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『第3の街カラーム』
39.システムチックな命の寂滅
しおりを挟む「あれ、シロ。お前来ないの?」
「私は基本主様とは行動しないよ。呼ばれたら気分で来てあげるさ」
そう言うとシロはプレイヤーが死んだときのようなエフェクトを出しながら消えていった………ちょっと寂しいというのは秘密にしとこう。
モブルは俺がアイテム整理をしている間にもう次のマップに行ってしまった。
真っ白な広い空間に俺一人となってしまうと流石に居心地が悪い。さっさとアイテムの整理を終えてここから出る事にした。
今回のボス戦で獲得したアイテムはあまり多くない。ほとんどモブルの方へと流れていってしまったらしい。まぁ、あまり使わないので問題は無いだろう。
空腹度が限界に近かったので色々とアイテム欄を圧迫している肉系統のアイテムを貪りながら、準備を進める。掲示板も一応横に設置しながらやっている。暇だしね。
そこで初めて知ったのだが、刃系統武器は戦闘終了後たまに血などをしっかりと拭かないと性能が落ちたり、上手く斬れなくなるらしい。不安になったのでアシッドダガーと『闇夜』を取り出し、綺麗に水で拭いておく。
布で水気を残さない様に拭き、腰の鞘にどちらもしまう。
よし、準備完了。
忘れ物が無い事を確認し、心の中で「出たい」と思う。
瞬刻、視界が真っ白な光に包まれた。
* * * * * * * * * * * * *
目を開けると目の前には案の定、システムチックなエフェクトと共に文字が視界を占領した。
≪『第3の街カラーム』≫
前回よりもだいぶアップグレードした感じでその文字はまた空気に溶け込むかのように霧散していった。小さなところをどんどんグレードアップしてくなぁ…運営は。
そんな事を思いながらも辺りを見回すと当たり前だが街が出現していた。今回で2回目だがどうしても慣れない。まぁ、2回目で慣れるのもおかしいか。
そんな事を思いながらその場でゆっくりと回転し、辺りを見回す……ターバンとか巻いてる人いるんだけど…というか暑い。メッチャ暑い。
不意に地面を見ると材質は完全に砂岩だった。なるほど、理解した。『カラーム』という舞台は”砂漠”か。
俺は冷静に判断しながらフードを取り、仮面とマフラーも外す。それでもまだ暑いので袖を捲る。ほんっとに暑い。
VRMMOで暑さという概念は存在するのかと言われれば”否”であるだろうが、そこは恐らく人間の錯覚を利用しているのか、単純に機械の性能かのどちらかだろう。ギラギラと輝く太陽を真上に見て街中を歩き始めた。
――――そして案の定と言うべきなのか…奴がいた。
「どもですー」
「シキノ………」
象牙色の髪を揺らしながら、此方に近づいてくるのはシドネスでも一番乗りで他プレイヤーを待っていた情報屋だった。
薄々勘づいてはいたがやはりいた。独自のルートで獲得した情報とアイテムを使い、我先にと新マップに来る力は本当に目を見張るものがある。
「お久しぶりですー。終焉スキラー…今の主流は『終焉兎』ですかー?」
「どっちでも良いよ。『データ猫』」
「――ありゃりゃ、僕の二つ名バレちゃいましたー」
見ているこちらが気持ちの良くなる様な笑いを浮かべながらシキノは言う。『データ猫』またの名を『情報屋』。神出鬼没でいたるところに突如として出現し、有益な情報を高値で売買する先駆者。
『プラワン』内にも情報屋や解析者、生産者等の前線を支える者が増えてきてはいるが情報収集、提供系統の中では彼女が頭一つ抜けていると掲示板で話題になっていた。
生産者の先駆プレイヤーの一覧ではモブルも挙げられていたのを見ると、あいつもまた他プレイヤーの上を言っているらしい。確かに戦闘職すらもまだ扱えない複合アーツを幾つも習得していた。俺はまだ一つも体得できていないから、より一層羨ましく思う。
話しが大きくズレたが目の前にいる彼女もまた有名プレイヤーに名を連ねる強者であると言う事だ。ソロであると言う事も踏まえると、戦闘面に関しても力があると推測できる。恐らく単純なスピードと等では俺がギリギリ勝てると思うが戦略性では圧倒的に不利だろう。
巡る思考の中、シキノが口を開いた。
「でも僕はもう【導きの羽根】は手に入れられませんー…」
「どういうことだ…?」
前に会ったときに説明してくれたようにシキノは自分だけが持つ情報により、【導きの羽根】というボス戦を回避し、次の街へ飛ぶことを可能とするアイテムを獲得し、今ここにいる。それがもう使えない……?理解が追い付かず、詳しく聞く。
「ここからはお金を払ってくださいねー」
「…………お前らしい」
適当に2000セルト位を出す。
それでも足りないと言われたので4000セルト出した。そこから少しずつ増えていき、結局6500セルトもぶんどられた。所持金の半分以上が吹き飛んだ。これでふざけた情報だったらどうしてくれよう。
「【導きの羽根】ってアイテムは消費アイテムで一度使ったらなくなるんですねー。しかも使用するには条件付きで、滞在しているで街で手に入れた【導きの羽根】はその滞在している街の”次の街”へとしか行けないんですー。つまり、『始まりの街』で手に入れたものは『第2の街シドネス』にしか行けないし、シドネスで手に入れたものはここ『第3の街カラーム』にしか行けないんですー」
「ふむ」
「それで誰よりも早くここに来た僕はすぐさま【導きの羽根】を手に入れようと動いたんですがー…どこにもいないんですよねー。カラームからは【導きの羽根】は手に入らなくなったのか、という疑問が当然僕の頭に沸きましたー」
うん。俺もそう言う状況に陥ったらそう思う。
それにしても【導きの羽根】……ずいぶんなチートアイテムだな。情報屋の彼女にはベストマッチなアイテムだったわけか。
誰よりも早く新マップに到着し、情報収集。それを順当な手段でボスを倒してきたプレイヤーに売る。完全に他の情報収集プレイヤーからアドバンテージを取れる。
「【導きの羽根】は特殊なクエストを徘徊クエストNPCから受けることが出来るんですー。ただそのNPCは特殊でして、出現時間、討伐モンスター数、出現場所、徘徊範囲等々…異常なんですねー」
詳しく聞くと、『始まりの街』では外壁の端の端にある迷宮裏路地と呼ばれる場所の奥に現実時間の夜中3時~3時5分の間のみ出現し、様々な条件を提示、それを踏まえ見定めてくるらしい。
というか俺『始まりの街』に迷宮裏路地とかいうスポットあるの初めて知った。今度行こう。
そんな事を心の隅で思う。
「シドネスでもどうにか見つけ出したんですが…カラームに至ってはNPCの目撃情報も助力すらも無いんですー。ヒントをもらえないかと『始まりの街』とシドネスの【導きの羽根】を持つ徘徊クエストNPCのところに行ったんですがー……消えてるんですよねー。綺麗サッパリ何もかも」
『徘徊クエストNPCの消失』。
それは『始まりの街』と『第2の街シドネス』でも確認されている異常事態だ。どうやら『第3の街カラーム』からも消失が発生しているらしい。
特殊な確率で発生する徘徊クエストは別名”ラッキークエスト”とも呼ばれ、プレイヤーからは評判が良い。普通のクエストよりも報酬が豪華であり、上手くすれば特殊なエリアへ連れて行ってもらえることもあるらしい。
その為、クエストを持ち徘徊をし続けるNPCの存在はプレイヤーにとっては非常に大切なものでありそれが次々に消えているとなったらプレイヤーは黙ってられない。
その例として、消失したNPCを探し出すギルドが幾つも設立されており、現在も様々な可能性を検証しては散策を続けているらしい。一部プレイヤーはレッドプレイヤー……プレイヤーキラーの連中が誘拐したのでは?と考えている者も居るらしい。
そう考えても仕方ないとは思うが、流石に突拍子が無いと思う。
「僕は一応まだ探しますけどー……望み薄ですねー」
「おー、見つけたら連絡するわ」
「有難いですー」
その後少し言葉を交わし、情報売買を繰り返したのちシキノは小さく何かを呟いた。
―――瞬刻、シキノの姿にノイズが入り始め足から順に霧散するように身体が消えていった。
「おーい……何そのチートみたいな移動方法……」
小さく呟いた声は風と共に光り輝く太陽へと吸い込まれていった。
【スキルレベルの上昇が無い為、ステータスは表示されません】
* * * * * * * * * * * * *
《槍》
非常に効率が良い武器。
近接武器でありながら、一定の距離を保ち攻撃が可能なアドバンテージを持つが他の武器より耐久力が無く、こまめな修理が必要となる。なお、槍は突くことに特化した武器であるためモンスターに対する相性が非常に濃く現れる故、柔いモンスターは即死させることも可能だが、硬いモンスターには一切の攻撃が通らない事もある。しかし、その分衝撃は伝わるので怯ませることが可能である。遊撃することが得意な武器であると言える。
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