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第七章 中央教会の聖女コロン

076-明かされた真実

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「そんじゃ、久しぶりに神様にケンカ売らせてもらうとしますかね!!」

 俺がそう宣言すると、中央教会の信者達がざわつき始めた。
 ……あっ! 勢いに乗ったとはいえ、久しぶりにケンカとか言っちゃったのはさすがにマズかったか!?
 これ、もしかして後で異端審問いたんしんもんにかけられてしまうのではなかろうか……。
 と、俺がそんな心配をしていると、コロンが涙をポロポロと流しながら飛びついてきた!

「ううぅぅー……良かったぁーー! お二人が捕まって牢屋に閉じこめられたって聞いて、本当に心配してたんですよぅぅーーーー!!! うえーーーんっ!!」

 こんな切羽詰まった状況にも関わらず、俺とエレナの心配をしてくれるコロンの姿に、何だか微笑ましいやら嬉しいやら。

「あはは、心配かけてゴメンな。こっちも色々と事情があったんだよ。まあ、実際には俺も騙されてたんだけど……敵を欺くにはまず味方からってヤツかな」

 俺がそう言いながらライナス殿下に目を向けると、黒幕ツヴァイが妙に胡散臭い笑顔でこちらに敵意を放ってきた。

『なるほど。ライナス殿は最初から私の邪魔をするつもりだったのですね』

 だが、当のライナス殿下はアシッドブレスの一撃でボロボロに砕けた鎧を投げ捨てて、鎖帷子くさりかたびら姿であっけらかんと答えた。

「別に邪魔をするつもりは無かったがな。この森が大変な事になるかもしれないという情報を事前に入手し、我々もそれなりに対策を考えていただけだ」

『そして、その対策とやらがそちらの青年とお嬢さんですか……。しかし、彼らに何が出来ると言うのです? 偉大なる救世主を前にしてっ!!』

『ヴォオオオオーーーッ!!』

 まるでツヴァイの言葉に応えるように"救世主"とやらが雄叫びを上げた。

「しっかし、まさかこんなモンを召喚しちまうとはなぁ」

 俺は森の木々よりも背の高い"それ"を見上げ、呆れながら呟く。

『あのでっかいやつ、私的にはカナタさんが"ズルっこ"で倒してるイメージ強いです』

「ズルっこって……」

 確かに、聖なる泉の安全地帯から毒ビンを投げつけて戦ってたのは事実なんだけどさ。

『しかし神を狂信的に祈るがあまり、こんなのを神の使いと盲信するなんて……皮肉なものですね』

 エレナの言う通り、コイツは救世主どころか神の使いですらない。
 この巨大な化け物の正体は、おそらくグレーターデーモンという「悪魔型モンスター」である可能性が高い。
 魔王城のある常闇とこやみの大地において、多くの冒険者達を葬り去ってきた最強最悪の化け物なのだが、まさかこんなヤツを神の使いと勘違いするとは、いやはや困ったものである。
 そして、細目でそれを睨んでいたエレナは何か納得した様子で頷くと、結論を口にした。

『非常に強い魔法耐性、大半の攻撃を無効化する物理防御、そして生命力を奪う強烈なアシッドブレス……。やはり、常闇とこやみの大地に居たモノと同一種で間違いありませんね』

「あー、やっぱそうかー……」

 俺はガクリと肩を落としつつも、たった今グレーターデーモンと確定した"元・救世主"へ向けて構えた。

「エレナ。俺が足止めするから最初から全力で頼む」

『バッチリ任せてくださいっ!』

 俺はエレナの心強い返事に安心しながら、初撃を放つべく投剣に魔力を込める。
 当然これを投げつけたところで大したダメージを与える事はできないのだが、俺の狙いはそちらではない。
 この投剣を打ち込む先はただ一つ!

「影縫いっ!」

『!?』

 巨大なかげに放った投剣は完璧に影の中心を捉え、グレーターデーモンがその場に硬直した。
 影縫いは高レベルな敵を長時間拘束する事はできないものの、エレナの詠唱時間を稼ぐことくらいは出来る。
 エレナの周囲を渦巻く魔力の冷気によって、秋色に染まった森がまるでフロストの大雪原のように肌寒い空気に包まれたその時、ついに詠唱が完成した。


『エターナル・ブリザード・ノヴァーー!!』


 エレナの凛とした声が森に響くと同時に、辺りが猛烈な吹雪に覆われた。
 イフリートの劫火をも一撃で吹き飛ばすエレナの一撃は、グレーターデーモンの全身を包み込み、激しい渦を巻いてゆく!
 そして、荒れ狂う氷の嵐が消えた後、そこに残っていたのは巨大な氷のオブジェと化したグレーターデーモンの姿だった。

『な、なんという事を……』

 先程まで圧倒的な強さに為す術なかった化け物に対し、たった一撃でそれを無力化してしまったエレナの魔法に、騎士や信者達だけでなくツヴァイまでも驚きに目を見開いていた。
 だが、ツヴァイはハッと我に返ると、エレナを睨みながら口を開いた。

『あなた……人間ではありませんね!!』

『はぁ、そうですけど?』

『悪魔の手先の分際で、よくも救世主様をっ……!!』

 自分の事を悪魔の手先呼ばわりされたエレナは、かなり不機嫌そうな表情でツヴァイにジト目を向ける。

『ていうか、それを言うならあなたもですよ。なんでワーウルフのくせに人間のふりしてるんです?』

『!?!?!?』

 いきなり過ぎるエレナの暴露に、場は騒然となった。

『……あっ!!』

 すぐに自分が爆弾発言をしてしまった事に気づき、エレナはアワアワしながら振り返る。

『も、もももも、もしかして、これまだバラしちゃダメでした!?』

「あー、まあ、うん」

 ホントは信者達が暴徒化した時の奥の手にしようって話だったのだけど、グレーターデーモンが出てきてそれどころじゃ無くなってしまったし、実害は無い……かなぁ。

『……どうして私の正体をっ! 何故っ!!? それを知っているのはアインツ先生ただおひとりのはずなのに……!!』

 しかもコイツもコイツである。
 しらばっくれてしまえば良いのに自白しちゃうし、これで完全にツヴァイが亜人である事がバレしてまった。

「そ、そんな……」

「ツヴァイ様がワーウルフだなんて……」

「悪魔の化身……」


 ――人間中心の世界を賛美する中央教会の最高権威を持つ者が、人間では無かった。


 この事実を前に信者達は動揺を隠せない様子だった。
 自分へ向ける目が聖者のそれではなく、モンスターと同じ畏怖を感じさせるものになっている事に気づいたツヴァイは、ギリリと辛そうに奥歯を噛みしめる。

『だ、だからこそ! 私を含む全ての闇を消し去り世界を浄化しなければ――!』


バリィン!!!


 ツヴァイが叫ぼうとしたその瞬間、頭上で巨大な氷が弾けた。
 ……違う、あれはっ!!

『ヴォオオオオオオーーーーーッ!!!』

 なんと、今まで氷に包まれていたグレーターデーモンが自らの力でそれを破壊したのだ。

「クソっ! あの状態から復活とか反則だろッ!!」

 俺とエレナはすぐにその場を飛び退くと、次の攻撃に備えて身構える。
 だが、怒り狂った魔物は俺達には目もくれず、まずは手短な獲物を殺戮すべく大腕を振り下ろした!

『……!!』

 奴の狙いは、自分の最も近くに立っていた者……つまり大司祭ツヴァイだ。
 突然の状況に俺とエレナは反応が遅れ、対応できなかった。

 もう間に合わない……!

 誰もが脳裏に絶望的な状況を過らせたその時!
 ただ一人だけが、まるで何か別の意思に突き動かされたかのようにツヴァイの目の前へと飛び出した。
 白装束に身を包んだ男は、自らの命すら捧げるかの如く両手で天を仰ぐと、目を見開いて魔法を放った。

 暗闇ろうごくから自分を救い出してくれた恩人ツヴァイを救うため――!

七重魔法防壁セブンスアブソリュート!!!」
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