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第三章 聖なる竜と王女プリシア
019-犯人の目的とは?
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俺は指先に意識を集中させると、プリシア姫の足枷に向けてスキルを発動させた。
「アンロック・ゼンシュ!」
洞窟内に金属同士がぶつかるような音が響き、姫の細い足に不釣り合いだった無骨な鉄輪が砕けて割れた。
「うっし、成功っ」
『へぇ、見事なもんだねェ。私じゃ足ごと折っちまいそうだ』
『そりゃカーチャン雑だもの……あっ痛ぇっ!』
余計な事を呟いたピートは、母親に尻を叩かれてしまい、恨めしそうに真っ赤になった自分の臀部をさすっていた。
『……さて。今回の一件、アタシらには何が何だかサッパリだけど、ここに慌てて駆け込んできたって事は、アンタ達は事情を話せるって事で良いのかい?』
「俺達もまだまだ分からない事だらけなんだけど。……でも、知ってる事は全て伝えるよ」
俺はまず始めに、エレナと共に2年後の未来から来た事、そしてこの洞窟で俺が勇者カネミツ達と共に巨大ドラゴンことピート母を倒したという事実を包み隠さず話した。
突拍子も無さすぎる話にピート母達は相当驚いていたものの、突然現れて自分達を助けてくれた事も踏まえて、全て信じてくれたようだ。
「国王に頼まれて勇者パーティが洞窟に来たのは二日後。俺はアンタとは戦ったけれど、この場にピートは居なかったし、姫様も憔悴しきってたよ」
『ボクが居なかったって事は……たぶんプリシアの前で息絶えたんだろうね。奴らの毒にやられた状態で二日も生きていられるとは思えないし、ボクら竜族は死後に遺体を残さず神の元へ召されるから……』
「……」
ドラゴンの死生観を聞いたのは初めてだったけど、彼らは自身をそういう風に理解していたんだな。
ドラゴンだけに限らず、モンスターと呼ばれる生き物達は皆共通して倒された後に光となって消えて行くのが世界の理であり、剥ぎ取られた部位だけは消えずに残る、だから討伐証明や装備用の素材として二次利用ができる……というのが冒険者の間での常識だ。
勇者パーティとの冒険中にも暗黒竜やらバハムートやらと戦闘はあったものの、いずれも倒した時の消え方がモンスターと同じだったので、俺自身は「そんなもん」だと思っていたのだが、そりゃ皆生きているのだから当事者達はそれなりに生と死について考えるのは種族問わず同じなのだろう。
「って事は、犯人達は姫様とドラゴンのピートくんを誘拐して、姫には一切の危害を加えないようにピートくんとお母さんだけを狙ったって事……?」
サツキがそう言うものの、なんだか腑に落ちない感じだ。
「それだとプリシア姫を誘拐するような、回りくどい事をやる理由が分からないんだよ。……あの、姫様は何か知っている事はありませんか?」
俺の問いかけにプリシア姫は困惑気味に口を開いた。
「わたくし実は……ときどき城を抜け出しては、この東の森に遊びに来てたのです」
「なぬっ!? ……あ、すみません、続きをお願いします」
俺の反応を見てプリシア姫は恥ずかしそうに顔を赤らめつつも続きを話し始めた。
「ピートとは幼い頃からの友達でして。それで今日も遊ぼうかな~……と思って炊事場の小窓を抜けた瞬間に、いきなり袋をかぶせられて気を失って……。そして目を覚ますと、目の前でピートが血を流しながら倒れていて、凄い形相でピートのお母様が迫っているものでしたから、つい悲鳴を……」
まさか大国家の姫様ともあろうお方に、そんな"おてんば"な秘密があるとは思いもしなかったけど、やっぱり子供っぽいヤンチャをしたい事だってあるんだな。
雲の上の存在だと思っていた子に、妹っぽい一面が見えて何だか微笑ましく思ってしまう。
「なるほど。俺らは姫様の悲鳴を聞く直前に二人組の男が逃げていくのを目撃したものの、顔までは分からなくて……。姫様は二人組の男に心当たりは?」
「いいえ、相手が何人なのかも分からぬまま気を失ったので……」
姫は残念そうに首を横に振った。
だが、万策尽きたかと思ったその時、ピート母が目を瞑りながら口を開いた。
『二人組の片方は、長い白髭に片眼鏡を付けた年配の男。もう一人は金色の刺繍をした黒いフードを被った魔法使い風の男だったさね』
「「っ!!?」」
『ドラゴン族ってのは夜目が利くのさ。……って、どうしたんだい??』
ピート母は俺とプリシア姫の反応を見て、不思議そうに首を傾げている。
……だが、先ほどの証言によって、俺とプリシア姫の中で真犯人像とそれが結びついたのだ。
「白髪、片眼鏡、年配……。姫を誘拐したのが森のドラゴンだと証言した張本人……ネスタル大臣と同じ容姿だ」
『ええっ!』
「我が国で魔法のローブに金の刺繍を入れる事が許されるのは、魔術師団の長だけ。そして、我が国においてその役職の者は……魔術師ワーグナーただ一人です」
二人の呟きに、皆が驚愕の表情に変わる。
『って事は、人間の国のお偉いさん共が共謀してアタシらを狙ったって事かい?』
「何も知らないプリシア姫はピートが巨大なドラゴンに襲われて死んだと誤解し、やってきた勇者はピート母を討伐。その黒幕は大臣と魔術師長の二人……か」
まだ理由までは分からないにしても、この二人がドラゴンの親子の殺害を狙った可能性は高そうだ。
しかも、プリシア姫を危険に晒してまでも、だ。
「つまり、黒幕の目的はピートやお母様を殺すことで、しかもそれをわたくしに目撃させたかった……と?」
「あたし思うんだけどさ……」
愕然とするプリシア姫に対し、サツキがぼそりと呟いた。
「仲良しのお友達が目の前で死んじゃったら、姫様は絶対凄く苦しかったと思うんだ。黒幕がどうとか以前に、救出されたとしても一生立ち直れないよ……」
悲しそうに呟くサツキの姿を見て、プリシア姫は少し申し訳なさそうにピート母を見上げた。
「わたくしもですけど、ピートのお母様の方がずっと辛かったと思うのです。皆様のおかげで助かったとはいえ、この度は我が家来の無礼、大変申し訳ございません……」
プリシア姫の謝罪に対しピート母は鼻でフンと笑うと、姫の顔をじっと見つめながら巨大な口を開いた。
『悪いのは連中であって、お前さんじゃないさね。姫様にはウチのバカ息子と仲良くしてもらってる恩もあるんだし、アンタを責める気なんざ一切無いからね』
『バカ息子って、カーチャンひでーよ……』
ピート母の言葉に、プリシア姫は嬉しそうにピートの小さな身体を抱きしめた。
「……ここから先は想像の域を出てないんだけど、連中は最初からプリシア姫が森に遊びに行っている事を知っていた上で、森のドラゴンを狩るための大義名分を欲していたんじゃないかって思うんだ」
「えっ!?」
「姫様の前だとちょっと少し言いにくい話なんだけど……聖王都プラテナは人間中心の都で、他種族に対して凄まじく排他的な価値観が強いんだ。勇者パーティにもレネットっていうエルフがいたんだけど、プラテナに来るたびにいつも肩身が狭そうだったよ」
俺の言葉に対し、プリシア姫は悔しそうな顔で奥歯をググっと噛んだ。
「存じております。中央教会の大神官曰く、人間こそが世界の中心であり神より生み出された最高傑作である、と。……ですが、わたくし絶対間違っていると思います! そんな愚かな考えでは、いずれこの国は滅びてしまいます!」
「……姫様は、その考えを城内で口にした事は?」
「皆にいつも言っております」
「いつも!?」
「いつかこの国を……いいえ、この世界の全ての民が幸せに暮らせる世界にしたいと! あ、もちろんピートの事は秘密ですけどね」
――プリシア姫の一言で「疑問」を解くための最後のピースが揃った。
人間と他種族の共存を夢見る姫の目の前で、友の死と異種族の恐怖を見せつける行為……それが何を意味するのか。
「黒幕の目的が分かったかもしれない……!」
俺の言葉に皆が驚く中、俺はピート母に一つのお願いをした。
「今すぐここにいる全員を乗せて、プラテナの城へ向かってもらえますか?」
「アンロック・ゼンシュ!」
洞窟内に金属同士がぶつかるような音が響き、姫の細い足に不釣り合いだった無骨な鉄輪が砕けて割れた。
「うっし、成功っ」
『へぇ、見事なもんだねェ。私じゃ足ごと折っちまいそうだ』
『そりゃカーチャン雑だもの……あっ痛ぇっ!』
余計な事を呟いたピートは、母親に尻を叩かれてしまい、恨めしそうに真っ赤になった自分の臀部をさすっていた。
『……さて。今回の一件、アタシらには何が何だかサッパリだけど、ここに慌てて駆け込んできたって事は、アンタ達は事情を話せるって事で良いのかい?』
「俺達もまだまだ分からない事だらけなんだけど。……でも、知ってる事は全て伝えるよ」
俺はまず始めに、エレナと共に2年後の未来から来た事、そしてこの洞窟で俺が勇者カネミツ達と共に巨大ドラゴンことピート母を倒したという事実を包み隠さず話した。
突拍子も無さすぎる話にピート母達は相当驚いていたものの、突然現れて自分達を助けてくれた事も踏まえて、全て信じてくれたようだ。
「国王に頼まれて勇者パーティが洞窟に来たのは二日後。俺はアンタとは戦ったけれど、この場にピートは居なかったし、姫様も憔悴しきってたよ」
『ボクが居なかったって事は……たぶんプリシアの前で息絶えたんだろうね。奴らの毒にやられた状態で二日も生きていられるとは思えないし、ボクら竜族は死後に遺体を残さず神の元へ召されるから……』
「……」
ドラゴンの死生観を聞いたのは初めてだったけど、彼らは自身をそういう風に理解していたんだな。
ドラゴンだけに限らず、モンスターと呼ばれる生き物達は皆共通して倒された後に光となって消えて行くのが世界の理であり、剥ぎ取られた部位だけは消えずに残る、だから討伐証明や装備用の素材として二次利用ができる……というのが冒険者の間での常識だ。
勇者パーティとの冒険中にも暗黒竜やらバハムートやらと戦闘はあったものの、いずれも倒した時の消え方がモンスターと同じだったので、俺自身は「そんなもん」だと思っていたのだが、そりゃ皆生きているのだから当事者達はそれなりに生と死について考えるのは種族問わず同じなのだろう。
「って事は、犯人達は姫様とドラゴンのピートくんを誘拐して、姫には一切の危害を加えないようにピートくんとお母さんだけを狙ったって事……?」
サツキがそう言うものの、なんだか腑に落ちない感じだ。
「それだとプリシア姫を誘拐するような、回りくどい事をやる理由が分からないんだよ。……あの、姫様は何か知っている事はありませんか?」
俺の問いかけにプリシア姫は困惑気味に口を開いた。
「わたくし実は……ときどき城を抜け出しては、この東の森に遊びに来てたのです」
「なぬっ!? ……あ、すみません、続きをお願いします」
俺の反応を見てプリシア姫は恥ずかしそうに顔を赤らめつつも続きを話し始めた。
「ピートとは幼い頃からの友達でして。それで今日も遊ぼうかな~……と思って炊事場の小窓を抜けた瞬間に、いきなり袋をかぶせられて気を失って……。そして目を覚ますと、目の前でピートが血を流しながら倒れていて、凄い形相でピートのお母様が迫っているものでしたから、つい悲鳴を……」
まさか大国家の姫様ともあろうお方に、そんな"おてんば"な秘密があるとは思いもしなかったけど、やっぱり子供っぽいヤンチャをしたい事だってあるんだな。
雲の上の存在だと思っていた子に、妹っぽい一面が見えて何だか微笑ましく思ってしまう。
「なるほど。俺らは姫様の悲鳴を聞く直前に二人組の男が逃げていくのを目撃したものの、顔までは分からなくて……。姫様は二人組の男に心当たりは?」
「いいえ、相手が何人なのかも分からぬまま気を失ったので……」
姫は残念そうに首を横に振った。
だが、万策尽きたかと思ったその時、ピート母が目を瞑りながら口を開いた。
『二人組の片方は、長い白髭に片眼鏡を付けた年配の男。もう一人は金色の刺繍をした黒いフードを被った魔法使い風の男だったさね』
「「っ!!?」」
『ドラゴン族ってのは夜目が利くのさ。……って、どうしたんだい??』
ピート母は俺とプリシア姫の反応を見て、不思議そうに首を傾げている。
……だが、先ほどの証言によって、俺とプリシア姫の中で真犯人像とそれが結びついたのだ。
「白髪、片眼鏡、年配……。姫を誘拐したのが森のドラゴンだと証言した張本人……ネスタル大臣と同じ容姿だ」
『ええっ!』
「我が国で魔法のローブに金の刺繍を入れる事が許されるのは、魔術師団の長だけ。そして、我が国においてその役職の者は……魔術師ワーグナーただ一人です」
二人の呟きに、皆が驚愕の表情に変わる。
『って事は、人間の国のお偉いさん共が共謀してアタシらを狙ったって事かい?』
「何も知らないプリシア姫はピートが巨大なドラゴンに襲われて死んだと誤解し、やってきた勇者はピート母を討伐。その黒幕は大臣と魔術師長の二人……か」
まだ理由までは分からないにしても、この二人がドラゴンの親子の殺害を狙った可能性は高そうだ。
しかも、プリシア姫を危険に晒してまでも、だ。
「つまり、黒幕の目的はピートやお母様を殺すことで、しかもそれをわたくしに目撃させたかった……と?」
「あたし思うんだけどさ……」
愕然とするプリシア姫に対し、サツキがぼそりと呟いた。
「仲良しのお友達が目の前で死んじゃったら、姫様は絶対凄く苦しかったと思うんだ。黒幕がどうとか以前に、救出されたとしても一生立ち直れないよ……」
悲しそうに呟くサツキの姿を見て、プリシア姫は少し申し訳なさそうにピート母を見上げた。
「わたくしもですけど、ピートのお母様の方がずっと辛かったと思うのです。皆様のおかげで助かったとはいえ、この度は我が家来の無礼、大変申し訳ございません……」
プリシア姫の謝罪に対しピート母は鼻でフンと笑うと、姫の顔をじっと見つめながら巨大な口を開いた。
『悪いのは連中であって、お前さんじゃないさね。姫様にはウチのバカ息子と仲良くしてもらってる恩もあるんだし、アンタを責める気なんざ一切無いからね』
『バカ息子って、カーチャンひでーよ……』
ピート母の言葉に、プリシア姫は嬉しそうにピートの小さな身体を抱きしめた。
「……ここから先は想像の域を出てないんだけど、連中は最初からプリシア姫が森に遊びに行っている事を知っていた上で、森のドラゴンを狩るための大義名分を欲していたんじゃないかって思うんだ」
「えっ!?」
「姫様の前だとちょっと少し言いにくい話なんだけど……聖王都プラテナは人間中心の都で、他種族に対して凄まじく排他的な価値観が強いんだ。勇者パーティにもレネットっていうエルフがいたんだけど、プラテナに来るたびにいつも肩身が狭そうだったよ」
俺の言葉に対し、プリシア姫は悔しそうな顔で奥歯をググっと噛んだ。
「存じております。中央教会の大神官曰く、人間こそが世界の中心であり神より生み出された最高傑作である、と。……ですが、わたくし絶対間違っていると思います! そんな愚かな考えでは、いずれこの国は滅びてしまいます!」
「……姫様は、その考えを城内で口にした事は?」
「皆にいつも言っております」
「いつも!?」
「いつかこの国を……いいえ、この世界の全ての民が幸せに暮らせる世界にしたいと! あ、もちろんピートの事は秘密ですけどね」
――プリシア姫の一言で「疑問」を解くための最後のピースが揃った。
人間と他種族の共存を夢見る姫の目の前で、友の死と異種族の恐怖を見せつける行為……それが何を意味するのか。
「黒幕の目的が分かったかもしれない……!」
俺の言葉に皆が驚く中、俺はピート母に一つのお願いをした。
「今すぐここにいる全員を乗せて、プラテナの城へ向かってもらえますか?」
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