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第九章 東の国の白竜スノウ

111-年の差なんて

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【聖王歴128年 赤の月 30日】

<東方の国 ヤズマト>

「到着ーーーーっ!!」

 サツキがやたら既視感のある言葉を叫びながら一番乗りでピョンと街の門をくぐり、何故か自慢げに振り返る姿を見て苦笑しつつ俺達もそれに続いた。
 街に入って真っ先に目に入ったのは、旅の記録にも書き残していた通り、見渡す限りののどかな田園風景。
 ちょうど収穫の季節なのか、鎌を持った女性達がせっせと働いている姿が印象的だ。

『なんだか静かで良いところですねぇ』

「だなー」

 と、俺達がのんびりと街を眺めていると――


「あああああーーーっ!! ……きゃんっ!?」


 いきなり女の子が大声を上げ、周囲の注目が集まる。
 が、すぐに隣に居た男から頭を小突かれていた。

「街中で大声を上げるものではない。皆を驚かせてしまったでござるよ」

「はーうー」

 そこに居たのは魔法使いの女の子と、独特な口調が特徴的な戦士の男。
 二人組の姿に、サツキが「あ!」と声を上げる。

「あの人達なんか見覚えあるよっ! 名前は覚えてないけど!」

『気持ちは分かるけど、そういうのは本人の前で言わない方が良いと思うんだ』

 ユピテルの言ってる事はごもっとも。
 俺が無言でサツキにチョップを入れるのを見て、勇者パーティの二人組――剣士クニトキと魔法使いシズハは笑った。
 タイミングが合えば勇者パーティと遭遇するかもしれないとは思っていたけれど、まさか到着早々バッタリとは驚きである。

「しかし、お主達と再びヤズマトで会うとはなんたる奇遇。それに弟君と再会できるとなれば、レネット殿も喜ぶでござろう」

『やったあ! ……って姿が見えないけど、レネットねーちゃんと勇者カネミツは別行動かい?』

 確かにユピテルの言うように、今この場に居るのはクニトキとシズハだけで、後の二人の姿が見当たらない。

「うむ。拙者は実家に帰る用事があったのでな。シズハも一緒だったでござるよ」

「実家ってことは、クニトキはここの生まれだったのか」

「うむ」

 確かに独特な口調や出で立ちだとは思っていたけれど、なるほど納得。
 だが、サツキだけは全く異なる点に着目していた。

「シズハさんも一緒ということは……ひょっとして、カレの両親にご挨拶かな!」

 斜め上すぎる見解に、思わず俺とユピテルはずっこけた。

「相変わらずお前は……なんでもかんでも恋バナと結びつけるのヤメれ」

「えー……」

 そもそも俺の知る勇者パーティでは、色恋沙汰なんてこれっぽっちも無かったしな。
 ……ところが再度二人に目を向けると、なんとも言えない空気になっていた。
 こ、これはもしやっ!?

「ま、まあ、そういう用事も、あったかなー……」

「う、うむ」

「おっしゃ当たりィ!」

 まさかの展開に、サツキ以外の全員が驚愕。
 つまり、この二人が実家に挨拶に行くから、カネミツとレネットの方が気を利かせて別行動を……。

「シズハちゃんの方が年下だよねっ、どれくらい歳の差~?」

「じ、十歳差……」

「おー、やるじゃんおじちゃんっ!」

「おじちゃんとは拙者のことでござるかっ!?」

 なんだかなあ。
 そんなこんなで、おかしな方向に話が盛り上がる中、クイクイと服の裾を引っ張られた。
 そちらに視線を向けると、ちょっと不安げな表情のエレナの姿が。

「どしたの?」

『カナタさんっ。……と、歳の差はいくつまで大丈夫だと思いますっ!?』

「ホントにどうしたのさっ!?」

 エレナの唐突な問いかけに困惑していると、サツキのフードからひょっこりと妖精姉妹ハルルとフルルが顔を覗かせてきた。

『クイズ……歳の差なんて……ふふふ』

『カナタっち! ここで選択を誤ると一大事っスよ!』

「そんな重要な問題なの!?」

 唐突過ぎる運命の分岐路|(?)に立たされた俺!
 ていうか、コレはどう答えるのが正解なんだッ!?
 だが、どうすべきか迷う俺を差し置き、ユピテルが『はいはい!』と挙手した。

『カナタにーちゃんっ、そこは年齢なんて関係無いさ! とか答えちゃえば~~って痛あああーーいッッ!? 何するのサツキちゃ――痛っ、ちょっ、痛っ!』

 本人は気を利かせたつもりなユピテルに対し、サツキがノーモーションからのドロップキックをキメて、そのままマウントポジションに持ち込んでいた。
 うん、今回ばかりはナイスだサツキよ、そのままやってヨシ。

『じー……』

 しかし最適解らしき言葉を先に言われてしまい、俺は完全に万事休すだ。
 いや、ユピテルと同じコトを言えば良いのかもしれないけれど、さすがにそれは気が引ける。
 一体どうすれば良い! どうすれば――!!


『えっ、ユピテルちゃんっ!!?』


 そんなよく分からない大ピンチに遭遇し、頭を抱えて悩む俺の後ろから女性の声が響いた。
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