上 下
138 / 173

18-4

しおりを挟む
遼平くんは、そんな私を見て少しの間目を丸く見開いた後、ゆっくりと細めた。

「…良かった」

「良かったって、何が!?」

理解不能なセリフが私の怒りを掻き立て、より厳しい口調になる。

「僕の裏切りを、全く気にしてないのかと思っていたから」

遼平くんの顔に浮かんだ見覚えのある、今にも壊れそうなほど優しい笑顔に、ハッとさせられ、少しだけ冷静さを取り戻す。

「今更だけど、今だからこそ言える。僕がちーちゃんの優しさ、素直さ、強さに惹かれたのは嘘じゃなかった。当時の僕は、自分のしていることに対する罪悪感が大きすぎて、それを受け入れることすらできなかったけどね」

ここまで言ってもらえても、卑屈に歪んでしまった私の心は素直に受け止められない。

「…気休めはやめて。私なんか…」

「本当はこんなに傷いていたのに、僕の幸せを願う言葉をかけてくれるほど強くいられたのは、椎名くんがいてくれたからなんでしょう?」

「でも、今は居ないんだもん…」

頑なな私に、遼平くんはため息を吐いたかと思うと、私の頭に手を置き、あやすように撫でた。

「甘えちゃだめだよ。ちーちゃんも彼も生きてるんだから。ちゃんと会いに行って。気持ちを伝えておいで」

声も、私を撫でる手も、とても穏やかで優しいのに。
突然横面を思い切り引っ叩かれたような気がした。

そうだ。
どんなに永美ちゃんを愛していても、遼平くんは、二度とその思いを伝えることができないのに。

自信がないだけで、いつまでもウジウジ悩んでいる私は、遼平くんの目にどれだけ贅沢で傲慢に映っているだろう。

慚愧に堪えなくなり、遂に首を縦に振ると、遼平くんは一層優しく微笑んだ。

「でも…どこに行けばいいか分からないの。連絡先も分からなくて…」

「ああ、それなら空港なんてどうかな?」

ん?
何だろう。
この、急にそらとぼけた感じ。

「…空港?遼平くん、もしかして、何か知ってるの?晴臣の帰国予定とか」

「何も知らないけど…さっき契約更新で会ったときに、光城社長を通して、椎名くんにちょっとした伝言を頼んだだけだよ」

「伝言?」

「そう、伝言」

今度は遼平くんには似つかわしくない、というか、これまで見たことのないような、腹黒そうな笑みを浮かべて言い切った。

「僕の読みでは今日中に帰ってくると思うよ」

「今日!?」

今日の伝言で、今日帰ってくる!?。
遼平くん、一体晴臣に何て言ったの?

伝言の内容がかなり気になりつつ、もう、居ても立っても居られない。

「遼平くん、ごめん!私、行くね!!」

「本当なら空港まで送ってあげたいところだけど、彼のパンチ、なかなかエグいから今日はごめんね」

そう言って、遼平くんは鞄からタクシーチケットを取り出して、私に握らせると、ポンと背中を押した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

【R-18】私を乱す彼の指~お隣のイケメンマッサージ師くんに溺愛されています~【完結】

衣草 薫
恋愛
朋美が酔った勢いで注文した吸うタイプのアダルトグッズが、お隣の爽やかイケメン蓮の部屋に誤配されて大ピンチ。 でも蓮はそれを肩こり用のマッサージ器だと誤解して、マッサージ器を落として壊してしまったお詫びに朋美の肩をマッサージしたいと申し出る。 実は蓮は幼少期に朋美に恋して彼女を忘れられず、大人になって朋美を探し出してお隣に引っ越してきたのだった。 マッサージ師である蓮は大好きな朋美の体を施術と称して愛撫し、過去のトラウマから男性恐怖症であった朋美も蓮を相手に恐怖症を克服していくが……。 セックスシーンには※、 ハレンチなシーンには☆をつけています。

【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎ ——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。 ※連載当時のものです。

【R18】御曹司とスパルタ稽古ののち、蜜夜でとろける

鶴れり
恋愛
「私のこと、たくさん愛してくれたら、自信がつくかも……」 ◆自分に自信のない地味なアラサー女が、ハイスペック御曹司から溺愛されて、成長して幸せを掴んでいく物語◆ 瑛美(えみ)は凡庸で地味な二十九歳。人付き合いが苦手で無趣味な瑛美は、味気ない日々を過ごしていた。 あるとき親友の白無垢姿に感銘を受けて、金曜の夜に着物着付け教室に通うことを決意する。 しかし瑛美の個人稽古を担当する着付け師範は、同じ会社の『締切の鬼』と呼ばれている上司、大和(やまと)だった。 着物をまとった大和は会社とは打って変わり、色香のある大人な男性に……。 「瑛美、俺の彼女になって」 「できなかったらペナルティな」 瑛美は流されるがまま金曜の夜限定の恋人になる。 毎週、大和のスパルタ稽古からの甘い夜を過ごすことになり――?! ※ムーンライトノベルス様にも掲載しております。

若妻シリーズ

笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。 気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。 乳首責め/クリ責め/潮吹き ※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様 ※使用画像/SplitShire様

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【R18】優しい嘘と甘い枷~もう一度あなたと~

イチニ
恋愛
高校三年生の冬。『お嬢様』だった波奈の日常は、両親の死により一変する。 幼なじみで婚約者の彩人と別れなければならなくなった波奈は、どうしても別れる前に、一度だけ想い出が欲しくて、嘘を吐き、彼を騙して一夜をともにする。 六年後、波奈は彩人と再会するのだが……。 ※別サイトに投稿していたものに性描写を入れ、ストーリーを少し改変したものになります。性描写のある話には◆マークをつけてます。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

処理中です...