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第三章 聖なる竜と王女プリシア

014-聖王都プラテナ

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 無事にシャロンの一件を解決した俺達は、三人に見送られながらエメラシティを出発し、数日後、第二の目的地である聖王都プラテナに到着した。


<ジュエル大陸最大の都市 聖王都プラテナ>


 白で統一されたエメラシティに比べると街並みは雑多な感じは否めないものの、そのスケールの大きさは比較にならない。

「すっごーい! これが都会! これが首都ーーー!!」

 馬車駅から外に出ると、真っ先に大きな広場と噴水が目に入った。
 公園の周りを囲むように商店が並び、さらにそれを囲うように居住区があるのだが、実は聖王都プラテナはその規模の街が東西南北に4つ繋がった十字形になっている。
 さらに4つの街はセントラルブリッジという橋で連結されており、その中央の島に王城がある……という、とんでもないスケールのデカさである。
 何とも不思議な造りとは思うのだが、この構造によって中央の王城が神の加護を得られるとかどうとか、そんな事を教会の偉い人が言っていた気がする。

『あわわ、あわわわわーー……!』

 そしてエレナは馬車から降りるや否や、あまりのスケールの大きさに圧倒されて目を白黒させていた。
 予想はしてたけど、実際に目の当たりにすると面白いなー。

「おにーちゃん、エレナさんを見ながらニヤニヤするの気持ち悪いよ?」

「に、ニヤニヤなんかしてねーしっ!」

 俺はサツキのおでこをデコピンしつつ、シャロンに描いてもらった地図を頼りに歩き始めた。

「俺らが今いるのが北街なんだけどシャロンの実家も同じエリアにあるみたいだし、とりあえず先に手紙を届けに行こうか」

『はいっ!』

「おー! しゅっぱーつ!」


<聖王都プラテナ北街 シャロン実家>


 というわけで通行人に道を聞きながら、それっぽい建物の前までやってきたわけだが……。

『はわー……』

「おにーちゃん。あの馬小屋、うちより大きくない……?」

「悲しい気分になるから言うな」

 シャロンの実家は入り口に彫像があったり庭にバラ園があったりと、もはや意味が分からないレベルの金持ちだった。
 あまりの豪華さに俺達が入り口で呆けていると、奥から若いメイドさんが小走りでやってきた。

「やべー、リアルなメイドだよ。どんだけ金持ちなんだ……」

「いらっしゃいませお客様。何かご用でしょうか?」

 うおっ、まぶしっ!
 完璧な笑顔で迎えてくれた姿があまりに神々しすぎて圧倒されてしまう。
 こ、これがプロフェッショナルというものなのか……!?
 だが、俺はどうにか気を取り直してメイドさんに話しかけた。

「あの、エメラシティ魔法学園のシャロンさんから御両親に渡してほしいとお手紙を預かりまして……」

 俺がそう伝えながら手紙を見せたところ、何故かメイドさんは震えながら、手に持っていたホウキをぱたりと地面に落とした。

『あの、大丈夫ですか?』

 エレナが心配そうに呼びかけるが、メイドさんは何も答える事なく、泣きながら奥に引っ込んでいった。

「え、えええ~~……」

 なにこの反応っ!?

『な、何だかシャロンさん、すごい訳アリみたいですね……』

「だねぇ」

 皆が呆然としたまま待ち続けていると、しばらくして再びメイドさんが全力ダッシュでやって来た!

「はぁはぁ……だ、旦那様と奥様が、はぁはぁ……応対いたしますので……ぜぇぜぇ、こちらへ……ゴフッ」

「あ、あの、少し落ち着いて……!」

 先程までのプロっぽさは空の彼方へと飛んでいってしまい、俺達は別の意味で気まずくなりながら、息切れで大変な事になっているメイドさんに案内されて応接室へと向かった。

「旦那様、お客様をお連れ致しました」

「ああ、ありがとうエイミ」

 エイミと呼ばれたメイドさんはペコリと頭を下げると、再びプロっぽい雰囲気で部屋から出て行った。
 続いて俺達が部屋に入ると、上品そうな身なりをした夫妻が椅子に座っていた……のだけど、待ちきれなかったのか婦人が駆け寄ってきた。

「お、おいっ!」

 旦那さんが困惑しながら婦人に呼びかけたものの、聞く耳を持たぬまま俺の手紙を受け取った。

「あの子からの手紙ですよ! 待っていられるものですかっ!!」

 封筒を見て興奮する婦人に旦那さんは溜め息を吐きつつ、改めて立ち上がって握手を求めてきた。

「いやはや、何とも無礼で申し訳ない。私はシャロンの父レオナール、こちらが家内のクラリネだ」

 俺達は順に名を名乗り、魔法学校で世話になった事や、シャロンが後輩達に慕われながらその指導に尽力しているなどの現況を伝えた。

「そうか、シャロンが……」

 レオナール氏は何かを懐かしむように、遠くを見つめながら呟く。
 少し間を置いてからクラリネ夫人から読み終わった手紙を受け取ると、読みながら嬉しそうに微笑んでいた。

『あの、シャロンさんとご両親とで何かあったのですか? ……あっ、いえっ、言いにくい事であれば大丈夫ですけども……』

 エレナがアワアワしている姿を見て、クラリネ夫人が少し苦笑しつつ口を開いた。

「シャロンから手紙を託されるくらい信用されているのなら、この子達に話しても大丈夫よね?」

 夫人の問いかけに対しレオナール氏はうなずきながら手紙をテーブルに置くと、ゆっくりと過去の出来事を語り始めた。

「私達は天より双子の娘を授かりました。姉の名はシャロン、そして妹の名はコロンと申します」

『シャロンさんはお姉さんだったんですね!』

 驚きながら反応するエレナを見て、レオナール氏はまるで自分の娘を見守るかのように優しく笑った。


◇◇


 レオナール氏から語られた内容は次のような話だった。
 妹のコロンは生まれつき聖属性に秀でていて聖女として崇められたのに対し、シャロンは全くその才能に恵まれなかった。
 もちろん夫妻はシャロンとコロン二人とも分け隔てなく接してきたものの、中央教会で有力者である両親の立場ゆえに、周囲の目はシャロンに対して決して良い印象は無かったらしい。
 そんな不遇が続いていた中、シャロンは幼くして独学で魔法の研究を始めて才能を開花。
 血の滲むような努力の末にわずか6歳で火属性魔法を全種修得コンプリートという偉業を成し遂げる事となった。
 だが皮肉な事に、聖女と崇められる妹に対しあまりにも対極過ぎる能力は、聖王都において更なる偏見を生み出す原因になってしまった。


 ――あれは悪魔の子だ、と。


 両親はシャロンの身を案じてエメラシティ魔法学校に入学させたものの、結局は強すぎる力が妬みの原因となってしまい、そこにも彼女の居場所は無かったのだ。

「これまで学校側から度々にシャロンの様子を報告して頂いていましたが、あの子からは全く連絡が無くて。もしかすると、自分を遠くへ追いやったと私達を恨んでいるのではないかと、すごく不安で……」

 クラリネ婦人は目を伏せながらそう呟いたが、再び手紙の締めくくりを見て微笑んだ。
 その表情を見てエレナが不思議そうにしていると、婦人がテーブルの上に手紙を広げてこちらに見せてくれた。

「あの子ったら、こんな事を書いてるのよ? 忙しくて帰る暇なんて無いの。私の声が聞きたかったら、自分から来なさい。コロンも連れてね! ……だって」

『!』

「今はとっても楽しいって。だから心配しないで、絶対に一人前の魔法使いになって帰ってくるからねって……」

 婦人はシャロンの手紙を大切そうに封筒へ戻すと、ハンカチでそっと目頭を拭った。


◇◇


「もしかして、おにーちゃんとエレナさんが過去に戻ってきたのって、この為だったのかなぁ……」

 宿に到着して休んでいると、サツキがそんな事を呟いた。

「シャロンはずっと孤独で、自分の居場所を探し続けてたんだな。俺のかつて見た世界では、学校から居場所を失っちまって、勇者パーティに辿り着いたんだ。でも、もしも魔王を倒しちまったら、また自分の居場所が無くなっちまう。いつまでも見つからない、自分の本当の居場所を追い求めて……12歳の女の子が背負うにはキツすぎるよ」

『きっと、シャロンさんの御両親だって、すごく心配だったと思うんです。我が子を想い、助けたいだけだったのに、それが原因で更に危険な状況に追いやってしまって……』

 エレナがそこまで呟いたところで、サツキがバッと顔を上げて笑った。

「でも……今度はシャロンちゃん、大丈夫だよねっ!」

 俺はサツキの言葉に頷きながら、再び「かつて自分の記した旅の記録」を机に広げたのだった。
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