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暴かれた秘密 4
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洗顔を終えて時計を見ると、すでに13時を回っていた。
冷たい麦茶と、あり合わせで作った炒飯を持ってダイニングに行くと、さっきまでそこに居た律がいない。
探しに行くと、案の定、私の部屋のソファーで寛いでいる。
「部屋、入らないでって言ったのに」
「今更、何言ってるんだよ。それにしても、建物も広さも違うのに、本家の葵の部屋みたいだな」
「そりゃあ置いてあるものは同じだもん」
言いながら、テーブルに炒飯を並べると、律が目を見開いた。
「何これ?アオが作ったの?」
「そう。うちには好美さんみたいな家政婦さんはいないから。必要に迫られて作ってみたら、結構料理にハマっちゃって」
いただきます、と上品に手を合わせて、綺麗な所作で平らげていく律を眺める。
真田本家にいる時は、焦げる思いを持て余しながら、何万回も見ていた光景。
でも、今は。
目の前にいるのは律なのに、唯人の家で、たった一度だけ一緒に作ったものを食べた記憶が胸を締め付けた。
「普通に美味かったよ」
「良かった。でも、『普通に』は余計じゃない?」
律は、半分も食べられなかった私のお皿をチラリと見たかと思うと、スゥッと息を吸った。
それだけで部屋の空気が変わった。
「アオ、本家に帰るぞ」
「は?」
「ここに居たら、お前干からびて死ぬ」
「そ、そんな訳ないでしょ!?ちゃんと自炊してるんだから!」
「どうせ俺が帰ったら、飯も食べずにメソメソ泣くんだろ?」
「泣かないし、ちゃんと食べるよ」
「現に今だって食べられなかっただろ?俺が一緒に居ても食わないんだ。優さんほとんど家にいないのに、アオが一人でまともに食べるとは思えない」
ああ。やっぱり見られていた。
律はこうやって、いつも私を懐柔する。
でも、譲れない。
自分の気持ちと、律の気持ちを知ってしまった今、律に甘えちゃダメだ。
「一人で大丈夫だよ。それに、私もう…これ以上りっちゃんと一緒にはいられない」
決意とは裏腹に、嫌になるくらいか細い声。
それでも、見る間に律の顔が、苦しそうに歪んでいく。
「何言ってんだよ。俺は一生お前を手放さないって言っただろ?何万時間一緒にいた?たった二ヶ月で、あんな金目当ての男にアオの心奪われたままでいられるかよ」
律が。
あの律が、泣くのかと思った。
一緒に住み始めてからはおろか、子供の時から、律が泣くところなんて一度も見たことがない。
律はいつも完璧で、ちょっと冷めてて。
大人から叱れるようなことも、他人から誹られるようなこともしない。
その律を、私がー。
「もういい、分かった」
私が驚愕している間に、自分を立て直したらしい。
もういつもの律に戻っていた。
「アオが本家に帰らないなら、俺がここに住む」
「は?」
「言葉の通りだ。どこか一部屋開けとけよ。空けないならアオの部屋で寝るから。優さんには俺から言っとく」
「ちょっと待ってよ、りっちゃん!私、りっちゃんとは一緒に居られないって言ってるんだよ!?」
「家から当面の荷物取ってくる」
私の言葉なんて無視して、律は部屋を出て行ってしまった。
どうしよう。
こうなったら律は絶対考えを曲げない。
本家を出る時は、知恵を絞れたけれど、実家に律が住むとなっては、本当に逃げ場がない。
父方の祖父母にはきっと律が手を回す。
母方の祖父母は元々交流がないけれど、既に他界している。
友達を頼っても、一時凌ぎにしかならない。
結局、律に従うしかないと諦めて、律の部屋を準備するために、長年足を踏み入れていないあの部屋へ向かった。
冷たい麦茶と、あり合わせで作った炒飯を持ってダイニングに行くと、さっきまでそこに居た律がいない。
探しに行くと、案の定、私の部屋のソファーで寛いでいる。
「部屋、入らないでって言ったのに」
「今更、何言ってるんだよ。それにしても、建物も広さも違うのに、本家の葵の部屋みたいだな」
「そりゃあ置いてあるものは同じだもん」
言いながら、テーブルに炒飯を並べると、律が目を見開いた。
「何これ?アオが作ったの?」
「そう。うちには好美さんみたいな家政婦さんはいないから。必要に迫られて作ってみたら、結構料理にハマっちゃって」
いただきます、と上品に手を合わせて、綺麗な所作で平らげていく律を眺める。
真田本家にいる時は、焦げる思いを持て余しながら、何万回も見ていた光景。
でも、今は。
目の前にいるのは律なのに、唯人の家で、たった一度だけ一緒に作ったものを食べた記憶が胸を締め付けた。
「普通に美味かったよ」
「良かった。でも、『普通に』は余計じゃない?」
律は、半分も食べられなかった私のお皿をチラリと見たかと思うと、スゥッと息を吸った。
それだけで部屋の空気が変わった。
「アオ、本家に帰るぞ」
「は?」
「ここに居たら、お前干からびて死ぬ」
「そ、そんな訳ないでしょ!?ちゃんと自炊してるんだから!」
「どうせ俺が帰ったら、飯も食べずにメソメソ泣くんだろ?」
「泣かないし、ちゃんと食べるよ」
「現に今だって食べられなかっただろ?俺が一緒に居ても食わないんだ。優さんほとんど家にいないのに、アオが一人でまともに食べるとは思えない」
ああ。やっぱり見られていた。
律はこうやって、いつも私を懐柔する。
でも、譲れない。
自分の気持ちと、律の気持ちを知ってしまった今、律に甘えちゃダメだ。
「一人で大丈夫だよ。それに、私もう…これ以上りっちゃんと一緒にはいられない」
決意とは裏腹に、嫌になるくらいか細い声。
それでも、見る間に律の顔が、苦しそうに歪んでいく。
「何言ってんだよ。俺は一生お前を手放さないって言っただろ?何万時間一緒にいた?たった二ヶ月で、あんな金目当ての男にアオの心奪われたままでいられるかよ」
律が。
あの律が、泣くのかと思った。
一緒に住み始めてからはおろか、子供の時から、律が泣くところなんて一度も見たことがない。
律はいつも完璧で、ちょっと冷めてて。
大人から叱れるようなことも、他人から誹られるようなこともしない。
その律を、私がー。
「もういい、分かった」
私が驚愕している間に、自分を立て直したらしい。
もういつもの律に戻っていた。
「アオが本家に帰らないなら、俺がここに住む」
「は?」
「言葉の通りだ。どこか一部屋開けとけよ。空けないならアオの部屋で寝るから。優さんには俺から言っとく」
「ちょっと待ってよ、りっちゃん!私、りっちゃんとは一緒に居られないって言ってるんだよ!?」
「家から当面の荷物取ってくる」
私の言葉なんて無視して、律は部屋を出て行ってしまった。
どうしよう。
こうなったら律は絶対考えを曲げない。
本家を出る時は、知恵を絞れたけれど、実家に律が住むとなっては、本当に逃げ場がない。
父方の祖父母にはきっと律が手を回す。
母方の祖父母は元々交流がないけれど、既に他界している。
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