社長の×××

恩田璃星

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社長のお味噌汁 1

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 唯人の家のキッチンは予想していた通り最新式だった。

 収納がしやすいスライド収納に、昇降式の吊り戸棚、ビルトイン食洗機、広くて手入れのしやすいシンク。何もかもうちのキッチンと比べて新しく、綺麗。

 今からここで料理ができるのかと思うと、自分が唯人のペースに巻き込まれていることを忘れて、うっとりしてしまいそうになる。

 そしてそこには、さっき私がハ○ズで買ったのとほぼ同じ調理器具がきちんと整頓して並べられていた。

 ギャルソンエプロンを身に付けた唯人の姿はかなり様になっており、元々のスタイルの良さから朝の情報番組で料理コーナーを担当している俳優を彷彿とさせた。

 …言うと調子に乗りそうなので、カッコいいと思ってしまったことは黙っておこう。

 お互いに自分が食べたいメニューを作ることにしていた私たちは、二人でキッチンに立って調理を始めた。

 私は食べたいものというより買ったものを試したい気持ちから、ハンバーグをチョイスした。
 このメニューならさっき買ったピーラーもみじん切り器も使えるからだ。

 ピーラー達の使用感に大満足の私が炒めた玉ねぎ、人参、ピーマン、椎茸の粗熱をとり、挽肉に投入していると、唯人が手元を覗き込んで来た。

 「へぇ、珍しいね。野菜たっぷりのハンバーグか」

 私はタネを捏ねながら、何の気なしにレシピの由来を答えた。

 「そうなんです。これ、真田家の家政婦の好美さんが、昔野菜嫌いだったりっちゃんの為に考えたレシピでー」

 「…りっちゃん?」

 唯人の声がヒヤリと冷たくなった。

 まずいと思った時には既に遅く、唯人は背後から私を囲い込むようにワークトップに両手を着いた。

 唯人の手を振りほどこうにも、私の両手はハンバーグのタネでベトベトになっている使い捨ての手袋がくっついていた。

 「やっぱりまだ…連絡取ってるの?」

 耳にかかる唯人の吐息が擽ったい。

 「と、取ってません。本家にも帰ってません」

 「それは、まだりっちゃんを忘れられないから?」

 耳の近くにあった唯人の唇が、触れるか触れないかの距離でうなじを滑り下りていく。

 「…っ」

 漏れそうになる声を、エプロンの肩ひもを噛んで堪える。

 「…そんなに、好き?」


 左右に頭を振って否定した私の手から、ハンバーグのタネがべチャリと音をたててボウルに落ちた。

 「連絡断たないと戻りたくなるくらい?」

 顔を見なくても、父に挨拶するときでさえ堂々として、余裕綽々だった唯人の声に、嫉妬と不安が混じっているのを感じた。

 私はポリエチレン製の手袋を外してから、唯人の囲いの中でゆっくりと体の向きを変えた。

 「この一ヶ月、本当に全然連絡とってません。こっちからも、向こうからも」

 唯人がいちいち反応するので「りっちゃん」という言葉は使わないでおく。

 「それって、逆に一ヶ月くらい連絡取り合わなくても二人の絆は壊れないって言ってるようにも聞こえる」
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