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てぃーぶれーく3
108-モフモフだー
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【アインツとツヴァイ再会の前々日】
<ジェダイト帝国 応接室>
ここはジェダイト帝国。
応接室らしき部屋に連れてこられた私の前には、幼い獣人の姿があった。
『あの、初めまして……』
「あ、はい。はじめまして……」
互いにぎこちなく自己紹介をしたものの、間が持たないまま二人とも黙ってしまう。
……さてさて、一体どういうことなのか。
話を少しさかのぼると、サツキちゃんがアインツ様を連れてくるや否や「ねえねえプリシアちゃんっ。アインツさんとツヴァイさんを再会させてみようよっ。感動の再会って感じ面白そうじゃないっ?」という、やたら軽い一言ながら関係各所との手続きが恐ろしく面倒な提案をしてくれたおかげで、仕事が増大し完全に火の車となっていた。
しかしそんな私に対し、彼女は更なるミッションを与えてきたのである。
曰く――
「ちょっと会わせたい子がいるから、ついてきてっ」
てなわけで、そんな庭先に散歩へ行くような口振りで私が連れて来られたのは、庭先どころか早馬ですら何日もかかるような遠い異国の地。
しかもそこは国交うんぬん以前に、事実上の敵対関係にあるジェダイト帝国だった。
『……』
どうやらこの子がサツキちゃんの言っていた「会わせたい子」のようだが、そもそも何者なのか未だ聞かされていない。
頭の上でピョコンと立った耳が可愛らしく、容姿もなかなかの美人さんなのだが……。
すると、一言二言会話しただけで硬直してしまった私達を見かねたのか、ユピテル君がサツキちゃんをツンツンとつついた。
『これどうすんのさー。二人とも困ってるじゃないか』
「うーん……っていうか硬いよね~。ほーら、りらっくすりらーっくす」
「『はあ』」
思わず目の前の子とハモってしまった。
実は私、獣人の幼子と対面するのは今回が初めてだったりする。
というのも、先も述べたとおり我がプラテナ国とジェダイト帝国とは敵対関係にあるゆえに、互いの交流なんてものはほとんど無かったのだから仕方あるまい。
サツキちゃんの突拍子も無い行動に困惑している様子から察するに、私と似たような感性はあるようで一安心だけども。
「そろそろ、どういうことか教えて頂けませんか?」
私がしびれを切らして説明を求めたところ、サツキちゃんはフムフムと頷く。
なにげに彼女の後ろで妖精さん二人もフムフムと頷いていて、なんとも芸が細かいなあ。
「というわけでこちら、プラテナ国の王女プリシアちゃんですっ」
『へ……って、どえええーーーーっ!?』
目の前の子は目をまん丸に見開くと、変な悲鳴を上げて叫んだ。
どうやら、この子も私が誰なのか聞かされていなかったらしい。
「そしてこちらは、ジェダイト帝国の王子ライカちゃんっ」
「…………はい?」
なんと目の前の可愛らしい美人さんは男の娘だった!
うそっ、こんなに可愛いのにっ!
……って、驚くトコはそこじゃない!!
「え、王子って、えっ、えっ?」
「ライカちゃん自己紹介どうぞっ!」
『えええっ、えっとえーっと。あの、わたしの名前はライカと申します……そちらの国では、こうするのが礼儀でしたっけ』
そんなことを言いながら、ライカ王子はサツキを横目に見ながら頭をペコペコと頭を下げた。
「あ、はっ、はい。えーっと、私もプリシアと……申します」
「はいはい握手ーっ。ちなみに、帝国はコレがお辞儀と同じ意味らしいよー」
そして言われるがままにライカ王子と握手~……って、だからそうじゃなくて!
場のノリに流されそうになりつつも、私は首をブンブンと横に振って気を取り直し、改めてサツキちゃんへ問いかけた。
「いや、そうじゃなくてですね! 私をここへ連れてきて、ライカ王子と対面させた理由を教えて頂けませんかっ!」
「へ? えーっと、帝国の悪いヤツがアインツさんをずっと幽閉してたコトをプリシアちゃん怒ってたじゃん。だから、前にフロスト王国のルルミフおねーちゃんにガツンと言った時みたいに、ちゃんとここに来て言ったらスッキリするかなって」
「いやいやいやスッキリってちょっとっ! サツキちゃんって私をどういう目で見てるんですかっ!?」
『でも、プリシアの暴れ馬っぷりを考えると、そういう目で見られてもおかしくな――いやいや、なんでもないよっ』
私のことを暴れ馬呼ばわりする不届き者をキッと睨んで黙らせつつ、改めて目の前の美人さん……もとい、ライカ王子の方へ目を向ける。
が、何故かそれと同時にビクッと震え、さっきまでピョコンと立っていたはずの耳はふにゃりと垂れ下がってしまった。
それ、なんだかすごく傷つくんですけど……。
『幼いとはいえドラゴンを一言で黙らせるとは……。しかも、フロスト王国の王女を怒鳴っただなんて……。そんな恐ろしい方を怒せてしまった我が国は……うぅぅ』
ああ、泣く顔も可愛らしくて、見てるとなんだかゾクゾク……って、そうじゃなくて!
「ちっ、違いますっ! 彼とは昔からの友人なだけですからねっ!!」
『友人を恫喝して黙らせるってのも、どうかと思うけど』
「ピートぉぉぉぉー!!!」
『ひぇーっ! ごめんよぅーー!! ユピテル助けてーっ!』
『えええっ、なんでオイラを巻き込むのさっ!?』
そして私が無礼者を捕まえて、締め上げていたその時……
『……あははっ』
さっきまで怯えていたはずのライカ王子に笑われてしまった。
ていうかこの子、笑顔もいちいち可愛らしいな!
「うぅ~~。ピートのせいで、はしたない姿を笑われてしまったじゃないですか……」
『えー、ボクのせいなのー???』
私がガクリと肩を落としていると、それを見たライカ王子がさっきの私よりも激しく首をブンブンと横に振り慌てていた。
『わ、わわわわっ。わたしが笑ったのは、はしたなく思ったとかそういうのじゃなくてですねっ!』
「じゃあ、なんなのですかー」
頬を膨らす私に対し、ライカ王子は私たち皆に目を向けて嬉しそうに笑った。
『プラテナの民は酷く排他的で、旅の最中に行き倒れて助けを求めている者ですら、異種族であれば容赦なく見殺しにする……わたしは幼き頃から、そう教えられてきました』
「……そういう価値観の者が居るのは、紛れもない事実ですけどね」
私が中央教会の頑固ジジイ共の顔を思い出しながら少し苛立ちの顔を見せると、ライカ王子は少し困り気味に苦笑する。
『ですが、あなたはそれを良くないと考えているでしょう?』
「ええ。私は幼き頃にピートと出会い、種族の違いなど些細な事であると自らの経験をもって知りましたから。周りに流されるままに偏見に凝り固まり、互いの価値観を許容しない……そんな不埒者は許せません。私はそのような旧来のくだらない価値観を是正し、皆が仲良く暮らせる世界にしたいのです」
『!!』
私の答えを聞いたライカ王子は、驚きに目を見開き耳をピョコンと立てて……いきなり飛びついてきた!
『素晴らしいです素晴らしいです素晴らしいですっ! カナタ先生も素晴らしいですが、プリシア様もステキですーーーっ!!』
「わわっ、えーっと、ありがとうございます、ですかね???」
『皆が仲良く暮らせる世界、素晴らしいです! 微力ながらわたしも協力させて頂きますっ!!』
「は、はあ……」
ライカ王子は私の両手を握ってブンブンを上下に振りながら、まるで懐いた飼い犬のようにすっごいシッポを振っている。
うわあー、モフモフだー……。
『……で、サツキ的には気が済んだかい?』
「うんうん、これでプラテナとジェダイトの未来も安泰だね!」
『えっ、これそういう話っ!?』
ピート達がそんなたわいも無い話をしている最中、私はとりあえず目の前のやたら可愛らしいワンコさんの頭をただただ撫でるのであった……。
<ジェダイト帝国 応接室>
ここはジェダイト帝国。
応接室らしき部屋に連れてこられた私の前には、幼い獣人の姿があった。
『あの、初めまして……』
「あ、はい。はじめまして……」
互いにぎこちなく自己紹介をしたものの、間が持たないまま二人とも黙ってしまう。
……さてさて、一体どういうことなのか。
話を少しさかのぼると、サツキちゃんがアインツ様を連れてくるや否や「ねえねえプリシアちゃんっ。アインツさんとツヴァイさんを再会させてみようよっ。感動の再会って感じ面白そうじゃないっ?」という、やたら軽い一言ながら関係各所との手続きが恐ろしく面倒な提案をしてくれたおかげで、仕事が増大し完全に火の車となっていた。
しかしそんな私に対し、彼女は更なるミッションを与えてきたのである。
曰く――
「ちょっと会わせたい子がいるから、ついてきてっ」
てなわけで、そんな庭先に散歩へ行くような口振りで私が連れて来られたのは、庭先どころか早馬ですら何日もかかるような遠い異国の地。
しかもそこは国交うんぬん以前に、事実上の敵対関係にあるジェダイト帝国だった。
『……』
どうやらこの子がサツキちゃんの言っていた「会わせたい子」のようだが、そもそも何者なのか未だ聞かされていない。
頭の上でピョコンと立った耳が可愛らしく、容姿もなかなかの美人さんなのだが……。
すると、一言二言会話しただけで硬直してしまった私達を見かねたのか、ユピテル君がサツキちゃんをツンツンとつついた。
『これどうすんのさー。二人とも困ってるじゃないか』
「うーん……っていうか硬いよね~。ほーら、りらっくすりらーっくす」
「『はあ』」
思わず目の前の子とハモってしまった。
実は私、獣人の幼子と対面するのは今回が初めてだったりする。
というのも、先も述べたとおり我がプラテナ国とジェダイト帝国とは敵対関係にあるゆえに、互いの交流なんてものはほとんど無かったのだから仕方あるまい。
サツキちゃんの突拍子も無い行動に困惑している様子から察するに、私と似たような感性はあるようで一安心だけども。
「そろそろ、どういうことか教えて頂けませんか?」
私がしびれを切らして説明を求めたところ、サツキちゃんはフムフムと頷く。
なにげに彼女の後ろで妖精さん二人もフムフムと頷いていて、なんとも芸が細かいなあ。
「というわけでこちら、プラテナ国の王女プリシアちゃんですっ」
『へ……って、どえええーーーーっ!?』
目の前の子は目をまん丸に見開くと、変な悲鳴を上げて叫んだ。
どうやら、この子も私が誰なのか聞かされていなかったらしい。
「そしてこちらは、ジェダイト帝国の王子ライカちゃんっ」
「…………はい?」
なんと目の前の可愛らしい美人さんは男の娘だった!
うそっ、こんなに可愛いのにっ!
……って、驚くトコはそこじゃない!!
「え、王子って、えっ、えっ?」
「ライカちゃん自己紹介どうぞっ!」
『えええっ、えっとえーっと。あの、わたしの名前はライカと申します……そちらの国では、こうするのが礼儀でしたっけ』
そんなことを言いながら、ライカ王子はサツキを横目に見ながら頭をペコペコと頭を下げた。
「あ、はっ、はい。えーっと、私もプリシアと……申します」
「はいはい握手ーっ。ちなみに、帝国はコレがお辞儀と同じ意味らしいよー」
そして言われるがままにライカ王子と握手~……って、だからそうじゃなくて!
場のノリに流されそうになりつつも、私は首をブンブンと横に振って気を取り直し、改めてサツキちゃんへ問いかけた。
「いや、そうじゃなくてですね! 私をここへ連れてきて、ライカ王子と対面させた理由を教えて頂けませんかっ!」
「へ? えーっと、帝国の悪いヤツがアインツさんをずっと幽閉してたコトをプリシアちゃん怒ってたじゃん。だから、前にフロスト王国のルルミフおねーちゃんにガツンと言った時みたいに、ちゃんとここに来て言ったらスッキリするかなって」
「いやいやいやスッキリってちょっとっ! サツキちゃんって私をどういう目で見てるんですかっ!?」
『でも、プリシアの暴れ馬っぷりを考えると、そういう目で見られてもおかしくな――いやいや、なんでもないよっ』
私のことを暴れ馬呼ばわりする不届き者をキッと睨んで黙らせつつ、改めて目の前の美人さん……もとい、ライカ王子の方へ目を向ける。
が、何故かそれと同時にビクッと震え、さっきまでピョコンと立っていたはずの耳はふにゃりと垂れ下がってしまった。
それ、なんだかすごく傷つくんですけど……。
『幼いとはいえドラゴンを一言で黙らせるとは……。しかも、フロスト王国の王女を怒鳴っただなんて……。そんな恐ろしい方を怒せてしまった我が国は……うぅぅ』
ああ、泣く顔も可愛らしくて、見てるとなんだかゾクゾク……って、そうじゃなくて!
「ちっ、違いますっ! 彼とは昔からの友人なだけですからねっ!!」
『友人を恫喝して黙らせるってのも、どうかと思うけど』
「ピートぉぉぉぉー!!!」
『ひぇーっ! ごめんよぅーー!! ユピテル助けてーっ!』
『えええっ、なんでオイラを巻き込むのさっ!?』
そして私が無礼者を捕まえて、締め上げていたその時……
『……あははっ』
さっきまで怯えていたはずのライカ王子に笑われてしまった。
ていうかこの子、笑顔もいちいち可愛らしいな!
「うぅ~~。ピートのせいで、はしたない姿を笑われてしまったじゃないですか……」
『えー、ボクのせいなのー???』
私がガクリと肩を落としていると、それを見たライカ王子がさっきの私よりも激しく首をブンブンと横に振り慌てていた。
『わ、わわわわっ。わたしが笑ったのは、はしたなく思ったとかそういうのじゃなくてですねっ!』
「じゃあ、なんなのですかー」
頬を膨らす私に対し、ライカ王子は私たち皆に目を向けて嬉しそうに笑った。
『プラテナの民は酷く排他的で、旅の最中に行き倒れて助けを求めている者ですら、異種族であれば容赦なく見殺しにする……わたしは幼き頃から、そう教えられてきました』
「……そういう価値観の者が居るのは、紛れもない事実ですけどね」
私が中央教会の頑固ジジイ共の顔を思い出しながら少し苛立ちの顔を見せると、ライカ王子は少し困り気味に苦笑する。
『ですが、あなたはそれを良くないと考えているでしょう?』
「ええ。私は幼き頃にピートと出会い、種族の違いなど些細な事であると自らの経験をもって知りましたから。周りに流されるままに偏見に凝り固まり、互いの価値観を許容しない……そんな不埒者は許せません。私はそのような旧来のくだらない価値観を是正し、皆が仲良く暮らせる世界にしたいのです」
『!!』
私の答えを聞いたライカ王子は、驚きに目を見開き耳をピョコンと立てて……いきなり飛びついてきた!
『素晴らしいです素晴らしいです素晴らしいですっ! カナタ先生も素晴らしいですが、プリシア様もステキですーーーっ!!』
「わわっ、えーっと、ありがとうございます、ですかね???」
『皆が仲良く暮らせる世界、素晴らしいです! 微力ながらわたしも協力させて頂きますっ!!』
「は、はあ……」
ライカ王子は私の両手を握ってブンブンを上下に振りながら、まるで懐いた飼い犬のようにすっごいシッポを振っている。
うわあー、モフモフだー……。
『……で、サツキ的には気が済んだかい?』
「うんうん、これでプラテナとジェダイトの未来も安泰だね!」
『えっ、これそういう話っ!?』
ピート達がそんなたわいも無い話をしている最中、私はとりあえず目の前のやたら可愛らしいワンコさんの頭をただただ撫でるのであった……。
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