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もう二度と離れないよう、固く手を握り合ったまま空港を後にする。
タクシーをつかまえ、晴臣が運転手にマンションの住所を伝えた。
夢じゃない。
今日は本当に、一人であの部屋に帰らなくていいんだ。
言いようのない安心感が胸に広がり、私はいつもの調子を取り戻した。
「シンガポールだったっけ?」
「ああ」
「結構忙しかったの?」
「まあな」
なんだかいつも以上に素っ気ない。
けど、それすらも今の私には嬉しくて仕方ない。
離れていた時間を埋めるように、懲りもせずに、会えたら聞こうと思っていた質問をぶつける。
「それにしたって、連絡一つくれないなんて酷くない?光城さんから私が待ってるって聞いてなかったの?」
「総一朗から?…聞いてない」
「嘘…!てっきり伝えてくれてると思ってたのに。だから、ずっと音沙汰ないってことは、もうダメなのかなって、すっごい不安で…」
感情的になりかけたとことで、隣からニュッと伸びてきた手が、私の口を塞いた。
「んぐっ」
「…いいからもうお前は黙っとけ。すみません、そこのコンビニ寄ってください」
言われたとおりタクシーがコンビニで停車すると、晴臣は私を残して一人店へと向かい、程なくして戻ってきた。
「ほら」
手渡されたのは、私の好きなス○バのチョコレートラテ。
これ飲んで家に着くまで黙ってろってこと?
そこまでうるさくしたつもりはないんだけど。
さすがの晴臣も疲れてるのかな?
数時間前までシンガポールだったんだもんね。
無理もないか。
大人しくストローを刺して一口飲むと、チョコレートの濃厚な味と甘みが口いっぱいに広がった。
マンション前にタクシーが停まると、晴臣はスマホで手早く支払いを済ませ、左手に私の手、右手に荷物を取って歩き始めた。
両手の塞がっている晴臣の代わりに、エントランスで私達の部屋専用の暗証番号を入力し、ドアが開くと、晴臣が目を見張った。
「番号…変えてなかったのか…」
指摘されると、無性に照れくさい。
「いつ晴臣が帰ってきても大丈夫なように、ね。結局一緒に帰って来たから、意味なかったけどー」
恥ずかしさを誤魔化そうと明るく笑い飛ばすと、心なしか私の手を握っている手に力が込められた気がした。
けれど、晴臣は短く「…そうか」と言ったきり、押し黙ってしまった。
それ以上、言葉を交わすことなく、エレベーターに乗り、やっと私達の家に辿り着いた。
エントランスと同様、私が鍵を開け、先に中に入る。
手を繋いだままくるりと振り返り、改めて言った。
「おかえり、晴臣」
ドアが完全に閉まり切るよりも早く、晴臣は荷物を玄関に投げ置き、私の体を抱きすくめた。
突然のことに驚き上を向けば、晴臣と目がかち合う。
いつもはどこか冷めている瞳が、燃えるように熱い。
視線を解くことのできないまま、唇が押し重ねられた。
「ただいま、千歳。覚悟はできてるな?」
タクシーをつかまえ、晴臣が運転手にマンションの住所を伝えた。
夢じゃない。
今日は本当に、一人であの部屋に帰らなくていいんだ。
言いようのない安心感が胸に広がり、私はいつもの調子を取り戻した。
「シンガポールだったっけ?」
「ああ」
「結構忙しかったの?」
「まあな」
なんだかいつも以上に素っ気ない。
けど、それすらも今の私には嬉しくて仕方ない。
離れていた時間を埋めるように、懲りもせずに、会えたら聞こうと思っていた質問をぶつける。
「それにしたって、連絡一つくれないなんて酷くない?光城さんから私が待ってるって聞いてなかったの?」
「総一朗から?…聞いてない」
「嘘…!てっきり伝えてくれてると思ってたのに。だから、ずっと音沙汰ないってことは、もうダメなのかなって、すっごい不安で…」
感情的になりかけたとことで、隣からニュッと伸びてきた手が、私の口を塞いた。
「んぐっ」
「…いいからもうお前は黙っとけ。すみません、そこのコンビニ寄ってください」
言われたとおりタクシーがコンビニで停車すると、晴臣は私を残して一人店へと向かい、程なくして戻ってきた。
「ほら」
手渡されたのは、私の好きなス○バのチョコレートラテ。
これ飲んで家に着くまで黙ってろってこと?
そこまでうるさくしたつもりはないんだけど。
さすがの晴臣も疲れてるのかな?
数時間前までシンガポールだったんだもんね。
無理もないか。
大人しくストローを刺して一口飲むと、チョコレートの濃厚な味と甘みが口いっぱいに広がった。
マンション前にタクシーが停まると、晴臣はスマホで手早く支払いを済ませ、左手に私の手、右手に荷物を取って歩き始めた。
両手の塞がっている晴臣の代わりに、エントランスで私達の部屋専用の暗証番号を入力し、ドアが開くと、晴臣が目を見張った。
「番号…変えてなかったのか…」
指摘されると、無性に照れくさい。
「いつ晴臣が帰ってきても大丈夫なように、ね。結局一緒に帰って来たから、意味なかったけどー」
恥ずかしさを誤魔化そうと明るく笑い飛ばすと、心なしか私の手を握っている手に力が込められた気がした。
けれど、晴臣は短く「…そうか」と言ったきり、押し黙ってしまった。
それ以上、言葉を交わすことなく、エレベーターに乗り、やっと私達の家に辿り着いた。
エントランスと同様、私が鍵を開け、先に中に入る。
手を繋いだままくるりと振り返り、改めて言った。
「おかえり、晴臣」
ドアが完全に閉まり切るよりも早く、晴臣は荷物を玄関に投げ置き、私の体を抱きすくめた。
突然のことに驚き上を向けば、晴臣と目がかち合う。
いつもはどこか冷めている瞳が、燃えるように熱い。
視線を解くことのできないまま、唇が押し重ねられた。
「ただいま、千歳。覚悟はできてるな?」
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