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第十一章 死の洞窟の案内人 嘘つき少女シエル

163-死の洞窟・攻略前夜

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【聖王歴129年 白の月8日 同日夕刻】

<名もなき集落 小さな宿屋>

「王族いうから心配しとったのに、なんや色物イロモンばっかやん!」

「色物て……」

 自己紹介が終わるや否や、開口一番これである。
 まあ、従者と言いながら、その内訳はシーフに精霊、村娘にエルフに双子妖精ときたもんで。
 騎士すら同伴していないとなれば、確かに王族の従者と言うにはおかしな集団であることは否めない。
 シエルの緊張の糸がぐでぐでに緩むのが一目で分かった。

「それに、そこのオカッパ頭のお嬢にタメ口吐かれても文句言わへんし、姫さんごっつぅ甘ちゃんみたいやしね~」

「オカッパじゃなくてセミボブロング!」

 よく分からないこだわりのあるサツキが抗議の声を上げるのを見て、シエルはケタケタと笑う。
 コイツ、引っ込み思案というよりも、ヒエラルキーに執着してるだけなのでは……?
 だが、プリシア姫は不自然なニコニコ笑顔で、シエルの肩にポンと……いや、ズシンと手を置いてから耳元でささやく。

「サツキちゃんはわたくしの親友ゆえに特別なのです。そして、カナタ様やエレナ様は命の恩人です。単なる庶民ふぜい・・・・・が勘違いしてはダメですよ☆ ……ね?」

「…………ハイ」

 こっわーーー!!
 笑顔なのが余計こっわーーー!!
 シエルはコクコクとプリシア姫の恫喝どうかつに頷きつつ……どうしたことかユピテルとピートの正面に座った。

「なんか、君らにはタメグチ利いても許されそうやわ。さっきも名前出てへんし」

『あ、うん。そうだね……』

『ボクはプリシアの友達なんだけど……』

 返事に困るふたりの姿を見ながら、サツキとプリシア姫は「ほう」と感嘆の声を漏らす。

「あの子、ユピテルのヘタレ感を嗅ぎ取るとは、なかなか見る目あるね」

「確かにピートになら何を言っても大丈夫ですし、人を見る目は確かなようですね。ふたりとも人じゃないですけど」

「その言い方はどうかと思う」

 そんなわけで、姫様に続いてシエルがパーティに臨時参戦したわけだが、前もって一つ確認しておきたいことがある。

「あのさ、シエルは死の洞窟の一番奥を見たことある?」

「えっと……一番奥、です?」

「姫以外には別にその喋り方じゃなくていいから」

 俺の言葉で色々と察したのか、シエルは安心した様子で手をポンと打った。

「……婆さんに一度見せてもろうたけど、グーグー寝とるバケモンがおったくらいやな。アレに近づいたらアカン言われとるし、よそもんを案内するときは行かんようにしとるわ」

「なるほどなあ」

 実はそのバケモンとやらには、勇者パーティも遭遇していた。
 ライナス殿下が死の洞窟第三層でその化け物に向かって【バハムート】と呼んでいたものの、洞窟が崩落すると同時に大岩に潰されて絶命してしまったため、どんなモンスターなのか詳しくは知らなかったりする。

「ていうか、そんな回りくどいこと言ってないでさ。シエルちゃんに、おにーちゃんの日記を見てもらった方が早くない?」

「まあ、そうなんだけどなあ……」

「???」

 あまりにもぶっちゃけすぎなサツキの言葉に脱力しつつも、俺は紙束から数枚を抜き出すと、それをシエルの前に置いた。

「ごめん、ちょっとそれ読んでくれるかな」

「うん? えーっと……」


◇◇


「ウチめっちゃ意味わからんトコで死んどるやんけッ! なんやこの展開はッ!!」

「お、ナイスツッコミ。あたしも正直、犬死ににも程があるとか思ってた!」

『サツキちゃん、その言い方は……』

 さて、一通り読んでもらったところ、シエルはひたすら困惑するばかり……というか、憤慨しながらぼやいている。

「第三層の八の字岩についても書かれとるし、そもそも、そっちのお嬢が日記言うとったけど……それよりっ!」

 シエルがわなわなと震えて拳を握る。

「このシャロン言うクソ女なんなん!? ごっつう腹立つんやけど!! なんでウチがビンタされなアカンのや!! どう考えても※×%¥@&# (あまりにも口汚い罵倒語のため自粛)」

「いや、悪い子じゃないんだよ……そのときは色々あって苦労してたからさ……」

……


 その頃、どこかの魔法学園にて……。

「へっくち!」

「おっ、シャロンちゃん先輩の可愛いクシャミげっとー!!」

「アンタは毎度なに言ってんの……」

「むむむ見える! 見えるす! あーしには水晶玉の向こうに見えるっ! 世界を覆った闇を、八本の光の柱が打ち払う姿がーっ!」

「それアンタの指でしょ……へっくち」

「可愛いクシャミ・アゲイン!」

「うっさいわ!!」


……

 そして、俺達が村に来た理由を一通り説明し終わった頃には、シエルが鼻息荒く憤っていたのも落ち着いていた。
 まだ納得していない様子ではあるものの、本来ならば初対面の俺達が知るはずの無い事柄が日記にいくつも書かれているのを見て、渋々ながら理解は示しているようだ。

「要するに、そこのにーちゃんがウチの死ぬんを見たから、そないならんように~って話なんやな? 知らんけど」

 うーん、なんともドライな反応。

「本当なら、君を連れて行かずに死の洞窟を抜けられるなら、それが一番良いんだけどな……」

 そもそも、シエルに案内させなければ彼女が死ぬことは無かったわけで。
 俺の言葉の意味を察したシエルは、こちらを見てけたけたと笑う。

「村のモンが死の洞窟で死ぬのは日常茶飯事やし、気にしいひんよ。むしろ、ウチとしては一番奥で魔法を使つこうたら死ぬ分かっただけでも、儲けモンやで」

「たくましいなー」

 サツキの反応にニヤリと笑う彼女の姿は、俺の知っている【嘘つきシエル】とは全く真逆の印象を覚える。
 いくらシャロンと馬が合わなかったからとはいえ、最期まで自分の素を隠し通すとは、なんという精神力か。
 ……だけど、俺は改めて想いを口にする。

今度こそ・・・・、君をサイハテの村まで連れて行ってみせるよ」

「!」

 今この場に居るシエルにとっては「今度こそ」なんて言われたところで、まるで他人事であろう。
 それでも俺の表情から言葉の意味を察したのか、彼女は満面の笑みで応えてくれた。

「ありがとな!」
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