forgive and forget

恩田璃星

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告白 3

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 その後私は庭園を散策したり、温泉に入ったりして過ごした。

 本当は部屋にも露天風呂が付いててそちらも捨て難かったけど、身の危険を考慮して大浴場の方へ行った。

 桐嶋はPCを持ち込んでいて、仕事をしているようだったのでこちらとしてはかなり気が楽だった。

 そしてお互い切りが良いなというタイミングで食事が運ばれて来た。

 改めて違和感に包まれる。

 スーツのままの桐嶋と、浴衣の私が向かい合って晩御飯食べてる絵。

 でも、お腹ペコペコだし大好きな高級懐石なんて出てくるもんだから、目の前の男は置物だと思って食に専念することにした。

 あぁ。空きっ腹に食前酒がしみる…。
 ビールも進んじゃう。
 メイク落とさなかったらバーでカクテル飲めたかも!

 ん?桐嶋全然飲んでない。

 「もしかして…お酌しろとか言う?」

 「…言わない。必要ない。むしろ絶対飲ませるな」

 …まさか。
 「飲めないの?」

 地雷だったのか氷のような表情で睨まれた。

 下戸だなんて、意外。中学くらいから飲んでそうなイメージなのに。

 弱味を握ったのはちょっといい気分だけど、こちらとしても取引先の社長にアルハラする気はないので一人で楽しく飲み食いを終え、ちょっとだけ残った日本酒を寝る前に飲もうと部屋に備え付けのグラスに入れ変えて、テーブルに置いた。

 寝る前に、少しだけ庭園に出た。
 細い三日月の頼りなげな光が竹の青さを増している。
 幽玄って言うのかな。こういうの。

 桐嶋のことは許せない。
 だけど、この部屋を作り出したという点は見直した。
 まだどうなるか分からないけど、一緒に仕事するのが、ちょっとだけ楽しみになった。

 しばらく庭を楽しんでいたら、風が出て来て肌寒くなって来た。

 桐嶋が寝た後に寝ようと思いながら部屋に入ると、既にベッドに布団もかけずにうつ伏せで横たわっていた。

 ホッと安堵のため息をつき、テーブルに置いておいた日本酒を飲もうとグラスを手に取る。

 ん?ない!空になってる。
 寝る前の楽しみに取っておいたのに!飲みやがった!
 お酒飲めないんじゃなかったの?

 ギッと桐嶋の方をを睨み付ける。

 ここからは靴しか見えない。
 
 あれ?
 靴?履いたまま寝てる??

 どうしようか迷った末、とりあえず近寄って確認してみる。

 やっぱりスーツのまま靴を履いて倒れ込んでいるようにしか見えない。
 よく考えてると、あんなに頑なにお酒を拒否した人が自ら進んで飲んだとは考え難い。水と間違えて飲んだのかな?

 折角の日本酒は残念だったものの、酔い潰れているなら好都合で襲われる心配はなくなったので、とりあえず靴だけは脱がしておいてあげた。

 今日は色々あって疲れたけど、この寝室からも見える庭園に随分心が癒されたなと思いながらベッドの淵に座った。

 ゆっくりと目を閉じ深く息を吸った時だった。

 突然私の体は背中からベッドに倒れこみ、開いた目に映ったのは網代天井だった。
 何が起こったのか分からない。
 硬直した体に桐嶋の息がかかる。

 「園宮…ごめん」

 誰の声か分からないくらい優しい口調に混乱する。
 だって、この部屋には私と桐嶋しかいないのだ。
 でも間違っても桐嶋は私に謝ったりしない。
 そういうヤツなのに。

 「中学の時、無理矢理。ごめん。ほんとごめん。ずっと、ずっと謝りたかった」

 本当に泣きそうな顔をしながら私の頭を優しく撫でて、同じくらい優しく唇を重ねた。微かにしか香ってないのに日本酒の香りで惚けそうになる。

 声を出すこともできなかった。
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