上 下
64 / 209
第七章 中央教会の聖女コロン

064-救いのないセカイ6

しおりを挟む
~廃城から発掘された日記より~

【聖王歴128年 黄の月 12日】

 ついに恐れていた事が現実のものとなってしまった。
 森の魔物を殲滅すべく、討伐隊が送り込まれる事になったのだ。
 しかし、本当に森の魔物達は全て悪しき存在なのだろうか?
 確かに巨大なドラゴンに私は誘拐された (今も記憶が不確かで、全て私を騙すための嘘なのでは無いかと疑っている)が、そもそも今は亡き子竜のピートと私は親友同士であった。
 例え種族が違えど、きっとわかりあえるはずなのに。
 だけどもう私の声は届かない。
 誰か助けて……!

【聖王歴128年 黄の月 13日】

 中央教会から大司祭がやってきて、ありがたい教えとやらを説いていった。
 そんなもの幼い頃から、散々聞かされてきているのに何と今更か。
 曰く、神は始めに人を創り、その血肉とする為に動物達を地に放った。
 それを横取りするために悪魔の世界から現れたのが他種族で、人の姿を模倣したズル賢い者がエルフやダークエルフなのだそうだ。
 ……バカじゃなかろうか。
 その理屈でいくと、草食動物である森ドラゴンの説明がつかないではないか。
 それに、他の動物達の存在意義が私達の血肉にするためなどとというのも、殺生を正当化するための詭弁きべんにしか思えない。
 だけど、今の私がその本音を言ったところで、悪魔が取り憑いただの適当な言い掛かりを付けられるに違いない。
 どうしてこうなってしまったのだろうか。

【聖王歴128年 黄の月 14日】

 城に戻ってきた騎士や魔導士達が、今日は何匹ドラゴンを狩ったやら、臨時報酬で夜の酒が美味そうだと楽しそうに会話していた。
 何故だろうか。
 神に創られし偉大な生き物であるはずの人間達が、酷く醜く見えてしまうのは。
 正義の名のもとに、か弱い動物達を痛めつけているようにしか見えないのだ。
 もしかして、私は本当に悪魔に憑かれてしまったのだろうか?
 わからない、わからない、わからない。
 誰か教えてほしい。

【聖王歴128年 黄の月 15日】

 何故そこまで東の森に執着するのかと大臣に問いただしたところ、どうやらそこが中央教会が定める『全ての始まりの聖地』であり、私達の魂が天に召される時にそこを通る、というのが理由らしい。
 別に魂の通り道なのであれば、森にドラゴンが居たところで何の問題もないと思うのだが、大臣曰く、邪悪なドラゴンに支配された森は瘴気に汚染され、天界へ繋がる門が開かなくなるのだそうだ。
 では、実際に誰かがそれを確認したのかと問いただしたところ「そうに決まっています」と意味不明なことを言い出したので、彼の言葉に何の信憑性も無いことだけは分かった。

【聖王歴128年 黄の月 16日】

 ついに明日「聖地奪還作戦」が決行されると報告があった。
 それはつまり、森のドラゴンだけでなくモンスター達も全て根絶やしにするということだ。
 でも、そんなことをすると森の動物達だって巻き込まれてしまうだろう。
 それに、秘密のお花畑も……。
 ピートとの思い出の場所を誰かに踏みにじられるなんて許せない!
 どうにかお父様を説得し、私も現地へ赴くことになった。
 私の前で絶対にそんな事はさせない!
 
【聖王歴128年 黄の月 17日】

 聖地奪還作戦なんて名ばかりだった。
 あんなものは奪還などではない……単なる侵略と略奪だ。
 正義の名のもとに、逃げ惑う魔物達を後ろから襲い■■■■■■■■■■■■はげしくぬりつぶしたあと書いていて気分が悪くなってきた。
 惨状を思い出したくない。
 もう嫌だ。

【聖王歴128年 黄の月 18日】

 兵士の一人が「聖地らしきものを発見した」を報告してきた。
 この男に案内され森の奥で見つけたのは、苔だらけの黒い石板がひとつ。
 これを見て周りの者は喜んでいたが、意味が分からない。
 ■■なモノのために、多く■生き物達が命を散らしたのか?
 こんなモノを手に入れるために、美しい花畑は軍足で踏みにじられたのか!?
 聖地■こんなに血塗れにして……天がそれを許すのか?
 もしそうだとすれば、この世界の神は何と残酷な■だろう。
 本当に分からない……。
 もう、この日記の続きを書くのは止めよう。
 何も信■られない。

  ■      ■

       ■

【聖王■130年 青の月 ■■日】

 あの日に起こった事の全てが■りだった。
 もう一度■り直す事ができるなら。
 今度こそ、今度こそ――――――――――――――
■■■■■       ■ ■ ■
■■■■■■      ■ ■ ■ ■
■■■■■■■    ■ ■■■■■■
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??

新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

処理中です...