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『始まりの街』
13.共闘と言えない共闘
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「あ、ランプ消えた」
そんな言葉が洞窟内を支配した。つまり指し示すことは一つ。クリアした時の色は教えてもらえなかったので、掲示板で調べると光の色は『青』だそうだ。最初からこっちを見てれば良かったな。
通常が『緑』。戦況が傾いてきたら『黄』。危機は『赤』。
そして――――――全滅、または降参の場合は光の『消失』。
「どうやらやられたっぽいな」
俺は余っている【ロー・ヒールポーション】の数を確認しながらそう口にする。しかし、一応先程のPTはβ組だ。それがやられたとなると、いささかボス戦が不安である。
「気をつけろよ。一応だがβ組の連中がやられたんだ。もしかしたらβ版と違うのかもしれない」
俺はβ組PTが戦っている間に仲良くなった、β組のヤツに文句を言っていたプレイヤーに警告する。少ししか話していないが、コイツは無鉄砲な傾向があるらしく話している様子からもひしひしと伝わってきた。
「分かってらー、初回討伐は俺達がしちゃうかもしれないぜ?」
「冗談も程々にな?」
お互いがお互いをおちょくりあう。
「――――――」
「――――――」
「「プッ、アハハハハハハ!」」
少しの沈黙の後、二つの大きな笑い声が響き渡る。
「さよならは言わないぜ、不遇の短剣使い」
「カッコつけんな、無鉄砲な鞭使い」
お互いの腰につけてある武器はどちらも中々に珍しい武器だ。どっちもどっちでかなりマイナーである。
鞭使いのPTは、ルーレットを回してゲート内へと入っていった。ゲート内は歪んだ空間の様に見えており、プレイヤーが入っていく様はまるで何者かに取り込まれているかのようにも見えて不気味だ。
そうして、ボスゲート前には俺一人……じゃないな。もう一人いる。さっきから、帰ろうか一応挑戦してみようか迷って洞窟内をぐるぐるしている奴だ。
「お前はどうするんだー?えーっと…モブ君だっけ?」
「違います!モブルです!ああ…こんな名前になるならランダム設定にするんじゃなかった…」
モブルはずっとそんなことを呟いている。ボスゲートのランプの光はまだ緑だ。戦況の変化はあまりないようだな。あの鞭使いの回したルーレットは≪PT全員1.5倍防御力UP≫。かなり運が良いと言える。
そんなことを思っていると、モブルがこちらに向けて言葉を発する。
「僕がここで挑戦すると言ったら、貴方はどうしますか…?」
「え、俺?順番を譲るか、一緒に行かせてもらう」
可能性を二つ、彼の前に提示する。一応、彼は生産職なのでここで戦っても戦わなくても良いのだ。もしこれが戦闘職で戦わなかったら、ちょっとアレだが……
「え、あの、じゃあ、一緒に行かせてもらっても良いですか?ボス」
「お!良いぞ!数は多い方が俺も心強いしな!」
「有難うございます!」
モブルは喜びながらそう言ってきた。そうと決まれば会議だ。お互い持っているスキルを教えていく。多分、いきなり連携とかは不可能なので二人とも邪魔にならないように少し離れて戦う事にした。
そんなことを詳しく話していると、ランプが赤色に光りだした。
「あー…やばそうだな」
「こういう時、入れないのが辛いですね」
「だな」
赤色に染まったランプは間もなくして、消えた。彼らも失敗。
やはりと言うべきか一筋縄にはいかない様だ。さて、スキルがハイブリット型の俺と生産街道を突っ走っていて、あまり戦闘スキルを取っていないモブルの異色コンビは、吉と出るか凶と出るか……
「モブル、ルーレット回していいぞ」
「えっ!ホントですか!実は回したかったんですよね~」
そう言いながらモブルはルーレットを回しだす。止まったのは≪ドロップ率UP≫。まあ、勝たなきゃ意味が無い効果だな。
「そんじゃ、いっちょ暴れようか」
「ハイ!」
俺とモブルは歪んだ空間が広がっているボスゲート内へと体を押し込めていった。
ゲートの先は森だった。丸いスタジアムの様な形で俺たちが居る所だけ樹が無くなっているが、周りは無数に樹が生えている。辺りは暗い。ゲーム内時間と関係があるのだろうか?ちなみにゲーム内時間は夜だ。
それ以外に気になるところと言ったら、”3つ程人魂”が浮いている事だろうか?あれは演出なのか?普通に怖い。
そんなことを思っていると、目の前に巨大な何かが現れた。
「ゲロォォォォォォォォォォオオオ!!!」
「ひィィィィ!!!」
何者かの咆哮と、俺のすぐ隣からの悲鳴が森に響く。俺は静かに構え、モブルにも武器を無理矢理に構えさせた。
段々と、目の前に巨体が見えてくる。その瞬間、森全体に明かりが灯る。
「ゲェェェェェェェロォォォォォォォォォオオオ!!!!!」
再度雄たけびを上げながら、全身紫色の巨蛙が姿を露わにした。
俺はすぐに闇魔法を撃つ準備をしようとしたが、なぜだろう?―――――――身体が『動かない』。
どうやらモブルも俺と同様に身体が『硬直』してしまっている様で、口がパクパクとしか動いていない。これは一体どういう事なんだ?
次の瞬間、紫蛙…『フロッグプレイサー』が大きく飛びあがる。
そして、上空から二つの球体に分かれた液体を吐いてきた。ビッグフロッガーと戦ったからわかる…。あれは……酸だ…!
フロッグプレイサーが吐いた酸球は、勢いよくこちらに向かってくる。当たったらかなりヤバイ。体がまだ動かない…このままじゃ…!
酸球が目の前まで近づいた瞬間、身体の主導権が自分へと還元されたのを感じた。動ける!動ける動ける!!しかし、身体が動くことに歓喜している場合じゃない。すぐに避けなくては…!
「〈瞬発〉ゥ!!」
俺は《盗賊》の新アーツを発動し、すぐさま回避する。《立体機動》と《体術》も自分の動きに補正を掛けてくれて、ギリギリで避けることに成功した。
どうして先程まで体が動かなかったのかは考えられる可能性は幾つかあるが、一番有力なのは”蛙の咆哮に『硬直』効果がある”と言う事だ。
そうなると、前に挑戦した奴らもこの洗礼を受けたことになる。
まあ、PTの場合腕のいい魔法使いがいるのならボスゲートに入った瞬間から詠唱をしていれば、低級の防御障壁くらいならギリギリ張れるか。
「あびゃー!!!」
あ……やべ、モブルの野郎モロに受けたっぽい。
「モブル!モブル!!モブ!!!大丈夫か!」
「モブって言うなぁ!!ポーション持ってますよぉ!!」
「じゃあ、戦闘開始だ!!」
「分かってますよ!!!」
戦闘開始だ。
「おらぁ!複合アーツだァ!喰らってみろぉ!―――〈アクアトルネード〉!」
モブルが竜巻に水流を合体させ、巨大な水の竜巻を生成する。巨大な水の竜巻は勢いよくフロッグプレイサーに直撃する。
モブルが持っている戦闘アーツは《風魔法》と《水魔法》。それ以外は全て生産系スキルだ。まあ、生産職プレイヤーなのに、二つ魔法スキルを持っているだけすごいと思う。
その水流竜巻の攻撃を喰らったフロッグプレイサーはモブルを標的としてとらえる。
俺とモブルは、かなり離れたところに二人とも位置している。モブルに視線がいけば俺が視界から外れ、俺に視線が来ればモブルから視線が外れる。
「〈ダークボール〉!」
俺は〈ダークボール〉をフロッグプレイサーに向けてではなく、自分の真下の地面に打ち込む。成功しろよ…!
―――――――ドゴォォォォォン!!!
とんでもない音を立てて、自分を中心に紫色の小爆発が起こる。半分近くHPが減ったが上手くいったようだ。
「よっしゃーーー!!!逝く、じゃなくて…行くぜー!!」
「ふぁい!?何やってんの!?あの人!?」
モブルが大声でそう言う。まあ、無理はない。今俺――――――飛んでるし。
原理はいたってシンプル。
自分の真下に魔法を撃ち、威力が全く落ちていない状態で地面に直撃。その直撃した時の爆発をうまく利用し、俺が吹っ飛ぶ。
HPがとんでもなく減ったがとりあえず成功だ。さあ、ココからしっかり当てられるかが問題だな…
俺はアーツ使用態勢に入る。上空から、フロッグプレイサーの脳天に向けて――――――、
「〈かかと落とし〉ィ!」
――――――――――――カコン!
とんでもなく良い音がした。俺はすぐにフロックプレイサーの頭から降りることはせず、そのまま短剣を取り出し、アーツを連続して発動する。
「〈スラッシュ〉!〈ダブルスラッシュ〉!」
合計三回大きな斬撃をし、最後にもう一度アーツを発動する。
「〈ハッシュ〉!1234!四回!!」
〈ハッシュ〉。AP15消費の短剣アーツ。
相手を連続で斬り付け続け、その時の運や調子に寄るが最大10回連撃が可能となるモノだ。
俺はすぐに降りようとしたのだが、そこで事件が起きた。
―――ガシッ!
「ガシッ?」
頭の上から降りようとジャンプした瞬間、何かに腹のあたりをぐるりと掴まれたのだ。ちょっと触ってみると、ぬるぬるしていて気持ち悪い。
そのぬるぬるしたモノを辿っていくと、到達した先は―――、
「あ、あはは。ご機嫌麗しゅう…。私の歓迎法、喜んでいただけました…?」
フロッグプレイサーの口だった。
「うわー!バカだー!!!!」
残念ながら腕は掴まれていて何もできない。〈闇魔法〉もさっきの猛攻のせいでAPがすっからかんだから撃てない。これはあれだ。万事休す――ってやつだ。
仕方ない。最後にカッコいい事でも言って飲み込まれよう。フロッグプレイサーの気持ち悪い口が段々と近づいてくる。そんな中俺は―――、
「You can do it.」
「うわーーーーー!!!カッコ悪いー!!」
「ちょ、それは無いんじゃない!?それならI'll be bac―――――」
「うわーーー!喰われたーー!!」
そこから先、俺は死んで観戦モードに入ったのだが…まあ、やられっぷりはご想像にお任せします……
* * * * * * * * * * * * *
戦いが始まった。
俺はただただその戦いの行方を見る。俺はキョウ。しがない鞭使いだ。
ボスに挑んでぼろ負けした。酸の雨にズダボロにされた。
そして今は、俺の次に戦っている奴らのボス戦を見ている。なんでも、やられたら次のプレイヤーのボス戦だけ観戦が出来るらしい。俺は多分あの短剣使いが次戦うだろうと思い、観戦することにした。
仲間たちも「見たい」と言ってくれたので良かった。
~鞭使いPTの会話~
鞭使い「おー、始まった始まった」
魔法使い「あ、あの硬直から逃げたよ!凄いね!あの人!」
戦士「俺たちはギリギリ障壁張ったから助かったが、あんな避け方出来るか?普通」
魔法使い「無理だよ。多分スキルで補正かなりかかってるよ」
鞭使い「あ、でも杖持ってる方は受けたな」
魔法使い「いたそ~…」
戦士「まあ、ポーション使ったし大丈夫っぽいな」
* * * * * * * * * * * * *
魔法使い「あ!あ!あ!複合アーツだよ!!珍しい!レアだよレア!」
戦士「おー…すげえなー」
魔法使い「答えがシンプル!もっと驚いてよ!結構すごいんだよ!?」
鞭使い「おい……なんかアイツ地面に向けて詠唱始めたぞ…」
魔法使い「は?何言ってるの、キョウ。って、んん!?」
戦士「あ、爆発した」
魔法使い「うわー!うわー!うわー!」
鞭使い「おおー!飛んでるなぁ~…」
戦士「ホントだなぁ~…」
魔法使い「うわー!うわー!うわー!」
鞭使い「ちょ、お前うるさいぞ?」
魔法使い「あんな使い方間違ってる!私は認めないぞー!あんな!!」
鞭使い「おお!脳天やったぞ!アイツ!すげぇ」
魔法使い「ちょ、杖の子も見てあげて!あの子水魔法でヘイトをこっちに集めようと奮起してるから!」
戦士「いや、でも――」
魔法使い「――――――」
戦士「はい…」
* * * * * * * * * * * * *
鞭使い「捕まったな…」
魔法使い「捕まったね」
戦士「捕まえられたな」
鞭使い「あ、食われるぞ」
魔法使い「なんか言ってますよ……ぷーっ!「You can do it.」だって!あっはっは!」
鞭使い「あの二人騒がしいな…!凄い叫んでるぞ」
* * * * * * * * * * * * *
戦士「あ、あの子もやられた」
鞭使い「んじゃ、復活しますか」
魔法使い「行きましょ、行きましょ」
戦場に浮いていた3つの人魂が消えた。
プレイヤー:ノア
【スキル一覧】
《短剣》Lv24(↑2UP)《体術》Lv27(↑3UP)《闇魔法》Lv21(↑2UP)
《盗賊》Lv24(↑2UP)《隠蔽》Lv30(↑1UP)《視覚強化》Lv26(↑1UP)
《立体機動》Lv15(↑13UP)(New)《鍛冶》Lv23《調薬》Lv12《採掘》Lv10
スキルポイント:19
【二つ名】
終焉スキラー
* * * * * * * * * * * * *
《鞭》
鞭を扱えるようになる。自由自在に操作し、ヘッドスピードは音速に迫る。扱いは少々難しいが、熟練になればとんでもない性能を発揮するテクニック武器。人の皮膚を容易く切り裂き、絡めとって引き寄せる。何でもOK!この武器一本!
そんな言葉が洞窟内を支配した。つまり指し示すことは一つ。クリアした時の色は教えてもらえなかったので、掲示板で調べると光の色は『青』だそうだ。最初からこっちを見てれば良かったな。
通常が『緑』。戦況が傾いてきたら『黄』。危機は『赤』。
そして――――――全滅、または降参の場合は光の『消失』。
「どうやらやられたっぽいな」
俺は余っている【ロー・ヒールポーション】の数を確認しながらそう口にする。しかし、一応先程のPTはβ組だ。それがやられたとなると、いささかボス戦が不安である。
「気をつけろよ。一応だがβ組の連中がやられたんだ。もしかしたらβ版と違うのかもしれない」
俺はβ組PTが戦っている間に仲良くなった、β組のヤツに文句を言っていたプレイヤーに警告する。少ししか話していないが、コイツは無鉄砲な傾向があるらしく話している様子からもひしひしと伝わってきた。
「分かってらー、初回討伐は俺達がしちゃうかもしれないぜ?」
「冗談も程々にな?」
お互いがお互いをおちょくりあう。
「――――――」
「――――――」
「「プッ、アハハハハハハ!」」
少しの沈黙の後、二つの大きな笑い声が響き渡る。
「さよならは言わないぜ、不遇の短剣使い」
「カッコつけんな、無鉄砲な鞭使い」
お互いの腰につけてある武器はどちらも中々に珍しい武器だ。どっちもどっちでかなりマイナーである。
鞭使いのPTは、ルーレットを回してゲート内へと入っていった。ゲート内は歪んだ空間の様に見えており、プレイヤーが入っていく様はまるで何者かに取り込まれているかのようにも見えて不気味だ。
そうして、ボスゲート前には俺一人……じゃないな。もう一人いる。さっきから、帰ろうか一応挑戦してみようか迷って洞窟内をぐるぐるしている奴だ。
「お前はどうするんだー?えーっと…モブ君だっけ?」
「違います!モブルです!ああ…こんな名前になるならランダム設定にするんじゃなかった…」
モブルはずっとそんなことを呟いている。ボスゲートのランプの光はまだ緑だ。戦況の変化はあまりないようだな。あの鞭使いの回したルーレットは≪PT全員1.5倍防御力UP≫。かなり運が良いと言える。
そんなことを思っていると、モブルがこちらに向けて言葉を発する。
「僕がここで挑戦すると言ったら、貴方はどうしますか…?」
「え、俺?順番を譲るか、一緒に行かせてもらう」
可能性を二つ、彼の前に提示する。一応、彼は生産職なのでここで戦っても戦わなくても良いのだ。もしこれが戦闘職で戦わなかったら、ちょっとアレだが……
「え、あの、じゃあ、一緒に行かせてもらっても良いですか?ボス」
「お!良いぞ!数は多い方が俺も心強いしな!」
「有難うございます!」
モブルは喜びながらそう言ってきた。そうと決まれば会議だ。お互い持っているスキルを教えていく。多分、いきなり連携とかは不可能なので二人とも邪魔にならないように少し離れて戦う事にした。
そんなことを詳しく話していると、ランプが赤色に光りだした。
「あー…やばそうだな」
「こういう時、入れないのが辛いですね」
「だな」
赤色に染まったランプは間もなくして、消えた。彼らも失敗。
やはりと言うべきか一筋縄にはいかない様だ。さて、スキルがハイブリット型の俺と生産街道を突っ走っていて、あまり戦闘スキルを取っていないモブルの異色コンビは、吉と出るか凶と出るか……
「モブル、ルーレット回していいぞ」
「えっ!ホントですか!実は回したかったんですよね~」
そう言いながらモブルはルーレットを回しだす。止まったのは≪ドロップ率UP≫。まあ、勝たなきゃ意味が無い効果だな。
「そんじゃ、いっちょ暴れようか」
「ハイ!」
俺とモブルは歪んだ空間が広がっているボスゲート内へと体を押し込めていった。
ゲートの先は森だった。丸いスタジアムの様な形で俺たちが居る所だけ樹が無くなっているが、周りは無数に樹が生えている。辺りは暗い。ゲーム内時間と関係があるのだろうか?ちなみにゲーム内時間は夜だ。
それ以外に気になるところと言ったら、”3つ程人魂”が浮いている事だろうか?あれは演出なのか?普通に怖い。
そんなことを思っていると、目の前に巨大な何かが現れた。
「ゲロォォォォォォォォォォオオオ!!!」
「ひィィィィ!!!」
何者かの咆哮と、俺のすぐ隣からの悲鳴が森に響く。俺は静かに構え、モブルにも武器を無理矢理に構えさせた。
段々と、目の前に巨体が見えてくる。その瞬間、森全体に明かりが灯る。
「ゲェェェェェェェロォォォォォォォォォオオオ!!!!!」
再度雄たけびを上げながら、全身紫色の巨蛙が姿を露わにした。
俺はすぐに闇魔法を撃つ準備をしようとしたが、なぜだろう?―――――――身体が『動かない』。
どうやらモブルも俺と同様に身体が『硬直』してしまっている様で、口がパクパクとしか動いていない。これは一体どういう事なんだ?
次の瞬間、紫蛙…『フロッグプレイサー』が大きく飛びあがる。
そして、上空から二つの球体に分かれた液体を吐いてきた。ビッグフロッガーと戦ったからわかる…。あれは……酸だ…!
フロッグプレイサーが吐いた酸球は、勢いよくこちらに向かってくる。当たったらかなりヤバイ。体がまだ動かない…このままじゃ…!
酸球が目の前まで近づいた瞬間、身体の主導権が自分へと還元されたのを感じた。動ける!動ける動ける!!しかし、身体が動くことに歓喜している場合じゃない。すぐに避けなくては…!
「〈瞬発〉ゥ!!」
俺は《盗賊》の新アーツを発動し、すぐさま回避する。《立体機動》と《体術》も自分の動きに補正を掛けてくれて、ギリギリで避けることに成功した。
どうして先程まで体が動かなかったのかは考えられる可能性は幾つかあるが、一番有力なのは”蛙の咆哮に『硬直』効果がある”と言う事だ。
そうなると、前に挑戦した奴らもこの洗礼を受けたことになる。
まあ、PTの場合腕のいい魔法使いがいるのならボスゲートに入った瞬間から詠唱をしていれば、低級の防御障壁くらいならギリギリ張れるか。
「あびゃー!!!」
あ……やべ、モブルの野郎モロに受けたっぽい。
「モブル!モブル!!モブ!!!大丈夫か!」
「モブって言うなぁ!!ポーション持ってますよぉ!!」
「じゃあ、戦闘開始だ!!」
「分かってますよ!!!」
戦闘開始だ。
「おらぁ!複合アーツだァ!喰らってみろぉ!―――〈アクアトルネード〉!」
モブルが竜巻に水流を合体させ、巨大な水の竜巻を生成する。巨大な水の竜巻は勢いよくフロッグプレイサーに直撃する。
モブルが持っている戦闘アーツは《風魔法》と《水魔法》。それ以外は全て生産系スキルだ。まあ、生産職プレイヤーなのに、二つ魔法スキルを持っているだけすごいと思う。
その水流竜巻の攻撃を喰らったフロッグプレイサーはモブルを標的としてとらえる。
俺とモブルは、かなり離れたところに二人とも位置している。モブルに視線がいけば俺が視界から外れ、俺に視線が来ればモブルから視線が外れる。
「〈ダークボール〉!」
俺は〈ダークボール〉をフロッグプレイサーに向けてではなく、自分の真下の地面に打ち込む。成功しろよ…!
―――――――ドゴォォォォォン!!!
とんでもない音を立てて、自分を中心に紫色の小爆発が起こる。半分近くHPが減ったが上手くいったようだ。
「よっしゃーーー!!!逝く、じゃなくて…行くぜー!!」
「ふぁい!?何やってんの!?あの人!?」
モブルが大声でそう言う。まあ、無理はない。今俺――――――飛んでるし。
原理はいたってシンプル。
自分の真下に魔法を撃ち、威力が全く落ちていない状態で地面に直撃。その直撃した時の爆発をうまく利用し、俺が吹っ飛ぶ。
HPがとんでもなく減ったがとりあえず成功だ。さあ、ココからしっかり当てられるかが問題だな…
俺はアーツ使用態勢に入る。上空から、フロッグプレイサーの脳天に向けて――――――、
「〈かかと落とし〉ィ!」
――――――――――――カコン!
とんでもなく良い音がした。俺はすぐにフロックプレイサーの頭から降りることはせず、そのまま短剣を取り出し、アーツを連続して発動する。
「〈スラッシュ〉!〈ダブルスラッシュ〉!」
合計三回大きな斬撃をし、最後にもう一度アーツを発動する。
「〈ハッシュ〉!1234!四回!!」
〈ハッシュ〉。AP15消費の短剣アーツ。
相手を連続で斬り付け続け、その時の運や調子に寄るが最大10回連撃が可能となるモノだ。
俺はすぐに降りようとしたのだが、そこで事件が起きた。
―――ガシッ!
「ガシッ?」
頭の上から降りようとジャンプした瞬間、何かに腹のあたりをぐるりと掴まれたのだ。ちょっと触ってみると、ぬるぬるしていて気持ち悪い。
そのぬるぬるしたモノを辿っていくと、到達した先は―――、
「あ、あはは。ご機嫌麗しゅう…。私の歓迎法、喜んでいただけました…?」
フロッグプレイサーの口だった。
「うわー!バカだー!!!!」
残念ながら腕は掴まれていて何もできない。〈闇魔法〉もさっきの猛攻のせいでAPがすっからかんだから撃てない。これはあれだ。万事休す――ってやつだ。
仕方ない。最後にカッコいい事でも言って飲み込まれよう。フロッグプレイサーの気持ち悪い口が段々と近づいてくる。そんな中俺は―――、
「You can do it.」
「うわーーーーー!!!カッコ悪いー!!」
「ちょ、それは無いんじゃない!?それならI'll be bac―――――」
「うわーーー!喰われたーー!!」
そこから先、俺は死んで観戦モードに入ったのだが…まあ、やられっぷりはご想像にお任せします……
* * * * * * * * * * * * *
戦いが始まった。
俺はただただその戦いの行方を見る。俺はキョウ。しがない鞭使いだ。
ボスに挑んでぼろ負けした。酸の雨にズダボロにされた。
そして今は、俺の次に戦っている奴らのボス戦を見ている。なんでも、やられたら次のプレイヤーのボス戦だけ観戦が出来るらしい。俺は多分あの短剣使いが次戦うだろうと思い、観戦することにした。
仲間たちも「見たい」と言ってくれたので良かった。
~鞭使いPTの会話~
鞭使い「おー、始まった始まった」
魔法使い「あ、あの硬直から逃げたよ!凄いね!あの人!」
戦士「俺たちはギリギリ障壁張ったから助かったが、あんな避け方出来るか?普通」
魔法使い「無理だよ。多分スキルで補正かなりかかってるよ」
鞭使い「あ、でも杖持ってる方は受けたな」
魔法使い「いたそ~…」
戦士「まあ、ポーション使ったし大丈夫っぽいな」
* * * * * * * * * * * * *
魔法使い「あ!あ!あ!複合アーツだよ!!珍しい!レアだよレア!」
戦士「おー…すげえなー」
魔法使い「答えがシンプル!もっと驚いてよ!結構すごいんだよ!?」
鞭使い「おい……なんかアイツ地面に向けて詠唱始めたぞ…」
魔法使い「は?何言ってるの、キョウ。って、んん!?」
戦士「あ、爆発した」
魔法使い「うわー!うわー!うわー!」
鞭使い「おおー!飛んでるなぁ~…」
戦士「ホントだなぁ~…」
魔法使い「うわー!うわー!うわー!」
鞭使い「ちょ、お前うるさいぞ?」
魔法使い「あんな使い方間違ってる!私は認めないぞー!あんな!!」
鞭使い「おお!脳天やったぞ!アイツ!すげぇ」
魔法使い「ちょ、杖の子も見てあげて!あの子水魔法でヘイトをこっちに集めようと奮起してるから!」
戦士「いや、でも――」
魔法使い「――――――」
戦士「はい…」
* * * * * * * * * * * * *
鞭使い「捕まったな…」
魔法使い「捕まったね」
戦士「捕まえられたな」
鞭使い「あ、食われるぞ」
魔法使い「なんか言ってますよ……ぷーっ!「You can do it.」だって!あっはっは!」
鞭使い「あの二人騒がしいな…!凄い叫んでるぞ」
* * * * * * * * * * * * *
戦士「あ、あの子もやられた」
鞭使い「んじゃ、復活しますか」
魔法使い「行きましょ、行きましょ」
戦場に浮いていた3つの人魂が消えた。
プレイヤー:ノア
【スキル一覧】
《短剣》Lv24(↑2UP)《体術》Lv27(↑3UP)《闇魔法》Lv21(↑2UP)
《盗賊》Lv24(↑2UP)《隠蔽》Lv30(↑1UP)《視覚強化》Lv26(↑1UP)
《立体機動》Lv15(↑13UP)(New)《鍛冶》Lv23《調薬》Lv12《採掘》Lv10
スキルポイント:19
【二つ名】
終焉スキラー
* * * * * * * * * * * * *
《鞭》
鞭を扱えるようになる。自由自在に操作し、ヘッドスピードは音速に迫る。扱いは少々難しいが、熟練になればとんでもない性能を発揮するテクニック武器。人の皮膚を容易く切り裂き、絡めとって引き寄せる。何でもOK!この武器一本!
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