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少し落ち着きを取り戻し始めた頃、静かな部屋にスマホのバイブ音が鳴り響いた。
ベッドから降り、ドレッサーの椅子に置かれていた鞄を探る。
ディスプレイに表示された相手を見て、一瞬出るのを躊躇ったけれど、通話ボタンをタップした。
「もしもし、千歳ちゃん?」
「…うん」
「…遼平のこと、辛かったね。大丈夫かい?」
「…っ」
父の労りと慰めに胸が締め付けられて、遼平くんとのことは上手く話せない。
「二人の関係を聞いた時、ある程度この結末は予想できていたのに…何の力にもなれないまま、千歳ちゃんを傷つけてしまったね。ごめん」
父の答えによっては、親子関係に決定的な亀裂が生じてしまう。
けれど、どうしても問わなければならない。
「そ…んなふうに謝るってことは、やっぱり私と晴臣の婚約は最初からお父さんの会社の為のものだったの?」
「それは、違う。晴臣と婚約させたのは父さんと晴臣の父の純然たるノリと勢いだ!!」
ノリと勢いを威張って言うのもどうかと思うけど。
「晴臣の母が光越の創業者一族なんて知りもしなかったしね。そんじょそこらの家柄じゃないから、どちらかと言うと周りに隠してたみたいだし。Lotusに力を貸してくれ始めたのは、お前たちが幼稚園の頃くらいだよ」
「…どうして急に?」
「そりゃあ、落ちちゃったからだよ」
「…落ちた?」
「晴臣が、千歳ちゃんに」
いつかeternoの一室で、晴臣に告白されたときのことを思い出す。
たった数ヶ月前の出来事なのに、今とは状況が違いすぎて遠い昔のことのよう。
細く長い記憶の糸をたどれば、確かに、その頃から私を好きだと言っていた。
「でも…今は違う!私達を別れさせるために光越の人間という立場を利用してeternoに無茶な条件付きつけて…『復讐』だって…!!」
受話器の向こうでは父が絶句している。
いくら晴臣を可愛がっていても、今回ばかりはさすがに目が覚めただろうと期待していたら。
今度は深いため息が聞こえて来た。
「何でそっちの方向に行っちゃうんだろうね…アイツは…」
「…そっちってどっち?」
「うーーん。こういうことは第三者が口を挟むと余計拗れるからなあ…晴臣にも怒られそうだし…ただ一つ言えるのは…千歳ちゃんの知っている晴臣は、本当にそんなことするような男なのかってこと」
確かに私の知っている晴臣は、目つきも口も態度も悪いけど、なんだかんだ言いつついつも私を助けてくれていた。
けど、もう変わった。
私が傷つけて変えてしまった。
出かけに見せた冷たい瞳を思い出して何も言えないでいると、父は、
「そろそろ晴臣と真正面から向き合ってやりなさい」
と、言い残して電話を切った。
ベッドから降り、ドレッサーの椅子に置かれていた鞄を探る。
ディスプレイに表示された相手を見て、一瞬出るのを躊躇ったけれど、通話ボタンをタップした。
「もしもし、千歳ちゃん?」
「…うん」
「…遼平のこと、辛かったね。大丈夫かい?」
「…っ」
父の労りと慰めに胸が締め付けられて、遼平くんとのことは上手く話せない。
「二人の関係を聞いた時、ある程度この結末は予想できていたのに…何の力にもなれないまま、千歳ちゃんを傷つけてしまったね。ごめん」
父の答えによっては、親子関係に決定的な亀裂が生じてしまう。
けれど、どうしても問わなければならない。
「そ…んなふうに謝るってことは、やっぱり私と晴臣の婚約は最初からお父さんの会社の為のものだったの?」
「それは、違う。晴臣と婚約させたのは父さんと晴臣の父の純然たるノリと勢いだ!!」
ノリと勢いを威張って言うのもどうかと思うけど。
「晴臣の母が光越の創業者一族なんて知りもしなかったしね。そんじょそこらの家柄じゃないから、どちらかと言うと周りに隠してたみたいだし。Lotusに力を貸してくれ始めたのは、お前たちが幼稚園の頃くらいだよ」
「…どうして急に?」
「そりゃあ、落ちちゃったからだよ」
「…落ちた?」
「晴臣が、千歳ちゃんに」
いつかeternoの一室で、晴臣に告白されたときのことを思い出す。
たった数ヶ月前の出来事なのに、今とは状況が違いすぎて遠い昔のことのよう。
細く長い記憶の糸をたどれば、確かに、その頃から私を好きだと言っていた。
「でも…今は違う!私達を別れさせるために光越の人間という立場を利用してeternoに無茶な条件付きつけて…『復讐』だって…!!」
受話器の向こうでは父が絶句している。
いくら晴臣を可愛がっていても、今回ばかりはさすがに目が覚めただろうと期待していたら。
今度は深いため息が聞こえて来た。
「何でそっちの方向に行っちゃうんだろうね…アイツは…」
「…そっちってどっち?」
「うーーん。こういうことは第三者が口を挟むと余計拗れるからなあ…晴臣にも怒られそうだし…ただ一つ言えるのは…千歳ちゃんの知っている晴臣は、本当にそんなことするような男なのかってこと」
確かに私の知っている晴臣は、目つきも口も態度も悪いけど、なんだかんだ言いつついつも私を助けてくれていた。
けど、もう変わった。
私が傷つけて変えてしまった。
出かけに見せた冷たい瞳を思い出して何も言えないでいると、父は、
「そろそろ晴臣と真正面から向き合ってやりなさい」
と、言い残して電話を切った。
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