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第六章 ゆきの国の妖精ハルルとフルル
045-双子の妖精
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【聖王歴128年 緑の月 42日 夕刻】
<フロスト王国北部 山頂の神殿>
『なるほど、そういう事っすか』
『……』
妖精ハルルが呟く一方で、妖精フルルは無言のまま空を見上げている。
そして、俺はふたりの前で――土下座していた。
「……」
話すと長くなるというか、やむを得ない事情はあったのだが……。
雪山を登っている最中に雪崩に襲われた俺は、咄嗟にイフリートに対し、こう命じたのだ。
「全力で雪崩を吹き飛ばせ!!」
……と。
以前、空に向けて試し撃ちをした時も十分に凄かったが、今回はスケールが違った。
イフリートの炎は巨大な雪崩を一撃で吹き飛ばすと、そのまま天を貫き山頂にぽっかりと青空を作り出してしまった。
しかし、話はここで終わらない。
イフリートの放った炎はもう一つ、とんでもないモノまで一緒にブチ抜いたのだ。
――この神殿である。
幸いハルルとフルルに怪我は無かったものの、イフリートの炎によって天井部分が丸ごと吹き飛ばされてしまい、立派な神殿は見る影もなく……。
屋内なのにビュウビュウと雪風が吹き込んできて、とても寒い。
ハルルの氷のような視線も、その寒さに拍車をかけてくる。
『確かに咄嗟の事だったと思いますしぃー。そりゃ雪崩に巻き込まれたら、水の精霊さんはともかくとして、他の三人はどうしようも無いと思いますけどぉーー。それでも、防御魔法を使うとか他にやり方ってもんがあったんじゃないっすかねぇ!? どう落とし前つけてくれますゥー?』
まるでチンピラのような口調で迫ってくるハルルの勢いに、思わず引いてしまう。
だが、そんな姉の前にフワフワと飛んできたフルルは、無表情のまま首を横に振った。
『姉さん。神殿は壊れてしまったけど……僕達は無事……。誰も傷つかなくて良かった……。それじゃ駄目かな……?』
妖精フルルは相変わらず無表情だけど、その口調から皆を思いやる優しさが伝わってくる。
『フルルぅぅ……ええ子やあああああーー!! ホント神がかってるわああああーーっ!!! お姉ちゃん感動やああああああああ……尊い』
この妖精もよくまあ、勇者一行が来た時にこの素を隠せてたなぁ。
俺が唖然としながらふたりを眺めていると、ハルルはコホンとわざとらしく咳払いしてから、パタパタと俺の目の前に飛んできた。
『さて、まだまだ言いたい事はたくさんあるけれど、そもそも君達はどうしてこの神殿に来たんすかね? アイスソードを装備できる剣士職が一人も居ないのに、私らに会いに来る理由がわかんないっすよ』
『しかも神殿……壊された……』
「いや、それについてはホント申し訳ない。でも、俺達はふたりに危害を加えようとして来たわけじゃないんだ。ちょっと話を聞いてほしくてさ」
俺はそう言うと、いつものように「これまでの経緯」を説明した。
◇◇
『うーん……』
さっきまでいきり立っていたハルルだったが、俺の説明を聞き終わった後は難しい顔で唸っていた。
そりゃ「俺は二年後の未来から戻ってきた。明日の夜、魔王四天王メギドールが都を襲う」だなんて、あまりにも突拍子の無さすぎる話だし、ハルルの反応も仕方あるまい。
一方、相変わらず無表情で黙っていたフルルは、しばらくして正面までフワフワと飛んできて、俺の目をじっと見つめてきた。
『君の言ってる事が事実だとすれば……今日の夜中に都が襲われる……。真偽はそれで判断できる……。でも……それだと手遅れ』
『つまり、そのメギドールとやらが暴れる前にやっつけてしまえば、全て解決っ。さすがフルルっ! 天才っ!! おねーちゃん嬉しい!!』
「いや、今、自分で答え全部言ったじゃん……」
だけどハルルの言う通り、俺の言っている事を信じてもらうにはそれが一番手っ取り早いのは間違いない。
それに、被害が出る前に対処できるに越したことは無いしね。
「それじゃ、早速だけど俺らを都まで送ってくれるかな」
『へ?』
「フルルが俺ら全員を街まで飛ばせるスキル使えるだろ?」
『なあああっ!?』
俺の言葉に、ハルルは変な悲鳴を上げながら飛びのいた。
フルルは無表情ではあるけれど、何となく驚いている感じがする。
『空間転移は僕の秘術……。門外不出……。姉さん以外に誰も知らない……』
『これを知ってる時点で、キミの言ってる事が真実である事が確定っすよ。はあぁ……』
ぐったりと肩を落とすハルルを見て、フルルは無表情ながら優しく姉の頭を撫でていた。
【聖王歴128年 緑の月 42日 夜】
<フロスト王国 城門前>
「スゴい……一瞬で街まで戻れちゃった」
『エッヘン!』
目を白黒させて驚くサツキに対し、何故かハルルが自慢げに胸を張っている。
そんな姉を見て、無表情ながら少し嬉しそうにフルルは口を開いた。
『僕の空間転移は……行ったことのある場所ならば飛ぶ事が出来る……。この島の外には……出た事ないけどね』
「へー。それなら、世界中を冒険して色んなところに飛べるようになったら面白そうだねっ。あたしにやり方を教えてくれない?」
『門外不出っす!!』
「ぶー、けちー」
とまあ、そんなたわいもないやり取りをしつつも、他の人達にハルルとフルルの姿を見られないように隠れてもらいながら宿に戻った俺達は、さっそく明日に向けて作戦会議を開いた。
「メギドールの襲撃は明日43日の深夜。街の北側が酷くやられてたから、恐らくそっちの方角から攻めて来るのだと思う」
「となると、明日のうちに北側で迎え撃つ準備をしなきゃだねっ」
サツキの言葉に皆は頷くが、ハルルは少し不安そうだ。
『相手は魔王四天王を名乗る炎使いっすよね? キミらで勝てるんすか?』
「うーん……」
俺がかつて見た世界では、ハルルが命を賭して作り上げたアイスソードをもって、勇者カネミツがメギドールを倒していたけれど、今回はそういった特別な武器に頼らずに撃破しなければならない。
そして、俺達の中でメギドールに対抗出来る力を持つのはただ一人……俺が目を向けると、エレナは強く頷いた。
『私にお任せあれっ!』
<フロスト王国北部 山頂の神殿>
『なるほど、そういう事っすか』
『……』
妖精ハルルが呟く一方で、妖精フルルは無言のまま空を見上げている。
そして、俺はふたりの前で――土下座していた。
「……」
話すと長くなるというか、やむを得ない事情はあったのだが……。
雪山を登っている最中に雪崩に襲われた俺は、咄嗟にイフリートに対し、こう命じたのだ。
「全力で雪崩を吹き飛ばせ!!」
……と。
以前、空に向けて試し撃ちをした時も十分に凄かったが、今回はスケールが違った。
イフリートの炎は巨大な雪崩を一撃で吹き飛ばすと、そのまま天を貫き山頂にぽっかりと青空を作り出してしまった。
しかし、話はここで終わらない。
イフリートの放った炎はもう一つ、とんでもないモノまで一緒にブチ抜いたのだ。
――この神殿である。
幸いハルルとフルルに怪我は無かったものの、イフリートの炎によって天井部分が丸ごと吹き飛ばされてしまい、立派な神殿は見る影もなく……。
屋内なのにビュウビュウと雪風が吹き込んできて、とても寒い。
ハルルの氷のような視線も、その寒さに拍車をかけてくる。
『確かに咄嗟の事だったと思いますしぃー。そりゃ雪崩に巻き込まれたら、水の精霊さんはともかくとして、他の三人はどうしようも無いと思いますけどぉーー。それでも、防御魔法を使うとか他にやり方ってもんがあったんじゃないっすかねぇ!? どう落とし前つけてくれますゥー?』
まるでチンピラのような口調で迫ってくるハルルの勢いに、思わず引いてしまう。
だが、そんな姉の前にフワフワと飛んできたフルルは、無表情のまま首を横に振った。
『姉さん。神殿は壊れてしまったけど……僕達は無事……。誰も傷つかなくて良かった……。それじゃ駄目かな……?』
妖精フルルは相変わらず無表情だけど、その口調から皆を思いやる優しさが伝わってくる。
『フルルぅぅ……ええ子やあああああーー!! ホント神がかってるわああああーーっ!!! お姉ちゃん感動やああああああああ……尊い』
この妖精もよくまあ、勇者一行が来た時にこの素を隠せてたなぁ。
俺が唖然としながらふたりを眺めていると、ハルルはコホンとわざとらしく咳払いしてから、パタパタと俺の目の前に飛んできた。
『さて、まだまだ言いたい事はたくさんあるけれど、そもそも君達はどうしてこの神殿に来たんすかね? アイスソードを装備できる剣士職が一人も居ないのに、私らに会いに来る理由がわかんないっすよ』
『しかも神殿……壊された……』
「いや、それについてはホント申し訳ない。でも、俺達はふたりに危害を加えようとして来たわけじゃないんだ。ちょっと話を聞いてほしくてさ」
俺はそう言うと、いつものように「これまでの経緯」を説明した。
◇◇
『うーん……』
さっきまでいきり立っていたハルルだったが、俺の説明を聞き終わった後は難しい顔で唸っていた。
そりゃ「俺は二年後の未来から戻ってきた。明日の夜、魔王四天王メギドールが都を襲う」だなんて、あまりにも突拍子の無さすぎる話だし、ハルルの反応も仕方あるまい。
一方、相変わらず無表情で黙っていたフルルは、しばらくして正面までフワフワと飛んできて、俺の目をじっと見つめてきた。
『君の言ってる事が事実だとすれば……今日の夜中に都が襲われる……。真偽はそれで判断できる……。でも……それだと手遅れ』
『つまり、そのメギドールとやらが暴れる前にやっつけてしまえば、全て解決っ。さすがフルルっ! 天才っ!! おねーちゃん嬉しい!!』
「いや、今、自分で答え全部言ったじゃん……」
だけどハルルの言う通り、俺の言っている事を信じてもらうにはそれが一番手っ取り早いのは間違いない。
それに、被害が出る前に対処できるに越したことは無いしね。
「それじゃ、早速だけど俺らを都まで送ってくれるかな」
『へ?』
「フルルが俺ら全員を街まで飛ばせるスキル使えるだろ?」
『なあああっ!?』
俺の言葉に、ハルルは変な悲鳴を上げながら飛びのいた。
フルルは無表情ではあるけれど、何となく驚いている感じがする。
『空間転移は僕の秘術……。門外不出……。姉さん以外に誰も知らない……』
『これを知ってる時点で、キミの言ってる事が真実である事が確定っすよ。はあぁ……』
ぐったりと肩を落とすハルルを見て、フルルは無表情ながら優しく姉の頭を撫でていた。
【聖王歴128年 緑の月 42日 夜】
<フロスト王国 城門前>
「スゴい……一瞬で街まで戻れちゃった」
『エッヘン!』
目を白黒させて驚くサツキに対し、何故かハルルが自慢げに胸を張っている。
そんな姉を見て、無表情ながら少し嬉しそうにフルルは口を開いた。
『僕の空間転移は……行ったことのある場所ならば飛ぶ事が出来る……。この島の外には……出た事ないけどね』
「へー。それなら、世界中を冒険して色んなところに飛べるようになったら面白そうだねっ。あたしにやり方を教えてくれない?」
『門外不出っす!!』
「ぶー、けちー」
とまあ、そんなたわいもないやり取りをしつつも、他の人達にハルルとフルルの姿を見られないように隠れてもらいながら宿に戻った俺達は、さっそく明日に向けて作戦会議を開いた。
「メギドールの襲撃は明日43日の深夜。街の北側が酷くやられてたから、恐らくそっちの方角から攻めて来るのだと思う」
「となると、明日のうちに北側で迎え撃つ準備をしなきゃだねっ」
サツキの言葉に皆は頷くが、ハルルは少し不安そうだ。
『相手は魔王四天王を名乗る炎使いっすよね? キミらで勝てるんすか?』
「うーん……」
俺がかつて見た世界では、ハルルが命を賭して作り上げたアイスソードをもって、勇者カネミツがメギドールを倒していたけれど、今回はそういった特別な武器に頼らずに撃破しなければならない。
そして、俺達の中でメギドールに対抗出来る力を持つのはただ一人……俺が目を向けると、エレナは強く頷いた。
『私にお任せあれっ!』
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