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序章 水の精霊エレナ
007-エレナの願い
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「何で断っちゃったのさ、おにーちゃん! 勇者様からオファーだよ! 将来安泰だよっ!?」
家に帰るや否や、サツキから怒濤の勢いで苦言ラッシュを浴びせかけられた。
「2年後クビになるって言っても、今回は勇者様直々のオファーだったじゃん! 見返すチャンスだったのに、なんでさーーーっ!!」
確かにサツキの言う事も一理あるけれど、それは勇者の性格を分かって無いがゆえの誤解である。
「あのなぁ。ヤツが欲しいのは俺の協力じゃなくて、勇者を引き立てるためのヨゴレ役だぞ?」
「へっ?」
出会ったばかりの頃は盗賊から助けてもらった恩もあったし、世界平和のためという大義名分があるから我慢はしていたのだけど、勇者カネミツの「正義の味方である自分」に対する執着は異常とも言えるレベルだった。
その終局が「クリーンな勇者パーティ」であり、その理想を実現するうえで俺のようなイレギュラーを排除するに至ったのだから、もはや病的だ。
「そもそも、最後に俺のクビを切った理由は"シーフだから"だったし、また一緒に旅をしたところで最終的に同じ理由で放り出される可能性だって十分にあるわけさ。前回は運良く聖なる泉があったからギリギリ戦えてたけど、それが無かったら間違いなく野垂れ死んでたからな」
「うっへぇ……」
「というわけで、俺は久しぶりの田舎生活をのんびり満喫したいわけですよ。ビバ休暇っ! 何人たりとも我が道を妨げる事はできぬっ!」
「うーん、堂々とグータラ生活を宣言されるのはどうかと思うけど、しょうがないかぁ……」
どうにか理解してもらえたようで何よりである。
『……』
と、俺とサツキがそんな会話をしている最中も、エレナはずっと黙ったまま。
それからしばらくして考えがまとまったのか、俺に前にやってきてちょこんと椅子に座った。
『あの、カナタさん』
「ん?」
『先程はいきなり飛びついたりして、本当にすみませんでした』
「へ? ああ、ちょっと驚いたけど大丈夫だよ」
俺は申し訳なさそうにシュンとしているエレナの目の前で手をひらひらと振って、本当に怒っていない事をアピールしてやると、エレナはホッと胸をなで下ろしていた。
「おにーちゃん。そこは、不安にさせてゴメンね……とか、僕にとってキミが一番大切だよ……とか言っておく方が株上がると思うんだ」
「勇者ならそれを素で言っちまいそうだけど、俺はそんなキザったらしいコト言おうもんなら、恥ずかしすぎてひっくり返っちまうよ」
俺がサツキの提案に苦笑していると、何故かエレナが指をもじもじしながら赤面していた。
『でも、聖なる泉で私を助けてくれた時の……ごにょごにょ……~は、格好良かったなーって思います……よ?』
「俺、何か言ったっけ?」
すると、エレナは頬を紅く染めながらネックレスの宝石を両手で握りつつ答えた。
『神様に向かって、俺にエレナをよこしやがれーー! って……』
「ぎゃあああああああ!!!」
「!!!」
エレナの一言で、あの時の記憶が完全に蘇った俺は恥ずかしさのあまり悶絶。
さらに、サツキが俺を突き飛ばつつ瞬間移動でエレナの前にすっ飛んでいった。
「詳しく!!!」
『え? えーっと、こう、俺のモノになれ~って感じに左腕でギューってされて、見上げたらカナタさんの横顔がキャ~~って感じで……』
「ほほう、それからそれからっ!」
「やめろォ! やめてくれェェェーーー!!」
あの時は必死だったとはいえ、客観的に語られると恥ずかしすぎて死んでしまう!!
「あらあら、カナタくんのカッコイイ姿、私も見たかったな~☆」
「母さんもやめてーーーっ!!」
予想外の方向から飛んできた更なる追い打ちに俺が悶えていると、父さんがコホンと軽く咳払いをした。
ナイス助け船! ありがとうお父様!!
「う、うむ、我が息子ながら立派に成長して喜ばしい限りだ。……だが、お前はこれからどうするつもりだ?」
「これから?」
「どんな理由であれ、お前は勇者に羨望される程の力を持っているのは事実だ。しかも、それは神の封印すら破る力だろう。それを持て余すつもりか?」
「うーーん……」
確かに父さんの言う通り、エレナは神から使命を与えられて聖なる泉に隔離されていたにも関わらず、俺はそれを破って救出してしまった。
時間が過去に遡ったり、俺とエレナだけが未来の事を覚えている理由までは分からないけれど、その原因が「聖なる泉での一件」である事は間違いないと思って良いだろう。
『カナタさんの得た"力"も、気になりますね……』
――ユニークスキル『全てを奪う者』を修得しました。
俺が聖なる泉でエレナを救って意識を失う直前に、一瞬だけそんな天啓が聞こえた。
この力によって結界を打ち破ったのか、それとも何か別のモノなのか?
発動条件すら判らないけれど、もしもその名の通りスキルが発動する事によって、この手が全てを奪ってしまうのであれば、使い道を絶対に間違えてはならない……そんな予感がしてならない。
『カナタさん』
エレナは、不安そうに自分の右手を見つめていた俺の手を両手で握ると、意を決した様子で口を開いた。
『もう一度、カナタさんが歩んだ旅の軌跡を辿ってみませんか?』
「えっ?」
『カナタさんが過去に戻り、そこに私がご一緒させて頂いた事に何か意味があるのだとすれば、その旅の先に答えがある気がするんです』
確かにエレナの言う事も一理あるし、正直な話、勇者パーティに俺が入らなかった事で、世界がどう変化するのか気にならないかと問われたら、そりゃ気になるに決まっている。
『それと……』
「?」
そこまで言ってから、少し遠慮がちに目を伏せながらエレナはぽつりと呟いた。
『私、生まれてからずっと、聖なる泉の中だけで生きてきたので、もっとたくさん、外の世界も見てみたいなぁーって……』
「!!!」
『わあわあっ、ごめんなさいっ! 今のナシっ! 忘れてくださいーーっ!!』
アワアワと両手を振って誤魔化そうとするエレナの姿を見て、俺の胸に何かがこみ上げて来る。
――ここで黙ってたら、男じゃねえよな!!
「父さん。俺、ちょっと行ってくるよ」
「うむ」
『えっ、えっ???』
目を白黒させているエレナの手を握り返し、俺は自らの答えを伝えた!
「世界を見に行こうぜ。俺と一緒に!」
家に帰るや否や、サツキから怒濤の勢いで苦言ラッシュを浴びせかけられた。
「2年後クビになるって言っても、今回は勇者様直々のオファーだったじゃん! 見返すチャンスだったのに、なんでさーーーっ!!」
確かにサツキの言う事も一理あるけれど、それは勇者の性格を分かって無いがゆえの誤解である。
「あのなぁ。ヤツが欲しいのは俺の協力じゃなくて、勇者を引き立てるためのヨゴレ役だぞ?」
「へっ?」
出会ったばかりの頃は盗賊から助けてもらった恩もあったし、世界平和のためという大義名分があるから我慢はしていたのだけど、勇者カネミツの「正義の味方である自分」に対する執着は異常とも言えるレベルだった。
その終局が「クリーンな勇者パーティ」であり、その理想を実現するうえで俺のようなイレギュラーを排除するに至ったのだから、もはや病的だ。
「そもそも、最後に俺のクビを切った理由は"シーフだから"だったし、また一緒に旅をしたところで最終的に同じ理由で放り出される可能性だって十分にあるわけさ。前回は運良く聖なる泉があったからギリギリ戦えてたけど、それが無かったら間違いなく野垂れ死んでたからな」
「うっへぇ……」
「というわけで、俺は久しぶりの田舎生活をのんびり満喫したいわけですよ。ビバ休暇っ! 何人たりとも我が道を妨げる事はできぬっ!」
「うーん、堂々とグータラ生活を宣言されるのはどうかと思うけど、しょうがないかぁ……」
どうにか理解してもらえたようで何よりである。
『……』
と、俺とサツキがそんな会話をしている最中も、エレナはずっと黙ったまま。
それからしばらくして考えがまとまったのか、俺に前にやってきてちょこんと椅子に座った。
『あの、カナタさん』
「ん?」
『先程はいきなり飛びついたりして、本当にすみませんでした』
「へ? ああ、ちょっと驚いたけど大丈夫だよ」
俺は申し訳なさそうにシュンとしているエレナの目の前で手をひらひらと振って、本当に怒っていない事をアピールしてやると、エレナはホッと胸をなで下ろしていた。
「おにーちゃん。そこは、不安にさせてゴメンね……とか、僕にとってキミが一番大切だよ……とか言っておく方が株上がると思うんだ」
「勇者ならそれを素で言っちまいそうだけど、俺はそんなキザったらしいコト言おうもんなら、恥ずかしすぎてひっくり返っちまうよ」
俺がサツキの提案に苦笑していると、何故かエレナが指をもじもじしながら赤面していた。
『でも、聖なる泉で私を助けてくれた時の……ごにょごにょ……~は、格好良かったなーって思います……よ?』
「俺、何か言ったっけ?」
すると、エレナは頬を紅く染めながらネックレスの宝石を両手で握りつつ答えた。
『神様に向かって、俺にエレナをよこしやがれーー! って……』
「ぎゃあああああああ!!!」
「!!!」
エレナの一言で、あの時の記憶が完全に蘇った俺は恥ずかしさのあまり悶絶。
さらに、サツキが俺を突き飛ばつつ瞬間移動でエレナの前にすっ飛んでいった。
「詳しく!!!」
『え? えーっと、こう、俺のモノになれ~って感じに左腕でギューってされて、見上げたらカナタさんの横顔がキャ~~って感じで……』
「ほほう、それからそれからっ!」
「やめろォ! やめてくれェェェーーー!!」
あの時は必死だったとはいえ、客観的に語られると恥ずかしすぎて死んでしまう!!
「あらあら、カナタくんのカッコイイ姿、私も見たかったな~☆」
「母さんもやめてーーーっ!!」
予想外の方向から飛んできた更なる追い打ちに俺が悶えていると、父さんがコホンと軽く咳払いをした。
ナイス助け船! ありがとうお父様!!
「う、うむ、我が息子ながら立派に成長して喜ばしい限りだ。……だが、お前はこれからどうするつもりだ?」
「これから?」
「どんな理由であれ、お前は勇者に羨望される程の力を持っているのは事実だ。しかも、それは神の封印すら破る力だろう。それを持て余すつもりか?」
「うーーん……」
確かに父さんの言う通り、エレナは神から使命を与えられて聖なる泉に隔離されていたにも関わらず、俺はそれを破って救出してしまった。
時間が過去に遡ったり、俺とエレナだけが未来の事を覚えている理由までは分からないけれど、その原因が「聖なる泉での一件」である事は間違いないと思って良いだろう。
『カナタさんの得た"力"も、気になりますね……』
――ユニークスキル『全てを奪う者』を修得しました。
俺が聖なる泉でエレナを救って意識を失う直前に、一瞬だけそんな天啓が聞こえた。
この力によって結界を打ち破ったのか、それとも何か別のモノなのか?
発動条件すら判らないけれど、もしもその名の通りスキルが発動する事によって、この手が全てを奪ってしまうのであれば、使い道を絶対に間違えてはならない……そんな予感がしてならない。
『カナタさん』
エレナは、不安そうに自分の右手を見つめていた俺の手を両手で握ると、意を決した様子で口を開いた。
『もう一度、カナタさんが歩んだ旅の軌跡を辿ってみませんか?』
「えっ?」
『カナタさんが過去に戻り、そこに私がご一緒させて頂いた事に何か意味があるのだとすれば、その旅の先に答えがある気がするんです』
確かにエレナの言う事も一理あるし、正直な話、勇者パーティに俺が入らなかった事で、世界がどう変化するのか気にならないかと問われたら、そりゃ気になるに決まっている。
『それと……』
「?」
そこまで言ってから、少し遠慮がちに目を伏せながらエレナはぽつりと呟いた。
『私、生まれてからずっと、聖なる泉の中だけで生きてきたので、もっとたくさん、外の世界も見てみたいなぁーって……』
「!!!」
『わあわあっ、ごめんなさいっ! 今のナシっ! 忘れてくださいーーっ!!』
アワアワと両手を振って誤魔化そうとするエレナの姿を見て、俺の胸に何かがこみ上げて来る。
――ここで黙ってたら、男じゃねえよな!!
「父さん。俺、ちょっと行ってくるよ」
「うむ」
『えっ、えっ???』
目を白黒させているエレナの手を握り返し、俺は自らの答えを伝えた!
「世界を見に行こうぜ。俺と一緒に!」
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