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『第2の街シドネス』

30.満身創痍

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「―――きっつ……」

 俺は目の前に倒れている白髪の少女を見て、呟いた。

「もう、戦えないだろうが。子供を倒すのは気が引ける。降参してくれよ」

 息を切らしながら、俺は言葉を紡ぐ。もう、その動作さえが辛い。
 しかし、そんなこと関係ないとでも言う様に少女はゆっくりと地面に手をつき、立ち上がる。

 少女の髪の竜はもうほとんどがだらんとしており、まともに動いているのは少女が操作する1体と少女の傷だらけの身体をどうにか支える2体だけだ。

 ”満身創痍”。
 少女の風貌はまさにソレだった。


 ―――髪は所々が黒く汚れ、竜が撃沈している。

 ―――可愛らしい顔は傷だらけで、血に汚れている。

 ―――白かったワンピースはどす黒い血の色に染まっている。




 ―――しかし、それでも、瞳に潜み燃える闘いへの焔だけは、煌々と”生命”と言う代償を糧に激しくなる。




「ヒュー…ヒュー…ヒュー…」

 少女が息をするたびに、悲しいくらいの戦いの証が聞こえる。上手く息が吸えないのは俺の攻撃が呼吸器官系統に入ったからだろう。

「なぁ、頼む。アリスが起きない内に――――」

「い…や………」

 俺の懇願に、少女は途切れ途切れの言葉を紡いだ。

 俺も少女も限界に近い。いや、少女の方は限界を優に突破しているだろう。それなのにまだ戦おうとするのはもはや狂気と言っても良いレベルの域までに到達していた。

「なんで……どうしてだよ…もう俺もお前も限界だろうが…なのに、どうして…」

 少女の狂気の域に達したその戦闘意欲は俺には全く理解が出来ない。いや、理解”出来ない”のではなく、”したくない”と言った方が良いのかもしれない。

「このまま……降参しても……その後…命が尽きて……死ぬだけ……そんなの……嫌…!」







 ―――――――ああ、そうか。この子にもこの子の人生があるんだ。







 NPCなんかじゃなく、この目の前の少女にも、命と言う名の炎は宿っているんだ。

「はぁ………」

 少女を視界から外し、溜息をついた。

 俺はどこかで機械扱いしてたのかもな……
 自分自身の中にいる嫌な、黒い、暗い部分の己を垣間見た瞬間だな…。

「おい、それなら―――――って………」

 一度外した視界を、元に位置に戻し固定すると白髪の少女は―――――地面に倒れていた。

「マジかー」

 近づくと、完全に意識を失っている様で先程まで立っていたのが逆に奇跡だ。髪竜も消えており、ただの白髪に戻っている。これ放置すると死ぬよな……。

 俺はどうするべきかと悩んだ結果【ロー・レアヒールポーション】を掛けて、少女を壁際に移動させた。座らせるように少女を地面に横たわらせ、その近くに【自由変換飲料】から作った【牛乳】と【林檎】、【カロリーブロック】を置いておいた。

 小さい子は【牛乳】好きだよな…?背も大きくなるし、一石二鳥的な感じだよな…?

 そうして、その状態の少女にモンスター(狼)の毛皮を掛けた。

「これで良いよな」


 ――――降参して死ぬのが嫌なら、生きれば良い!
 うん!俺もハッピー、あの子もハッピー。困るヤツはだーれも居ない。

 迷宮攻略ポイントに加算されないのは残念だが、仕方ない事だ。俺は今だに気絶しているアリスを抱きかかえ、階段を下りた。

 途中の階で、本やらランプやら色々が居たが攻撃をしてくることは一回も無かった。まあ、今攻撃してきたらAPもすっからかんだし、簡単にやられちゃうんだが……

 しかし、何故攻撃してこないんだ?良く分からん連中だ。登って来る時はとんでもない数で集団リンチしようとしてきたのに…

「…わっかんねぇ…」


 * * * * * * * * * * * * * 


「ん…んん…」

「おう、起きたか。アリス」

 俺は重そうに瞼を開けたアリスに声を掛ける。
 アリスはその問いかけにしばらく応答せずに、ぼーっと俺の方を見ていたがしばらくして跳ね起きた。

「――い、いや!いやいやいや!膝枕は駄目!」

「――――――は?」

 起きたのは良いのだが、突然そんな事を言われても反応に困る。
 確かに”膝枕”をしていたのは事実だが、地面にそのまま寝かすわけにはいかないし、仕方ない事だろう。と言うか何もそんなに嫌がらなくても……

「はッ!あの子は!?ボス戦はどうなりました!?っていうか右腕は!?」

 忙しい奴だな…膝枕やらボス戦やら…俺の無くなっている右腕やら…
 そんなに急いで聞かなくても教えてやるっつーの。

「逃げ帰ってきたよ。ありゃ無理だ。強すぎる。右腕に関してはノーコメントだ」

「ノーコメントって…いや、そうですか…すいません、足引っ張っちゃって」

「いや、問題ない…」

「むしろ好都合だった」と言おうとしたが、流石に憚られた。そんなこと言ってどういう事かと問い詰められたらどうしようもないからな。

「迷宮はもう移動したぞ」

 俺とアリスが出て数分後、迷宮は光の粒子になって消滅した。あの現象は多分”迷宮移動”と言うやつなのだろう。

「あいつ大丈夫かな…」

 俺はそう呟きながら、あの屋敷に居た一人の少女を思い浮かべる。
 魔女でもなんでもなかったただの少女。もしもあんなに弱っている状態で他のプレイヤーに出会ってしまったら……そう考えると背筋が凍る。

「これからどうしますか?」

「う~ん……もう遅いし今回は解散で良いか?」

「了解です。それじゃ」

「ああ」

 結局一つも迷宮は攻略できず…か。うーん……報酬は期待しない方が良いっぽいな。アリスには悪い事をしてしまったな。今度何か奢ってやろう。

「スキル進化させるか…」

 システムから自分のスキル構成を見てそう呟いた。やっとレベルがMAXになったスキルが増えてきた。スキルポイントも結構あるし、進化させても問題は無いだろう。

 えーっと、進化できるスキルは……《立体機動》と《盗賊》か…

 《立体機動》と《盗賊》の進化項目を開くと、一つずつしか選択肢が無かった。もしかしたら《視覚強化》の進化先の多さが異常だったのかもしれない。

 俺は一つしかないので迷うことなくどちらもスキル進化をさせた。

 《立体機動》は《空間機動》に、《盗賊》は《熟練盗賊》に。やはり進化にはスキルポイントを35消費した。これで合計70の消費だ。意外と消費するなぁ……

 《空間機動》の使い心地を試してみるために、そこ等辺の樹に左腕のみで、ぶら下がってパルクール的な事をやってみたりしたのだが、まだあまり差は分からない。

 アーツも増えてはいない様だし、レベルが上がるにつれて使いやすくなる系のスキルなのだろうか。そんな感じで、体を動かしていると今度は《体術》のレベルがMAXになった。進化ラッシュだ。

 《体術》の進化項目を開くと選択肢は一つではなかった。ああ、良かった。…何が良かったのかは俺も分からないけど。


【《体術》進化・派生一覧】
 ―通常進化―
 《武術》
 ―特殊進化―(通常進化の強化版)
 《護身術》
 ―条件進化―(条件達成時のみ表示)
 《即死術》


 ………いやいやいやいやいやいやいやいや!!!

 怖いのが一つ混ざってるんだけど!?何⁉《即死術》って!こわッ!即死って書いてあるよ!流石に怖すぎて選べないわ……選んだヤツ居たら尊敬するわ…

 と言うかなんでこんな危険極まりないスキルの条件満たしちゃってんの…俺は…。そんなに危ない事やってる気は無いんだが…。

 《護身術》は完全に自分を守る為のスキルだな。カウンターとか狙いやすそうなスキルだけど、これもあまりな………。それにリーチが短いからカウンターは決まりにくいか…。

 それにしても特殊進化が《護身術》って……通常進化の強化版なんだろうけど、スキル選びは失敗したら命とりだし…ココは普通に……。

 となると…通常進化の《武術》か。強化版の《護身術》は気になるが、無難なところを今回は攻めていこう。スキル名から普通だしな、《武術》って。

 よし、とりま進化っと。
 また35ポイント使うのか……この短時間で合計105ポイントも使ったぞ……。今持ってるスキルポイントの半分が消失した。ヤバいなぁ…前に森で見つけたスキルポイントが5増える草、どうにかして大量ゲットできないもんかなぁ……

 まあ、今はとりあえずこのスキル達を少し育ててから街に帰ってログアウトしようっと。あ、その前に一回死んで腕直しとこ。こういうのデスベホマっていうんだよな……


プレイヤー:ノア
【スキル一覧】
《短剣》Lv91《武術》Lv6(↑5UP)(New!)《闇魔法》Lv74
《熟練盗賊》Lv5(↑4UP)(New!)《隠蔽》Lv90(↑2UP)
《空間機動》Lv8(↑7UP)(New!)《万能眼》Lv14(↑4UP)
《調薬》Lv30《採掘》Lv17《遊泳》Lv50

控えスキル
《釣り》Lv39《鍛冶》Lv24

スキルポイント:132

【二つ名】
終焉スキラー・終焉兎

【称号】
失敗の経験者・因縁を果たす者・真実を知る者・《怠惰》なる大罪人・歩く厄介箱・不屈・GM泣かせ



* * * * * * * * * * * * * 
―――不屈―――
不屈なる者、不屈の魂を宿す者に与えられる称号。
全ての攻撃において打たれ強くなる。ノックバックが起きにくい、HPが全損しても極々稀に1で耐える等の恩恵がある。不屈の対立称号として”虚弱の魂”という称号が存在する。
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