上 下
99 / 209
第八章 獣の国の王子ライカ

099-対ワイバーン戦!

しおりを挟む
 『最初の魔法陣からはワイバーンが十五匹出現。続けて、二つ目の魔法陣からレッサーデーモンが二十一匹です!』

『なんだとッ!?』

 エレナが自らの眼に映ったそれを口にすると、レパードが思わず声を上げた。
 たしかに彼は『ジェダイト帝国軍遠征隊隊長』という肩書きを持つだけあって、兵を率いて複数のモンスターと乱戦になった経験はあるだろうけども、それはあくまで全員が戦いのエキスパートという条件下でのもの。
 今回のように非戦闘員や子供を含む、わずか数名だけで一度に三十六匹ものモンスター軍団を一度に相手した経験などあるはずもない。
 レパードと同様ライカ王子も一瞬だけ不安そうな表情を見せたものの、すぐに歯を食いしばると、空を見上げながら宣言した。

『たとえ相手がどれほどの軍勢であろうとも、ここでわたし達が食い止めなければ多くの被害が出るのです! アインツ様……宜しくお願い致しますっ』

 王子の勇姿にレパードが泣きそうになっているのを見て少し微笑ましく思いつつも、それを見てアインツも微笑みながら答えた。

「ええ、かしこまりました。……ですが、あの数のモンスターを一度に対処するとなると、かなり高度なスキルを使う必要があります。詠唱に非常に時間がかかるので、それまでどうにか皆で持ちこたえてください」

 だが、アインツがそう言った矢先、俺の危機感知スキルが発動した。


【危機感知】
 範囲攻撃:火属性
 ダメージ大・死亡リスク高


「最初の攻撃が来るぞ!」

 俺が叫んだ直後、上空のワイバーンの群れから一斉に炎弾が放たれた!!
 飛来する炎の塊のひとつひとつが凄まじい破壊力を持っており、直撃すればひとたまりもない。
 かつて見た世界では、この急襲によって帝国の南西エリアが炎に包まれたが――

『セイクリッド・ホーリーシールド!』

『フロスト・エレメンタルシールド!』

 前もって攻撃に備えていたエレナとハルルが巨大な魔力防壁を展開し、その全てを見事に防ぎきった。
 しかし、奇襲攻撃に失敗したにも関わらずワイバーン達は勢いを弱めることなく、真っ直ぐにこちらへと突っ込んでくる!

「さあ、腕の見せどころだよライカちゃん。頑張ってねっ!」

『はいっ!!』

 サツキの声援を受けてライカ王子はくるりと振り返ると、フルルとユピテルに向けて行動指示を始めた。

『フルルさんは先頭集団に範囲魔法を! ユピテルさんはそこから回避したヤツを射抜いてください!』

『がってん……承知』

 『了解!』

 ライカ王子の指示で二人が攻撃を開始すると、それに驚いた数匹が回避のために勢いを弱めた。
 まだ十匹以上が突っ込んでくるものの、王子は空から目を逸らすことなく指示を続ける。

『エレナさんは再び防御魔法をっ。ハルルさんは一時的に防御魔法を緩めて大丈夫ですので、フルルさんと同じように範囲魔法で足止めに注力してください!』

 王子がワイバーンの動きを眼で追いながら次々に追い込んでゆく。
 だが、ついにこちらの攻撃網をくぐり四匹のワイバーンが接近してきた!

『レパードとカナタ先生で応戦お願いします!』

 ライカ王子の指示通り、他のワイバーンが魔法防壁まで到達する直前に俺たち前衛二名が足止めに入る。
 獣人ならではの凄まじい脚力で地を駆けるレパードが最初にワイバーンの眼前まで飛び込むや否や、剣を抜いて初撃の剣技を放った。

『ソードスマイトッ!!』

 レパードの一撃は的確にワイバーンを捉えまず一匹!
 さらに剣の勢いそのままに振り上げ、二匹目のワイバーンも一瞬で光の欠片となって宙へ消える。
 凄まじい剣の威力を前に、他のワイバーン達は方向転換しこちらへと向かってきた。

『そっちに行ったヤツは任せた!』

「あいよっ!」

 俺は地表近くまで接近したワイバーンの直下――影へと向けて投剣を放つ!
 直後、それまで中空を駆けていた巨体が真っ直ぐに地表へと墜落し、周囲に轟音を響かせた。
 もう一匹が今の轟音で俺の影縫いスキルに気づき、すぐに旋回しようとするが……遅いッ!

「バイタルバイド!!」

 先程墜落させた一匹を踏み越えて飛び上がった俺は、腰のライトニングダガーで一閃!
 これでさらに一匹を倒し、残るワイバーンは九匹となった。

「あっ! ワイバーンが逃げていくよっ!」

 急襲に失敗したうえ、未だ一匹も都に到達すらできないままに半数近くが倒された状況にワイバーン連中も相当焦っているらしく、サツキの言うように上空へと急旋回し戻っていった。

『撤退……いや違うっ! エレナさんとハルルさんで再び防御を!!』

 ライカ王子が二人に急いで指示を出した直後、ワイバーンとレッサーデーモンの群れが合流し、総勢三十匹の大集団がこちらへと向かってきた!
 レッサーデーモン達は先程のワイバーンの二のてつを踏まぬよう、四方八方に散りながら旋回しており、範囲魔法の回避も狙っているようだ。
 しかもこいつらの放つ呪い魔法カーシングスピアはその一発一発が異常に威力が高いため、一斉に攻撃を仕掛けてくればこちらの魔法防壁など一瞬にして砕けてしまうだろう。
 だけど王子の顔に絶望の色は無く、彼の表情には仲間を信じるような「強さ」を感じさせる光があった。

『……お願いします!!』

 ライカが祈るように言葉を捧げた先にあったのは、両手を天高く掲げたアインツの姿。
 彼の周囲には巨大な力がうねり、足下からは虹色の光が吹き上がる……。
 そして今ここに「世界で最も力のあるプリースト」の究極の一矢が生まれた――!


「サンクチュアリ・オブ・オリジン!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??

新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

処理中です...