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「え…?」

予想もしていなかった。
私と遼平くんが結ばれることが、eternoだけでなくLotusにまで影響を及ぼすなんて。

「当然でしょう?創業者の一族に婚約者としてこんな尻軽女差し出したんだよ?おまけに寝取ったのは子会社の社長なんだから。蓮見のパパが咎められないとでも思ってんの?」

さっきは受け流せていた侮辱的な言葉が、今度は思い切り神経を逆撫でた。

「尻軽なんて…!むしろ晴臣の方が散々…」

「バカね。あんたと椎名くんじゃ立場が違うでしょうが。大体、あっちは遊びで、アンタは大本気マジだし」

立場が…違う?

私と晴臣は、ずっとずっと、婚約者ということを除けば、唯の幼なじみだったはず。
晴臣も、今まで一度だってそんな素振りを見せたことなんてなかった。
私を好きだったと知らされたのですら最近のこと。
どちらかと言えば、晴臣が従者のように私について来ていたくらい。

本当に晴臣は、このことを知っていたのだろうか。

「バカな蓮見にもう一つ…あ、もう二つだけいい事教えてあげる」

これ以上何があると言うの?

今までで一番生き生きとした笑顔の飛鳥先輩に鳥肌がが立つ。

恐怖で耳を塞ごうとしても、手首を掴まれ阻止された。

「厳密に言うと、eternoの光越撤退はまだ確定じゃないらしいわ。契約期限は年末までだから、ギリギリまで協議するみたいよ」

まだ、可能性は0ではない?
予想に反したポジティブな情報に、思わず視線を上げると、そこにはさっきと変わらない飛鳥先輩の笑顔。

ゾッと背中に戦慄が走る。

掴まれていた手を、思い切り振り解いて耳に押し当ててももう遅かった。

「それでね、光越側の交渉担当者、椎名くんなんだって」

絶望的なセリフが、ハッキリと耳に届いてしまった。

図らずも私のせいで晴臣のキャリアに傷をつけてしまったことは、ずっと心に引っかかっていた。

だから、晴臣が光越に転職できていたことは喜ぶべきこと。

どんな形であれ、長年側に居たからこそ、晴臣の有能さは、私が一番知っていたのだから。

ただし、『有能』と評せるのは晴臣が私の味方でいるときに限る。

相対したときの晴臣は、常に戦略的かつ合理的。
おまけに決断も早く、何より冷徹で、絶対に情に流されたりしない。
一言で言えば、一番敵に回したくないタイプ。

本当に私と晴臣の婚約を礎としてLotusを始め関連会社が発展してきたのであればー
本当に晴臣が光越の交渉担当者ならー

Lotusとeternoの大規模な減収減益は避けられない。

目の前が真っ暗になった。

半分放心状態の私を見てせせら笑い、着てきたダウンコートに袖を通して帰り支度を始めた飛鳥先輩を引き止める。

「…最後にもう一つだけ教えてください」

絞り出した声は、自分でも情けなるくらいか細かった。

「何よ?」

「晴臣についての情報はどうやって…?」

往生際の悪い私は、ここまで聞いても尚これまでの話のソースを確認するまで現実を受け入れられなかった。

「ああ、それ?本っ当たまたまなんだけどさー。大学のゼミの友達が光越あっちの人事にいるんだわ」

決定的な答えに、今度こそ声も出せない。

「ごちそうさま♡蓮見のその顔見れて、久々に愉しかったわ」

飛鳥先輩は、テーブルに重ねてあったお見合い写真をひったくってカバンに突っ込み、今度こそ立ち去った。
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