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第九章 東の国の白竜スノウ

115-ホワイトドラゴンの倒し方

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「勇者よ。そなたの活躍を期待していますよ」

「はい。お任せくださいませ女王様」

 カネミツはそう言うと、いつも通り胡散臭い営業スマイルを見せながら謁見の間を後にして……扉が閉まると同時に「ふぅ」と小さな溜め息を吐いた。

 その様子を見て勇者が気を重くしているのかと思ったのか、シディア王子は申し訳なさそうに肩を落とす。

「母が無理なお願いをして、本当に申し訳ありません……」

「いえいえ。救いを求める方へ手を差し伸べるのは、勇者として当然ですから」

 女王リティスが勇者達を呼び出した理由は、想定通りホワイトドラゴンの討伐依頼が目的だった。
 だが、直前にシディア王子がホワイトドラゴンの凶暴性について説いていたにも関わらず、カネミツがあっさりと討伐を引き受けてしまったためか、当の王子様はさっきからずっとしょんぼりしている様子だ。
 というか、一国の女王から討伐を命じられたのだから、たとえ勇者とて「イヤでーす」なんて言えるわけが無いのだけどね。

「うぅぅ……」

 責任の重さに苛まれているのか、半泣き状態のシディア王子がなんだか可哀想になってきたので、少し助け船を出してやるとしよう。

「しかし王子の言っていたとおりホワイトドラゴンの討伐を依頼されちまったけど、どうやって倒すかなー?」

 白々しく問いかけた俺の意図を察したのか、カネミツはやれやれと少し呆れた様子で口を開いた。

「正直なところ、僕達の装備はサンドワームやアイアンアントなど、砂漠のモンスターに特化してる火属性武器ばかりなんだ」

 サンドワームというのは地面に潜る長いヤツ――つまり超デカいミミズで、アイアンアントはエレナのいた聖なる泉を襲撃してきたデカいアリの毒無し版・・・・だ。
 そういった砂漠のモンスターには火属性攻撃が有効ではあるものの、その一方で雪山に住む魔物のほとんどは火属性攻撃がちっとも効かないので、同じ属性であろうホワイトドラゴンへのダメージは期待できそうにない。
 まあ、そんなハンデがありながら一撃でホワイトドラゴンを倒したシャロンが超強かったって話なんだけどさ。

「それに、ドラゴンの鱗は物理攻撃がほとんど通らないらしいからね。だから僕達がホワイトドラゴンの気を逸らしながら、魔法攻撃でダメージを与える方法で行くしかないと思う。討伐が成功するか否かは、シズハやエレナさん頼りになるかもしれない」

「それだったら俺も、エルフ村の騒ぎの後にイフリートを召喚できるようになったんだよ。ホワイトドラゴンを見つけたら、物陰から一発かましてやろうぜ」

 一撃で倒せる確証は無いものの、そこからエレナが追撃で『エターナル・ブリザード・ノヴァ』をぶっ放せば確実に勝てるであろう。
 と、俺が不意打ちによる先制攻撃案を挙げたところ――

「えええええええっ!!!」

 何故かシディア王子が悲鳴を上げた。

「い、イフリートといえば、かつて北にあったとされる砂漠の都を火の海にした、伝説の化け物じゃないですかっ! ど、どうしてあなたがそれを召喚って!?」

 まさかの新事実判明!
 って、そりゃたしかにエルフの村を焼き尽くしたとは聞いていたけど、他に被害に遭った街や村があってもおかしくないもんな。
 そして目を白黒させているシディア王子に対し、カネミツは「フッ」と少しキザったらしく笑うと、俺にチラリと目を向けた。

「彼は封印の解けたイフリートを捕まえて再封印したうえ、自らの配下にしてしまったのです。召喚できるようになったのは初耳ですが、そもそも彼は他にも精霊を……おっと、これ以上はプライバシーに関わる問題だから言わないでおきますね」

「一応お気遣いありがとうって言っておくよ」

 わざとらしく言いやがるカネミツに対し、俺もわざとらしく返してやると、これまた「フッ」と言いつつ笑いをこらえていた。
 やっぱりコイツの性格は本質的に好きになれねえなあ……。

「どちらにせよ、僕達が全員で力を合わせれば確実にホワイトドラゴンを倒せるはずです。シディア王子も、あまり気を落とさないでください」

「……はい」

 だけど、シディア王子はずっと悲しげな顔でうつむいたまま……。
 なんだか、心ここにあらずといった様子で遠くの空を眺めていた。
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