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告白 2
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無機質な音をたてて助手席の窓ガラスが下りる。
不機嫌そうな顔をした桐嶋が
「乗れ」
とだけ言う。
横断歩道の真上で停車しているので、他の歩行者の邪魔になることこの上ない。
周囲の視線も突き刺さる。
仕方なく、そして、性懲りもなく桐嶋の車に乗った。
ただし、今回は助手席側後部座席。
「助手席に乗れ」とは言われていないし、車内では運転席から一番距離のある場所なのでいくらかマシなはず。
桐嶋も特に気に留めていない様子。
車窓を見るとどんどん私の家からは遠ざかっている。
「…どこに行くんですか。桐嶋しゃちょー」
「打ち合わせ」
「…何の?」
「次の案件。神田から聞いてねぇ?」
「聞いたのは、私を担当にしないと傷害罪で訴えるってことだけです。神田くん、K-Design行った足で別の打ち合わせ行っちゃったので…」
そんな話をしていたら、気が付くと高速道路の入り口に差し掛かっている。
「え!?ちょっとどこまでいくの!?私明日も仕事なんだけど!!」
ETCの掲示板が通行許可のサインを出す。
「お前の会社には連絡入れてある。明日午後から出社になるって」
「何勝手なこと!?」
その後、喚く私を完全に無視して、およそ3時間桐嶋が車を走らせた続けてどり着いた先は、最近どんどん事業を拡大している月乃リゾートホテルの一つだった。
いきなりホテルってあり得なくない!?
何考えてんの!?
と、口を開きかけたところで、エントランスに到着し、降りるよう促された。
抵抗しようにもすぐにドアマンがこちらに来てしまったため大人しく桐嶋の後ろをついてホテルへ入った。
顔なじみなのか、フロントの人と軽く挨拶を交わす様子を、ロビーのソファーから眺める目が、『桐嶋のくせに、こんないいホテル使ってるのか。そんでいつも違う女の子連れてるんだろうなー』なんて軽蔑の念のこもった目つきになっていたらしい。
それに気付いたのか
「全然違う」
と言いながら部屋のカードキーでおでこを軽く叩かれた。
ん?
ん??
私のカードキーに書いてある部屋番号と桐嶋のカードキーに書いてある部屋番号同じじゃないですかね?
見間違いですかね?
自分のカードキーと桐嶋のそれに、何度も視線を往復させていると、エレベーター待ちしていた桐嶋に呼ばれた。
「おい、さっさとしろ」
いやいやいや。
部屋に行っちゃったら終わりでしょ?
『何か』あっても「合意の上」にされてしまう。
怖くなって足が床に張り付いたみたいに動かない。
そんな私の様子を苛立ちのこもった目で見て、
「こんな人気のホテル、空きなんてなねーからな。嫌ならロビーで寝ろ」
と言って背を向けた。
いっそ本当にロビーで寝てやろうと踵を返しすと、有能なポーターさんが部屋に案内する気満々の笑顔で、私の荷物を人質のように持って立っていた。
エレベーターは最上階で停止した。
最上階って特別室じゃない?
一泊いくらするの?
誰が宿泊費負担するの?
経費で落ちるの??
頭の中でぐるぐるとこの4つの質問が文字になって踊っている。
だけど、部屋に一歩入ると全部が吹っ飛んだ。
その部屋はホテルの一室とは思えない。
部屋の外に青々とした竹林と柔らかな苔をふんだんに使った庭園が広がっている。
「わぁ…!」
思わず感嘆の声がでた。
中三の修学旅行で訪れた京都を訪れた時、祇王寺でこんなに美しい緑の景色があるのかと見入ってしまってバスの集合時間に遅れそうになったのを思い出した。
部屋の作りは洗練された和モダンで、木と和紙がふんだんに使ってあってるのが印象的。
正直、すっごく私の好きなデザインだ。
つい、夢中になってあちこち見て回ってしまって桐嶋の存在を忘れてしまっていた。
「…感想は?」
急に少し離れた背後から声がかかって飛び跳ねそうになった。
「うわっ!あ、うん。すっごいねこの部屋!」
「…当たり前だろ。この部屋、俺が手掛けたんだから」
「そ、そうなの!?」
そうとは知らずバカ正直に感想を伝えてしまったのがすごく癪だけど、本当にそう思ったのだから仕方ない。
「これからウチの担当をさせるに当たって代表的な仕事として見せるのに手っ取り早いと思って」
あ。
今日初めてまともに顔見た。
相変わらず整った顔つき。顔だけは本当いいんだよな。
だけど、先日私が付けた引っかき傷が痛々しい。
ふと現実を思い出す。
幸いなことにちゃんとベッドは二つある。
同衾は免れそうだ。
ちゃんと仕事のことで来たみたいだし、車の時と同様上手く距離を取ってやり過ごそう。
そう心に誓った。
不機嫌そうな顔をした桐嶋が
「乗れ」
とだけ言う。
横断歩道の真上で停車しているので、他の歩行者の邪魔になることこの上ない。
周囲の視線も突き刺さる。
仕方なく、そして、性懲りもなく桐嶋の車に乗った。
ただし、今回は助手席側後部座席。
「助手席に乗れ」とは言われていないし、車内では運転席から一番距離のある場所なのでいくらかマシなはず。
桐嶋も特に気に留めていない様子。
車窓を見るとどんどん私の家からは遠ざかっている。
「…どこに行くんですか。桐嶋しゃちょー」
「打ち合わせ」
「…何の?」
「次の案件。神田から聞いてねぇ?」
「聞いたのは、私を担当にしないと傷害罪で訴えるってことだけです。神田くん、K-Design行った足で別の打ち合わせ行っちゃったので…」
そんな話をしていたら、気が付くと高速道路の入り口に差し掛かっている。
「え!?ちょっとどこまでいくの!?私明日も仕事なんだけど!!」
ETCの掲示板が通行許可のサインを出す。
「お前の会社には連絡入れてある。明日午後から出社になるって」
「何勝手なこと!?」
その後、喚く私を完全に無視して、およそ3時間桐嶋が車を走らせた続けてどり着いた先は、最近どんどん事業を拡大している月乃リゾートホテルの一つだった。
いきなりホテルってあり得なくない!?
何考えてんの!?
と、口を開きかけたところで、エントランスに到着し、降りるよう促された。
抵抗しようにもすぐにドアマンがこちらに来てしまったため大人しく桐嶋の後ろをついてホテルへ入った。
顔なじみなのか、フロントの人と軽く挨拶を交わす様子を、ロビーのソファーから眺める目が、『桐嶋のくせに、こんないいホテル使ってるのか。そんでいつも違う女の子連れてるんだろうなー』なんて軽蔑の念のこもった目つきになっていたらしい。
それに気付いたのか
「全然違う」
と言いながら部屋のカードキーでおでこを軽く叩かれた。
ん?
ん??
私のカードキーに書いてある部屋番号と桐嶋のカードキーに書いてある部屋番号同じじゃないですかね?
見間違いですかね?
自分のカードキーと桐嶋のそれに、何度も視線を往復させていると、エレベーター待ちしていた桐嶋に呼ばれた。
「おい、さっさとしろ」
いやいやいや。
部屋に行っちゃったら終わりでしょ?
『何か』あっても「合意の上」にされてしまう。
怖くなって足が床に張り付いたみたいに動かない。
そんな私の様子を苛立ちのこもった目で見て、
「こんな人気のホテル、空きなんてなねーからな。嫌ならロビーで寝ろ」
と言って背を向けた。
いっそ本当にロビーで寝てやろうと踵を返しすと、有能なポーターさんが部屋に案内する気満々の笑顔で、私の荷物を人質のように持って立っていた。
エレベーターは最上階で停止した。
最上階って特別室じゃない?
一泊いくらするの?
誰が宿泊費負担するの?
経費で落ちるの??
頭の中でぐるぐるとこの4つの質問が文字になって踊っている。
だけど、部屋に一歩入ると全部が吹っ飛んだ。
その部屋はホテルの一室とは思えない。
部屋の外に青々とした竹林と柔らかな苔をふんだんに使った庭園が広がっている。
「わぁ…!」
思わず感嘆の声がでた。
中三の修学旅行で訪れた京都を訪れた時、祇王寺でこんなに美しい緑の景色があるのかと見入ってしまってバスの集合時間に遅れそうになったのを思い出した。
部屋の作りは洗練された和モダンで、木と和紙がふんだんに使ってあってるのが印象的。
正直、すっごく私の好きなデザインだ。
つい、夢中になってあちこち見て回ってしまって桐嶋の存在を忘れてしまっていた。
「…感想は?」
急に少し離れた背後から声がかかって飛び跳ねそうになった。
「うわっ!あ、うん。すっごいねこの部屋!」
「…当たり前だろ。この部屋、俺が手掛けたんだから」
「そ、そうなの!?」
そうとは知らずバカ正直に感想を伝えてしまったのがすごく癪だけど、本当にそう思ったのだから仕方ない。
「これからウチの担当をさせるに当たって代表的な仕事として見せるのに手っ取り早いと思って」
あ。
今日初めてまともに顔見た。
相変わらず整った顔つき。顔だけは本当いいんだよな。
だけど、先日私が付けた引っかき傷が痛々しい。
ふと現実を思い出す。
幸いなことにちゃんとベッドは二つある。
同衾は免れそうだ。
ちゃんと仕事のことで来たみたいだし、車の時と同様上手く距離を取ってやり過ごそう。
そう心に誓った。
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