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最終章 愛しきひとを救う者カナタ

197-約束

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 セツナから敵意を込めた言葉を向けられたエレナは、無言のまま右手を振り上げると、頭上に黒い魔力球を――

『ホーリーランスッ!!』

 ディザイアが遥かに上回る速さで光の槍を投擲とうてきし、頭上のそれを撃ち抜く。
 続けてエレナが何か詠唱を始めようとしたものの、それを遮るようにセツナが語りかけた。

『無駄よ。あなたのスキルで私達に勝つ術はないわ』

『くっ……!』

 続けてセツナは俺へ目を向けると、最も聴きたくない言葉を口にした。

『彼女が言ったとおり、エレナさんの存在理由は世界の侵略……つまり、この世界の終焉のトリガーとなる要因であり、それを阻止するのが私達の使命よ』

「……それは、エレナを殺すという意味か?」

 俺の率直な問いに、セツナの眉間がピクリと動く。

『ええ、貴方の言うとおりよ。それが、私達の存在理由だもの』

「もう一つ質問だけど……最初から知ってたのか?」

 二つ目を問いかけた途端、いきなり表情が陰りを帯びた。

『だったら、あなた達のコトを知る前に全力で殺しに行ってたわ。ホント、見ず知らずの他人のままなら良かったのに』

「そっか」

 どうやらセツナ自身も、この状況に戸惑っているようだ。
 だが、首をぶんぶんと横に振るや否や、吹っ切れた様子で杖を構えた。

『だけどここでやらなきゃ! 私達で……全てを終わらせるッ!!』

 セツナはそう言うと、再び臨戦態勢へ。
 その一方で、エレナは先ほどまでの冷淡な様子から一転。
 全てを諦めたかのようにうなだれていた。

『どうして……どうして、私の願いは……叶わないのですか……』

「!」

 吐き捨てるように呟いたその言葉は、誰に向けた言葉なのか。
 それに彼女は言っていた……『あなたは帰って来なかった』と。


 ――その時、俺の脳裏に一つの可能性が浮かんだ。


 かつて俺は、モンスターの大群の猛攻を突破してエレナを救出した。
 だけど、もしもそうでない・・・・・未来があるならば。
 俺が現れるのを待ち続けた末に、エレナが最後まで救済されなかった未来があるとすれば……!

「まさか君は、たった独りで……二年前に戻った・・・・・・・のか?」

『…………はい』

「ッ!!」

 脳裏に様々な思いが駆け巡る。
 彼女はどんな気持ちで俺を待ち続けたのだろう。
 自身が全ての元凶だと悟った後も、それでも待ち続けたのは……。

「こんなの、迷う理由も無いよな」

『……え』

 俺は再びライトニングダガーを抜いて、エレナへと歩み寄る。
 不安そうに俺を見つめる瞳は、紛れもなく俺の知る彼女の姿と同じ。
 最初から分かってたじゃないか。

『カナタ……さん?』

「ごめん」

 だけど、その言葉はエレナに向けたものではない。
 エレナの正面でくるりと背を向けた俺は、彼女をかばうようにセツナ達へ対峙した。

「ヤズマトで約束したしな。俺はずっと、エレナと一緒に居るって」

『!?』

「どんな状況でも、俺はエレナの味方であることを選ぶよ。たとえ、この世界の全てと敵対したとしても、最後の最後まで」

 自分で言ってて少し気恥ずかしくなり、思わず苦笑してしまう。

『カナタさん!! ……うぅぅ』

 後ろからエレナのすすり泣く声が聞こえるけれど、俺は振り向かずに正面を真っ直ぐに見据える。

『恋は盲目とは言ったものね。正直羨ましいわ』

「いやはや面目ない」

『テメェ、自分がやってるコトの意味わかってんだろうな?』

「ああ」

 そして、魔王四天王 永遠雪のセツナ・闇のディザイアとの戦いが始まろうとしたその時――


【最終フラグが成立しました】
 Process terminationを利用可能です。


「!?」

 いきなり天啓が宙へと現れたかと思った途端、左手が虹色に輝く光に包まれた。
 天啓に書かれているスキル名は、たしか俺が【死の洞窟】のトラップから奪い取ったものだ。
 今まで全く使い方も読み方も分からなかったのに、どうして突然……?

『Process terminationだとッ! どうしてそんなモノがココにッ!!?』

 何故かディザイアが驚愕した様子で声を上げた。

「ぷ、ぷろ? なんだって?」

『馬鹿者! それをこっちに向けるんじゃないッ!!』

 ディザイアの慌てようから察するに、かなり危険なシロモノらしい。
 ところが、前方の二人がギャアギャアと騒いでる最中、背中にふわりと優しい感触が伝わってきた。

「……エレナ?」

『カナタさん、ありがとうございました』

 何故このタイミングでお礼を?
 俺が疑問を口にするよりも早く、エレナは言葉を続けた。

『カナタさんが私を選んでくれたおかげです♪』

「いや、えーっと……」

『私、幸せでした・・・

「ッ!!」

『サツキさんもユピテルさんも、みんな、みんな――』

「まさか、記憶が……!」

 ――直後、唇に感じる柔らかな感触。
 そして、小さな両手が俺の左手をぎゅっと強く握りしめてきた。

『愛しています』

 優しく呟いたエレナの目から一粒の涙がこぼれる。

「エレナッ!!!」

 虹色の光がエレナの全身を包み込んでゆく。
 けれど、彼女の表情はとても幸せそうな笑顔で……。
 
『さようなら――――』







【Process termination】
 プロセス"Elena"を強制消去しました。
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