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エクストラステージ ふぇありーていまーず!

083-グランドチャンピオンへの挑戦!

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【聖王歴128年 黄の月 13日】

<魔法都市エメラシティ 弓技大会特設会場>

「おぉ……!」

 スパーンと小気味よい音が響くと、会場からざわめきが上がった。
 長弓から放たれた矢は見事に魔力球オーブの中心を射抜いており、弓手の実力の高さを証明している。

「キャー、ルーク様~!」

「ステキ~ッ!!」

 黄色い声援を受け、ルークと呼ばれた男は長い金髪をかきあげながら、声援をくれた女性達へ微笑んだ。
 特別会場の上で持ち前の弓技を華麗に披露している彼は、十七の時に初優勝してから既に六連勝という大会記録を樹立し、今年も優勝確実と言われる程の凄腕の弓手である。
 グランドチャンピオンであるゆえに決勝スーパーシード枠で参加しており、他の参加者達は彼への挑戦権を得る為のトーナメントに参加しているに等しい。
 つまり今ここで行われている催しも、決勝まで観客を楽しませるための公開演技エキシビションであった。

「今年もルーク様が優勝よっ」

「ね~!」

 彼女達の言うとおり、今年もルークが七度目の優勝という栄誉を手に入れるであろう。
 そう誰もが予想していた。

 ――だが!

「なんだアイツは!?」

「意味わかんねええーーッ!!」

 他の参加者が集まる一般会場では、例年にない騒ぎが起こっていた。
 皆の視線が集中している先に居たのは、凄腕のハンター……ではなく、なんと小柄な少年だった。
 一般会場のまとは特別会場とは違い、大きさによって配色=点数の異なる的が広場に点々と並べられているのだが、少年はその中で最も小さい最高点の的だけを的確に射抜いていたのだ。

「ほーほー、壮観でござるなユピテル殿」

『だから何なのその口調……でもまあ、獣と違って動きを予測しなくても良いし楽なもんだよ』

 一緒にいる少女――サツキの問いに対し、さもありなんと言ってのけたが、それはつまり彼の腕は実戦によって培われた「本物」である事を意味していた。
 この子なら最強のグランドチャンピオンと対等に戦う事ができるのでは?
 会場からはそんな期待の声が上がっており、当然ながらそれはルークの耳にも届いている。

「そこまで!」

 審判の掛け声と同時に選手達が弓を下ろし、最終トーナメントの集計が行われ始めた。
 もっとも、今年に関しては決勝戦に誰が残るのかは結果を見るまでもなく明らかであった。

「今年の弓技大会、グランドチャンピオンへの挑戦権をゲットしたのはなんと、初参加のユピテル君っ! ……それも十二歳での決勝進出は最年少記録だっ!!」

 進行係のアナウンスに、会場から歓声が上がる。
 ユピテルが少し照れた様子で決勝ステージへ行くと、ルークが握手を求めてきた。

「さっきから見させてもらっていたけれど、本当に凄いね。いい試合をしよう」

『う、うんっ!』

 二人は握手を終えるとそれぞれの立ち位置へと移動し、弓を構えた。
 それから進行係がステージへ上がると、観客席へ向けてアナウンスを始めた。

「それではこれより決勝戦を開始しますが、今大会は魔法学校の協力で、決勝戦は高速移動するオーブの中心を見事に射抜いた者を勝者とします!」

 直後、グランドチャンピオンステージ上には目にも留まらぬ速さ……というよりも、目視すら難しいほどに超高速な光球が出現し、ビュンビュンと飛び回り始めた。
 観客は盛り上がっているものの、進行係と審判は何やら微妙な表情をしている。

「……あのー、すみません。これ、予定と違いませんかね?」

 困り顔の審判に話しかけられた魔法学校の女生徒は、しばらく光球をいぶかしげに眺めていたかと思いきや、後頭部を別の女生徒にはたかれてしまった。

「あいたっ!」

「アンタ速度制御式の単位を間違えたでしょっ! あんなの常人が撃ち落とせるわけないでしょうが、バカじゃないのっ!!?」

「ひえーん、ごめんなさい~!」

「うーん、困っちゃったすね……」

 どうやら、決勝戦用の的を制御する魔法を失敗してしまったらしく、女生徒達三人は申し訳なさそうにしている。
 それを見たルークは、苦笑しながらも一つの提案を口にした。

「彼女達も悪気があってやったわけじゃないんだ。それに、こっちの方が盛り上がると思わないかい?」

『そうだねえ……まあ、ここでオイラ達が駄目って言っちゃうと、あの子達も困ってしまうだろうしね。それじゃ、このまま続行ってことで』

 二人の宣言に、会場は再び盛大に盛り上がり。
 両者の合意を得られた事で、進行係は気を取り直して会場へ向けて宣言した。

「それでは、これよりグランドチャンピオン・ルーク対ユピテルの決勝戦を開始します!!」

 ――刹那。

「ウインドアロー!」

 ルークは弓に魔力を込めて、凄まじい勢いの矢を放った!
 惜しくもそれはオーブのほぼ真横を抜け、特設ステージ端の壁面へと突き刺さる。

「オーブが常軌を逸した速さで動くのであれば、それ以上の速さで射貫けば良いまでのこと!」

 彼はそう宣言すると、疾風はやてのごとく矢を放ち始めた。
 決勝戦には矢の使用本数の制限は無いため、早気はやけの方が理論上の勝率は高い。
 見事な弓さばきに女性ファン達の黄色い声援はますます大きくなり、それに伴い盛り上がってゆく。
 一方のユピテルはと言うと……

「おーい少年ー、がんばれ~~」

「何じっとしてんだー?」

 弓を構えたまま、じっと空中を眺めていた。
 ショートボウにつがえた矢はまだ一度も放たれておらず、一点へと定めたまま静止している。
 あまりにも微動だとしないせいで、会場からヤジも飛び始める始末。
 しかしそんなこと気にも留めず、ユピテルは真っ直ぐに向いたまま後ろへ問いかけた。

『サツキちゃん』

「なに?」

『昨日、オイラに向かって一番イイ男になれみたいなこと言ってたけど……今は何位なのさ?』

 その問いにサツキは腕を組んだままウーンウーンと悩む。
 しばらくして答えを思いついたのか、ポンと手を打った。

「ここでてたら暫定一位でいいよ」

『軽っいなあ。しかも暫定だし…………』

 ユピテルは少し不満そうにぼやきつつも、何やら少し満足げに口元を笑みの形にすると――

『オイラの勝ちだ』

「!」

 宣言とともにショートボウから放たれた矢は見事にオーブの中心を射貫き、空中に虹色の光を散らす。

「……」

 会場はしばらく沈黙に包まれ、それから大歓声に包まれた!
 ルークの勝利記録はついに六連勝で打ち止めとなり、新たな勝者が誕生した瞬間であった。

『サツキちゃんの暫定一位、一応頂いておくよ』

「へへへ、やるじゃん~……て、一応ってどういう意味さ!!」

『いだだだだっ! いきなり間接技はヤメてよっ!』

 そのままアームロックをかけられて悶絶するユピテルの姿に会場は笑いに包まれる。
 すると、ルークがゆっくりと近づいて再び握手を求めてきた。

「まったく完敗だ。……あれを一矢いっしてたということは、君はもちろん狙ってやったんだよね?」

『うん。オイラもほとんど見えてなかったけど、ときどき球があそこにいる魔法使いのおねーちゃんの前を通る瞬間があったんだ。たぶん魔力供給の関係だと思うんだけど……』

 ユピテルの言葉にルークは驚きに目を見開くと、小さな肩をバシバシと笑いながら叩いた。

「わははは、君は全く大したヤツだなっ!」

 ……と、そのとき思わぬ事が起こった。

 決してルークに悪意があったわけではないが、偶然にも彼の右手がユピテルのバンダナに当たり、それがほどけて地面に落ちたのだ。
 そして、会場は再び静寂に包まれた……。

 ――いや、これは静寂ではなく絶句だ。

 ルークを破った少年の耳は横に大きく尖り、この街にいる人々とは異なる形をしていた。
 それが示すことはただ一つ。

「君は……エルフ……なのか?」

『!!』

 ルークの問いかけにも答えぬまま、ユピテルは慌てて足下に落ちたバンダナを拾うと、自分の頭を隠しながら走って逃げる……!
 が、周りを見ないで走ったせいかバランスを崩し、サツキに抱きつくような形になってしまった。

『さ、サツキちゃんっ、ゴメンっ!』

「いいっていいって。……でも、これはちょっとマズいかもね」

 観客から彼に向けられる目は奇異を見るそれだ。
 何しろ、この国はようやく「森ドラゴンとの和解」が済んだばかりであり、民の大半はエルフを見たことが無いのだから。
 すると、ようやく状況を理解した観客達から「不正なのでは?」「弓の得意なエルフなら優勝して当然だろう」「エルフ相手なら勝てないのは仕方ない」といった声が漏れ始めてきた。
 だが――!


「ふざけるなッ!!!」


 観客の言葉を打ち消すように、激しい怒りの言葉が響いた。
 声を上げたのは他でもない、ユピテルに敗れたルークその人であった。

「エルフだから勝てなかったのは仕方ないだと……? 訂正しろッ!! それは僕に対する……いや、彼に対しても最大の侮辱だ!!」

 爽やかな笑みが印象的な美形の面影を感じさせない程、烈火のごとくいかる彼の姿に、先ほどまで黄色い声援を上げていた女性ファン達も恐怖に恐れおののいている。

「我が街の者達の無礼、皆に代わって謝罪しよう。大変申し訳ない」

『そ、そんなっ! にーちゃんが頭下げる事無いよっ! 元々オイラが黙って参加してたのが悪いんだからっ!』

 慌てて答えるユピテルに対し、ルークは優しく微笑みながら首を横に振った。

「僕が君に負けたのは、僕が王者という座に長年甘んじたツケが回った……ただそれだけなんだ。君の力は種族がどうとかは関係なく、とても素晴らしかったよ」

『にーちゃん……』

「まさか、こんな小さな子に大切な事を気づかされるなんてね」

 そして、ルークはユピテルの手に勝者のコインを手渡すと、愛用の弓を抱えてステージから降りた。

「僕はこれから修行の旅に出ようと思う。そして一年後、再びこの場所で会おう! 次こそは僕が勝利してみせようっ!!」

 会場へ向けて宣言するルークの勇姿に、再び観客から声援が上がった。
 その姿に、サツキとユピテルはあっけにとられるばかり。

『試合に勝って勝負に負けるって、こういうのを言うんだろうなあ……』

「ユピテルにもあのくらいカリスマ性があれば、モテモテだろうになあ」

『オイラはモテモテじゃなくていいや……』

「あはは、絶対そう言うと思ってたけどね~」

 サツキはそう言うと、ユピテルの深緑色の髪を優しく撫でた。
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