言い残して庭園内の露天風呂の方へ行ってしまった。
寝室からは庭園がよく見える。
もちろん露天風呂も例外ではない。
反射的に顔を背け、布団を被って見えないようにすると、急激な眠気に襲われてあっという間に意識がなくなった。
***
あぁ…朝だ。
アラームか鳴ってる。
寝ぼけた頭で考える。
あと10分は寝れる…。
今日何か朝ごはんあったかな…
…何でこんなに身体が重いの?
!?
目だけを動かして確かめると、私の身体に重みを感じさせているのは桐嶋の身体だった。
しかも桐嶋の目はハッキリと開いていて、随分前から起きていたことが窺える。
今すぐ跳ね除けたい。
だけど、私は超が付くほどの低血圧人間のため寝起きは動けない。
「マジで無理…」
とだけ口走り、彼の存在はないものとしてあと10分の睡眠に走った。
桐嶋が笑いを噛み殺しているらしい体の揺れが不思議と心地良かった。
きっちり10分後、再度アラームが鳴って気合いで目を開ける。
不快な電子音を素早く止めて、まだ圧し掛かっている桐嶋の肢体に構わずに思い切って上半身を起こした。
あぁ…朝の庭園が清々しい。
心なしか桐嶋センサーの感じ方も以前のそれほど不快ではなくなっていた。
あの日桐嶋からされた仕打ちは一生忘れられない。
忘れられるわけがない。
高校に進学してから、保健室に行けなくなった。
ふとした瞬間にあの時のことを思い出して、叫び出しそうになるのを抑えるために、自分で自分の腕を痣になるまで強く掴んだこともある。
何度も何度も生々しい夢も見た。
だけど、そういう時は「あの」後桐嶋に向けて放った「つまんなかった」という言葉を呪文のように繰り返して、自分を保った。
取るに足らない些細なこと。そう言い聞かせたのだ。
女子高だったことも幸いして3年で自分の気持ちを整理して、大学では男の人と付き合ったこともある。
ほとんど忘れかけたタイミングで桐嶋が現れた時は、足元から地面が崩れ去っていくような気持になった。
ただ、昨夜、桐嶋にとってあの出来事は「取るに足らない些細なこと」ではなかったかもしれないと分かったことで、永遠に塞がることのない、心の隅っこで真っ黒に錆びついていた傷口が、ほんのちょっとだけ綺麗になった気がしたのだ。
とても都合の良い解釈をすれば、今朝私に絡みついていたのも、同じ部屋(ベッド)で一晩過ごしても、もう襲わないということを証明してくれたようにも見えた(キスはされたけど)。
朝食を食べたら出社しなくてはならない。
身支度を整えて再度庭園に出て癒されていると、桐嶋が近づいてくる気配がして振り返る。
「…制服じゃないな」
一瞬耳を疑った。
脳内再生して確認。
日本庭園をバックに28歳の男女が制服着てるってコスプレか罰ゲームしかない。
「それさすがに怖いでしょ」
「……」
「やめて。想像しなくていいから」
「…じゃ、改めて仕事よろしく。」
右手を差し出された。
「…よろしくお願いします。」
おずおずとこちらも右手を差し出す。
温かくて少し骨張った手が、キュッと柔らかく私の手を握った
と思ったら急にその手に力を入れて強引に引き寄せると、左手の親指で私の顎を持ち上げ、唇の端から端までをレロッと舐められた。
「…ガッサガサだな」
*
帰りの車内、運転席には両頬に引っ掻き傷のある男。
助手席側後部座席で不貞腐れた顔の女。
私の家に着くまで沈黙は続いた。
さっきのは何だったんだろう。
本心なのか、酔った勢いなのか。
ずっと謝りたかったっということは、多少は罪悪感を抱いていたのか。
「…園宮?何時?」
急に声をかけられて思わずビクっとする。
「よ、4時前。あの…腕離して」
何となく不服そうな顔だったけど私の身体に巻き付けていた腕は解いてくれた。
「…風呂入ってくる」
そう言い残して庭園内の露天風呂の方へ行ってしまった。
寝室からは庭園がよく見える。
もちろん露天風呂も例外ではない。
反射的に顔を背け、布団を被って見えないようにすると、急激な眠気に襲われてあっという間に意識がなくなった。
***
あぁ…朝だ。
アラームか鳴ってる。
寝ぼけた頭で考える。
あと10分は寝れる…。
今日何か朝ごはんあったかな…
…何でこんなに身体が重いの?
!?
目だけを動かして確かめると、私の身体に重みを感じさせているのは桐嶋の身体だった。
しかも桐嶋の目はハッキリと開いていて、随分前から起きていたことが窺える。
今すぐ跳ね除けたい。
だけど、私は超が付くほどの低血圧人間のため寝起きは動けない。
「マジで無理…」
とだけ口走り、彼の存在はないものとしてあと10分の睡眠に走った。
桐嶋が笑いを噛み殺しているらしい体の揺れが不思議と心地良かった。
きっちり10分後、再度アラームが鳴って気合いで目を開ける。
不快な電子音を素早く止めて、まだ圧し掛かっている桐嶋の肢体に構わずに思い切って上半身を起こした。
あぁ…朝の庭園が清々しい。
心なしか桐嶋センサーの感じ方も以前のそれほど不快ではなくなっていた。
あの日桐嶋からされた仕打ちは一生忘れられない。
忘れられるわけがない。
高校に進学してから、保健室に行けなくなった。
ふとした瞬間にあの時のことを思い出して、叫び出しそうになるのを抑えるために、自分で自分の腕を痣になるまで強く掴んだこともある。
何度も何度も生々しい夢も見た。
だけど、そういう時は「あの」後桐嶋に向けて放った「つまんなかった」という言葉を呪文のように繰り返して、自分を保った。
取るに足らない些細なこと。そう言い聞かせたのだ。
女子高だったことも幸いして3年で自分の気持ちを整理して、大学では男の人と付き合ったこともある。
ほとんど忘れかけたタイミングで桐嶋が現れた時は、足元から地面が崩れ去っていくような気持になった。
ただ、昨夜、桐嶋にとってあの出来事は「取るに足らない些細なこと」ではなかったかもしれないと分かったことで、永遠に塞がることのない、心の隅っこで真っ黒に錆びついていた傷口が、ほんのちょっとだけ綺麗になった気がしたのだ。
とても都合の良い解釈をすれば、今朝私に絡みついていたのも、同じ部屋(ベッド)で一晩過ごしても、もう襲わないということを証明してくれたようにも見えた(キスはされたけど)。
朝食を食べたら出社しなくてはならない。
身支度を整えて再度庭園に出て癒されていると、桐嶋が近づいてくる気配がして振り返る。
「…制服じゃないな」
一瞬耳を疑った。
脳内再生して確認。
日本庭園をバックに28歳の男女が制服着てるってコスプレか罰ゲームしかない。
「それさすがに怖いでしょ」
「……」
「やめて。想像しなくていいから」
「…じゃ、改めて仕事よろしく。」
右手を差し出された。
「…よろしくお願いします。」
おずおずとこちらも右手を差し出す。
温かくて少し骨張った手が、キュッと柔らかく私の手を握った
と思ったら急にその手に力を入れて強引に引き寄せると、左手の親指で私の顎を持ち上げ、唇の端から端までをレロッと舐められた。
「…ガッサガサだな」
*
帰りの車内、運転席には両頬に引っ掻き傷のある男。
助手席側後部座席で不貞腐れた顔の女。
私の家に着くまで沈黙は続いた。
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