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カナリアに出会ってから一年が経っていた。カナリアとはあれ以来会う事もなく平穏に過ごしている。そんなある日の事だった
その日、アランは王宮での仕事があり外出していた。屋敷にはセシルと使用人だけであった。屋敷に来た当初はセシルと使用人達の間にも少し距離があったが、今ではその距離も信頼で埋まっていた
先日、庭師のタッダから新しく庭に植えた花が綺麗に咲いたと聞いたので、この日は天気も良かったのもあり、庭でティータイムをしていた。穏やかな時間が流れていた時、屋敷の方から騒がしい声が聞こえてくる
「なにかしら。マルシェ、確認してきてくれる?」
「はい、奥様」
そう言うとマルシェは屋敷の方へ向かった。数分後、戻ってきたのは確認に行ったマルシェではなく、侍女長のジルダであった。普段の穏やかなジルダには珍しく、鼻息荒く怒っているのがありありと伝わってくる
「ジルダ、どうしたの?なにかあったのかしら?」
心配そうにするセシルに、ジルダは困った様な、申し訳ないような、そんな表情になる
「…奥様、今来客があっているのですが…」
「え?お約束していたかしら…」
「いえ、本日お約束はありません」
「では、その方は急を要する事でお見えなの?」
アランも不在な事から、そんな大事に自分が対処出来るか不安になる
「その様な大事な用事でもないのです」
ジルダははっきりと言った
「…では、何用なのかしら…お名前はお伺いした?」
「……ゴールディン男爵令嬢です」
「ゴールディン…」
その名前にセシルは一瞬考えたが、すぐにカナリアの事を思い出す
「そのご令嬢が、何用でこの屋敷に?」
「…それが、私にも理解出来ないのですが」
「あら、ここがお庭なのね!なんて美しいんでしょうか!」
「困ります!!」
カナリアの声と、マルシェの声が聞こえてくる。そしてカナリアはとうとうセシルの前に現れた
「……マルシェ、許可は?」
「出していません!お止めしていたのに…」
悔しそうにするマルシェ
「許可何て必要なくってよ。私もここに住むんですもの」
「あなたは何を言っているのかしら?」
カナリアの意味不明な言動に頭痛がしはじめる。許可もなく、勝手に屋敷に入って来たばかりか、カナリアには礼も何もあったものではない
「私もここに住むと言っているのよ?」
「…あなた、ご自分が何を言っているのかちゃんと理解している?」
「相変わらず、人を小ばかにするのがお上手ね。本当に、こんな女を正室にしなければならなかったアラン様がお可哀想」
「……それで?今日は何故お見えになったのかしら」
「あら、あなたこそ理解していないのね。先ほどから言っているでしょう?」
「何をおっしゃっているの?」
セシルは意味が分からずジルダやマルシェに視線を移すが、彼女たちにも分からないらしい
「住むのよ?そこの使用人、馬車の荷物を部屋に運んで頂戴」
「な、に?」
セシルはカナリアが今しがた言った言葉を反芻する。カナリアはこの屋敷に今日から住むと言っているのだと、ようやく理解することが出来た。それはジルダとマルシェも同じだったようだ
「何をしているの?部屋に運びなさいと言っているのよ?」
傲慢な態度でマルシェに指示を出すカナリアに、当然従うはずもなく
「お断りいたします」
「なんですって!?主人の言う事を聞かない何て!」
「失礼ですが、ご令嬢は私の主人ではありません」
「なんて生意気な!!」
「大きな声をお出しになるのは止めて頂けるかしら?」
「っ!…主人があなたみたいな人だから、使用人がつけあがるのよ!」
「失礼ですが、私どもは奥様がこの屋敷に来られる前からいる者ばかりでございます。それに、この屋敷には若い者もおりますが、皆ご令嬢と変わらない爵位のご令嬢でございます。お言葉は選ばれた方がよろしいかと」
ジルダがカナリアに厳しい目を向けながら言った。ジルダが言うように、この屋敷には子爵、男爵の令嬢が礼儀作法を学ぶために、使用人として勤めている。それは、ただ単に公爵家だからと言うだけでなく、アランの父のネイサン・カーティスが現国王アーネストの弟である事もあり、ネイサンの妻、メリルが屋敷に仕える者達の礼儀作法に厳しいためでもあった
その日、アランは王宮での仕事があり外出していた。屋敷にはセシルと使用人だけであった。屋敷に来た当初はセシルと使用人達の間にも少し距離があったが、今ではその距離も信頼で埋まっていた
先日、庭師のタッダから新しく庭に植えた花が綺麗に咲いたと聞いたので、この日は天気も良かったのもあり、庭でティータイムをしていた。穏やかな時間が流れていた時、屋敷の方から騒がしい声が聞こえてくる
「なにかしら。マルシェ、確認してきてくれる?」
「はい、奥様」
そう言うとマルシェは屋敷の方へ向かった。数分後、戻ってきたのは確認に行ったマルシェではなく、侍女長のジルダであった。普段の穏やかなジルダには珍しく、鼻息荒く怒っているのがありありと伝わってくる
「ジルダ、どうしたの?なにかあったのかしら?」
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「…奥様、今来客があっているのですが…」
「え?お約束していたかしら…」
「いえ、本日お約束はありません」
「では、その方は急を要する事でお見えなの?」
アランも不在な事から、そんな大事に自分が対処出来るか不安になる
「その様な大事な用事でもないのです」
ジルダははっきりと言った
「…では、何用なのかしら…お名前はお伺いした?」
「……ゴールディン男爵令嬢です」
「ゴールディン…」
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「…それが、私にも理解出来ないのですが」
「あら、ここがお庭なのね!なんて美しいんでしょうか!」
「困ります!!」
カナリアの声と、マルシェの声が聞こえてくる。そしてカナリアはとうとうセシルの前に現れた
「……マルシェ、許可は?」
「出していません!お止めしていたのに…」
悔しそうにするマルシェ
「許可何て必要なくってよ。私もここに住むんですもの」
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「…あなた、ご自分が何を言っているのかちゃんと理解している?」
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「……それで?今日は何故お見えになったのかしら」
「あら、あなたこそ理解していないのね。先ほどから言っているでしょう?」
「何をおっしゃっているの?」
セシルは意味が分からずジルダやマルシェに視線を移すが、彼女たちにも分からないらしい
「住むのよ?そこの使用人、馬車の荷物を部屋に運んで頂戴」
「な、に?」
セシルはカナリアが今しがた言った言葉を反芻する。カナリアはこの屋敷に今日から住むと言っているのだと、ようやく理解することが出来た。それはジルダとマルシェも同じだったようだ
「何をしているの?部屋に運びなさいと言っているのよ?」
傲慢な態度でマルシェに指示を出すカナリアに、当然従うはずもなく
「お断りいたします」
「なんですって!?主人の言う事を聞かない何て!」
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「なんて生意気な!!」
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「っ!…主人があなたみたいな人だから、使用人がつけあがるのよ!」
「失礼ですが、私どもは奥様がこの屋敷に来られる前からいる者ばかりでございます。それに、この屋敷には若い者もおりますが、皆ご令嬢と変わらない爵位のご令嬢でございます。お言葉は選ばれた方がよろしいかと」
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