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「……プハッ」

堪えきれずに吹き出してしまった。

「そんな思いつめた顔して何言うのかと思ったら。それ、むしろ一周回ってネガティブだし」

妙にツボに入ってしまって、しばらくの間お腹を抱えて笑ってしまった。

しきり笑い終えたところで我に返る。
真面目なやりとりを笑われ、怒っているかと思って恐る恐る晴臣を見れば、逆に満足そうな表情で私を見つめていた。

「な、何よ?」

「いや。千歳がそんな風に笑うの久々に見たから」

「そう?そんなことないよ」

「あるって。あのひとのこと好きになってから、千歳、いつも苦しそうな顔してたからな」

確かに、遼平くんを想っている間は、楽しさより苦しさの方が圧倒的に勝っていたけれど。

「やだ。そんなに見ないでよ」

「見る。ずっと見てる」

今日何度目か分からない真剣な眼差しに、どれだけ晴臣が私を想ってくれているのかに、突如として気付かされた。
同時に、急に気恥ずかしさを覚えると、誤魔化すように口がペラペラと勝手に動いてしまう。

「で、でも、まあ、晴臣のお陰かもね」

「何が?」

「私が本当に自分を嫌いにならなくて済んだの…道を踏み外さずに済んだのは。誰に気付かれなくても、晴臣にだけはバレて怒られるような気がしてたんだもん。仮にも婚約者だし、潜在的なストッパーになってたのかもね」


私の話を聞いている間に、晴臣の切れ長の目がゆっくりと弧を描いていった。

「おい、仮にもって何だ。失敬な」

口調はふてぶてしいけど、機嫌の良さそうな声。

「そんなこと言われても、お父さん同士が勝手に決めたことだと思ってたし」

「…まあ、千歳の役に立ったならいいか。それに今は『親が勝手に決めた婚約者』から『仮の彼氏』に昇格したし」

今度は、薄い唇が綺麗に弧を描いている。
『仮の彼氏』でそんなに喜ぶなんて。

「それ、昇格なの?」

「うん。二段階昇格並。俺スタートが『友達』以下だったからな」

どこまでもポジティブな晴臣に釣られ、こちらも笑っていたら、晴臣が急に難しい顔になった。

「ああ…でも。『仮』だから許可が要るのは面倒だな」

「何の許可?」

「今無性に千歳にキスしたいんだけど。してもいい?」

「…は?」

突拍子もない発言に、頭がついていかない。

「だから、今めちゃくちゃ千歳にキスしたいから、してもいいかって聞いてるんだけど」

「む、『無性に』の意味くらい分かるわよ!そこじゃなくて!!今まで散々勝手にしておいて何で今更訊くのよ!?」

「だから、俺まだ『仮』だし。無理やりやって、あのひとと同じになりたくない」
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