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第十章 灼熱の大地と永遠雪のセツナ
143-正義のスーパーヒロイン サツキちゃん参上
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『まーるかいて~、ぴょんぴょんっ♪』
「…………」
なんかスゴいものを見てしまった気がする。
そもそも服装だって、ドワーフの街を襲った時に着ていた純白のドレスではなく、普段着を袖まくりしただけ……いわゆる「完全オフモード」というヤツである。
『ふぃ~。さてさて、今日はこのくらいにしておこうかしら。まったく、こんな暗くて狭くてジメジメした場所にバカでかい魔法陣を書くなんて、何日かかると思ってんだか』
セツナは不満げに独り言を呟くと、それまで魔法陣を描くために使っていた杖をポイと放り投げ……そのまま杖は虹色の光を放ちながら宙に融けて消えた。
背中に大きな翼があったり得体の知れない術を使っている様子を見ても、彼女こそが魔王四天王 永遠雪のセツナに間違いないのだけど……。
「魔王四天王って、いつもおにーちゃんの日記に書いてる内容とギャップがすごくない?」
「なんでだろなぁ」
俺とサツキがぼんやりと眺めている向こうでは、セツナが腰に手を当てながら柔軟体操をしている珍妙な姿が……当然ながら危機感知スキルは無反応です。
エレナも目を細めて眉間にしわを寄せながら怪訝な表情をしている。
『あのひと、魔力はカンストしてますけど防御は完全に紙ですね。たぶん素の状態なら、サツキさんが全力でドロップキックすれば倒せると思います』
「なんてこったい」
闇のディザイアはメギドールのことを『魔王四天王の中でも最弱』と言っていたけれど、ついに『セツナ最弱説』まで出てきてしまった。
まあ実のところ四天王同士で殴り合ったわけじゃないだろうし、いくら防御が弱いと言っても戦闘中は防御結界くらい張るだろうけどさ。
「……つまり、あたしがドロップキックで倒していいってこと?」
「いや、それは危ないからヤメて……」
「ぶーぶー」
ぶーぶーじゃないっての!
しかし、しばらくセツナのクールダウンを監視していたその時、サツキが何かを思いついたのか「あっ」と小さく声を上げた。
「うひひ、あたし良いコト思いついちゃった」
「?」
と、ちょうどそのタイミングでセツナが柔軟体操を終え、先ほどの杖と同じように虹色の光を放ちながら姿を消した。
魔法陣を描いていた主が去って静かになり……サツキの目がギラリと怪しく光った。
◇◇
【聖王歴128年 黒の月 5日】
<ドワーフの街 南西の廃鉱>
『え……?』
セツナが廃鉱に姿を見せるや否や、その手に持っていた杖がカランと音を立てて地面に落ちた。
それもそうだろう、自身が苦労して描いていた作りかけの魔法陣の上に謎のメッセージが刻まれていたのだから。
【謎のメッセージ】
正義のスーパーヒロイン サツキちゃん参上!!!
『だ、誰が一体こんなことを!? ていうかサツキちゃんって誰よッ!!』
ごもっともな疑問である。
ちなみにサツキの初案では『闇のディザイア参上』と書く予定だったらしいのだが、さすがに陰湿すぎるので却下した。
『ううぅ……まさか、ドワーフのガキンチョ共にここが見つかっちゃったのかしら……。こんなトコで失敗するわけにはいかないのにぃ……うっうっ……』
嗚咽を漏らしながら、地面に描かれた魔法陣もろとも落書きを消してゆく。
相当に名残惜しいのか、ときどき手が止まっているのがなんとも印象的だ。
あまりにも悲しそうな姿に、なんだか心が痛い……。
『泣いてる場合じゃないわっ。今日一日かけて二日分を取り戻さなきゃダメよセツナっ! ガキンチョ共がやってきても撃退してやるんだからねっ!!』
セツナは見当違いの犯人に怒りを燃やしながらも、黙々と魔法陣を描き始めた。
昨日のように楽しげに歌うこともなく、ただひたすらに作業は続く……。
だが、地面にゴリゴリと光る線を刻む地味な作業にしびれを切らしたのか、サツキがぐったりした顔で「飽きた~」とか言いやがったうえ、ユピテル&双子妖精を連れて外に出て行ってしまった。
……というわけで、俺とエレナのふたりは身をかがめながら、引き続き地味な作業を眺めております。
『うーん……』
魔法陣をじっと眺めていたエレナが、何やら困った様子で首を傾げた。
「どしたの?」
『いえ、カナタさんが勇者さん達と一緒に来た時、あの魔法陣の術を発動した途端に灼熱の大地が吹雪に包まれたんですよね?』
「ああ。と言っても、実際にそうなったのは俺達がドワーフの城に避難した後だから、その瞬間を直接見たわけじゃないけど」
するとエレナは魔法陣の奇跡を指でなぞりながら、不思議なことを言った。
『あそこに描いてるの、どうやら攻撃じゃなくて探索魔法っぽいんですよねぇ』
「探索魔法???」
『ですです。サツキさんが落書きする前に描かれていたのは、なんだかゴチャゴチャしてて読めなかったんですけど、今度のは丁寧に描いてるのでハッキリ読めますね。ここからドワーフの街の方に向かってサーチして~……って感じですかね』
「うーん……」
エレナの言うとおりであれば、セツナの狙いは『何かを探している』もしくは『誰かを捜している』というコトになる。
今まで四天王をおかしな方法で倒してきたせいで、俺が知っている世界と違う行動をとっているのか。
それとも最初からそれが目的だったのか……?
俺達が新たな謎に困惑していると、それまでガリガリと聞こえてきた音がピタリと止んだ。
『ふぃ~、どうにか二日分を半日でやりきってやったわ……。なにがなんでも十日までには完成させなきゃね』
「『っ!!』」
セツナが汗を拭いながら呟いた言葉に、思わず俺とエレナは顔を見合わせた。
十日……つまり、勇者パーティがこの廃鉱に来た日であり、セツナは最初からその同日に魔法陣の術式を用いて、何かをやろうとしていたということになる。
『さてさて、またガキ共に邪魔されたらイヤだし、今日は一晩じゅう見張らなきゃ』
そう言いながらセツナは空中に手をかざし、キラキラと虹色の光を放ちながら宙に出現したのは――
「寝袋だ……」
『寝袋ですね……』
それから、魔法陣の円の側でセツナがグーグーと寝息を立てるのを見届けた俺達は、それを起こさぬようにコソコソと廃鉱を後にしたのであった……。
「…………」
なんかスゴいものを見てしまった気がする。
そもそも服装だって、ドワーフの街を襲った時に着ていた純白のドレスではなく、普段着を袖まくりしただけ……いわゆる「完全オフモード」というヤツである。
『ふぃ~。さてさて、今日はこのくらいにしておこうかしら。まったく、こんな暗くて狭くてジメジメした場所にバカでかい魔法陣を書くなんて、何日かかると思ってんだか』
セツナは不満げに独り言を呟くと、それまで魔法陣を描くために使っていた杖をポイと放り投げ……そのまま杖は虹色の光を放ちながら宙に融けて消えた。
背中に大きな翼があったり得体の知れない術を使っている様子を見ても、彼女こそが魔王四天王 永遠雪のセツナに間違いないのだけど……。
「魔王四天王って、いつもおにーちゃんの日記に書いてる内容とギャップがすごくない?」
「なんでだろなぁ」
俺とサツキがぼんやりと眺めている向こうでは、セツナが腰に手を当てながら柔軟体操をしている珍妙な姿が……当然ながら危機感知スキルは無反応です。
エレナも目を細めて眉間にしわを寄せながら怪訝な表情をしている。
『あのひと、魔力はカンストしてますけど防御は完全に紙ですね。たぶん素の状態なら、サツキさんが全力でドロップキックすれば倒せると思います』
「なんてこったい」
闇のディザイアはメギドールのことを『魔王四天王の中でも最弱』と言っていたけれど、ついに『セツナ最弱説』まで出てきてしまった。
まあ実のところ四天王同士で殴り合ったわけじゃないだろうし、いくら防御が弱いと言っても戦闘中は防御結界くらい張るだろうけどさ。
「……つまり、あたしがドロップキックで倒していいってこと?」
「いや、それは危ないからヤメて……」
「ぶーぶー」
ぶーぶーじゃないっての!
しかし、しばらくセツナのクールダウンを監視していたその時、サツキが何かを思いついたのか「あっ」と小さく声を上げた。
「うひひ、あたし良いコト思いついちゃった」
「?」
と、ちょうどそのタイミングでセツナが柔軟体操を終え、先ほどの杖と同じように虹色の光を放ちながら姿を消した。
魔法陣を描いていた主が去って静かになり……サツキの目がギラリと怪しく光った。
◇◇
【聖王歴128年 黒の月 5日】
<ドワーフの街 南西の廃鉱>
『え……?』
セツナが廃鉱に姿を見せるや否や、その手に持っていた杖がカランと音を立てて地面に落ちた。
それもそうだろう、自身が苦労して描いていた作りかけの魔法陣の上に謎のメッセージが刻まれていたのだから。
【謎のメッセージ】
正義のスーパーヒロイン サツキちゃん参上!!!
『だ、誰が一体こんなことを!? ていうかサツキちゃんって誰よッ!!』
ごもっともな疑問である。
ちなみにサツキの初案では『闇のディザイア参上』と書く予定だったらしいのだが、さすがに陰湿すぎるので却下した。
『ううぅ……まさか、ドワーフのガキンチョ共にここが見つかっちゃったのかしら……。こんなトコで失敗するわけにはいかないのにぃ……うっうっ……』
嗚咽を漏らしながら、地面に描かれた魔法陣もろとも落書きを消してゆく。
相当に名残惜しいのか、ときどき手が止まっているのがなんとも印象的だ。
あまりにも悲しそうな姿に、なんだか心が痛い……。
『泣いてる場合じゃないわっ。今日一日かけて二日分を取り戻さなきゃダメよセツナっ! ガキンチョ共がやってきても撃退してやるんだからねっ!!』
セツナは見当違いの犯人に怒りを燃やしながらも、黙々と魔法陣を描き始めた。
昨日のように楽しげに歌うこともなく、ただひたすらに作業は続く……。
だが、地面にゴリゴリと光る線を刻む地味な作業にしびれを切らしたのか、サツキがぐったりした顔で「飽きた~」とか言いやがったうえ、ユピテル&双子妖精を連れて外に出て行ってしまった。
……というわけで、俺とエレナのふたりは身をかがめながら、引き続き地味な作業を眺めております。
『うーん……』
魔法陣をじっと眺めていたエレナが、何やら困った様子で首を傾げた。
「どしたの?」
『いえ、カナタさんが勇者さん達と一緒に来た時、あの魔法陣の術を発動した途端に灼熱の大地が吹雪に包まれたんですよね?』
「ああ。と言っても、実際にそうなったのは俺達がドワーフの城に避難した後だから、その瞬間を直接見たわけじゃないけど」
するとエレナは魔法陣の奇跡を指でなぞりながら、不思議なことを言った。
『あそこに描いてるの、どうやら攻撃じゃなくて探索魔法っぽいんですよねぇ』
「探索魔法???」
『ですです。サツキさんが落書きする前に描かれていたのは、なんだかゴチャゴチャしてて読めなかったんですけど、今度のは丁寧に描いてるのでハッキリ読めますね。ここからドワーフの街の方に向かってサーチして~……って感じですかね』
「うーん……」
エレナの言うとおりであれば、セツナの狙いは『何かを探している』もしくは『誰かを捜している』というコトになる。
今まで四天王をおかしな方法で倒してきたせいで、俺が知っている世界と違う行動をとっているのか。
それとも最初からそれが目的だったのか……?
俺達が新たな謎に困惑していると、それまでガリガリと聞こえてきた音がピタリと止んだ。
『ふぃ~、どうにか二日分を半日でやりきってやったわ……。なにがなんでも十日までには完成させなきゃね』
「『っ!!』」
セツナが汗を拭いながら呟いた言葉に、思わず俺とエレナは顔を見合わせた。
十日……つまり、勇者パーティがこの廃鉱に来た日であり、セツナは最初からその同日に魔法陣の術式を用いて、何かをやろうとしていたということになる。
『さてさて、またガキ共に邪魔されたらイヤだし、今日は一晩じゅう見張らなきゃ』
そう言いながらセツナは空中に手をかざし、キラキラと虹色の光を放ちながら宙に出現したのは――
「寝袋だ……」
『寝袋ですね……』
それから、魔法陣の円の側でセツナがグーグーと寝息を立てるのを見届けた俺達は、それを起こさぬようにコソコソと廃鉱を後にしたのであった……。
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