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第6章 赤い羽根で舞い降りる

第43話 内通者

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 それから4日後に襲撃の報せが届いた。この街への到着予定は明日のちょうどお昼頃になるらしい。ただあまり正確な時間はわからないので目安らしいけど。

「よくそんな遠くからの襲撃を察知できますね」
「ああ、それか。実はお前さんがマルカウの山が怪しいと言うからそっちの方に偵察部隊を送ってみたんだ。そしたらやはりマルカウの山の方から降りてくる魔物どもを見つけたらしい。これはお手柄と言えるだろう」

 私の疑問にヘルクス子爵が答える。どうやら私の意見を重く受け止め、いち早く察知できないかと偵察部隊を送ったわけか。

「そうなんですね。なら余裕を持って準備できますね」
「うむ。避難誘導も前もって伝えておけばスムーズにいくからな。兵士たちも家族に挨拶ができるし時間を有意義に使えるのは非常にありがたいことだ」

 ヘルクス子爵は腕を組んでうんうん頷く。

「さて、テアよ。お前も今日は早くあがって明日に備えなさい。頼り切りになってすまんが出てくる魔物がドンドン強力になってきている。もはやお前がいないと街を守り切るのも難しくなってしまった」
「はい、わかりました。今日は1日ゆっくりすることにします」

 私は頭を下げると訓練場を後にした。とはいえ、なにかやりたいことがあるわけでもない。レオン様にお茶とか誘われたら嬉しいけど、平民の私が誘われるわけないか。それにレオン様も何かと忙しいのだ。

 なにせレオン様はアルノーブルの中等学校に通いながら軍務までこなしている。たまには骨休みをさせてあげられたらと思う。何かできることがあればいいけどね。

 私が散歩がてら街を散策していると見知った人を見つけた。確かあれは幹部の一人ジータ男爵だ。なんかやたらとキョロキョロしていて怪しいな。よし、こっそり跡をつけてみるか。

 私は神の手による移動で屋根の上に身を隠した。これならそう簡単には見つからないだろう。

 見失わないように視界にしっかり収まる位置取りで動き、なおかつ見つからないよう身を隠す。うーん、まさにスパイ大作戦。これでなんにもなかったらアホみたいだ。

 ジータはどんどん人気のないところへと進んでいく。そこから先は雑木林で屋根もないから隠れにくいな。上手く木の上に隠れるしかないか。

 屋根から今度は木の上に身を隠しつつ跡をつける。何もないところだがやたらとキョロキョロしているな。そしてジータの行き着く先には人がいた。よく知らない男だ。一見すると魔道士風の男なんだけど、ジータがやたらとペコペコしている。ジータは仮にも男爵なのだから、少なくともこいつはそれ以上の貴族ということだろうか。

 ジータはその魔道士に何かを渡す。どうもメモのようだ。なんでこんな人目のつかないとこで受け渡しをするのやら。わざわざ私は怪しいですと絶叫してるようなもんだと思うんですけどね。よし、姿を見せて反応を見てみるか。

 私はニヤリとほくそ笑むと、木の上から飛び降りるように落下する。そして魔道士の後ろに着地してやった。

「あれ~っ、ジータ様奇遇でございますねぇ。そちらの方はどなたですかぁっ?」

 私はいかにも見てましたよ、と言わんばかりにニヤニヤしながら聞いてみた。この白々しさがいいのだよ。

「て、テア。なぜ貴様がこんなところにいる。誰でもいいだろう、お前には関係ないことだ!」
「ほぅ、この幼女がテアか」

 うん、この魔道士風の男の反応は明らかに余所者だろう。この街の人間でジータの関係者なら私を知らないのはおかしい。

「ええ、私がテアです。あなた、この街の人じゃないですよね。そういえばゾーア教団の実験室で見た憶えがありますね」

 もちろんウソ。初めて見る顔だ。違ってたら他人の空似ってことにしておけばいい。

「くだらんカマかけだな。生憎私は実験室の職員ではないんでな。そもそも実験室の奴らは殆どがフードで顔を隠している。見覚えがあるわけないだろ」
「いや、自白してるし。なんでフードで顔を隠していること知ってるんですか」

 自信満々にひっかかる人も珍しいな。きっといつも一言多くて怒られ、そのくせ自分は賢いと思っていそうなタイプとみた。

「くっ、ジータよ。つけられていたな、貴様のせいだぞ!」

 魔道士風の男がジータに怒鳴りつけ責任転嫁する。はいはい、二人とも捕まえましょうねー。悪魔の手を2人に忍ばせる。そして2人に悪魔の手が触れた。

「拘束!」
「「ぬおおっ!?」」

 悪魔の手で魔法の網を設置すると、そのまま網が2人に絡まり拘束する。いきなり現れた魔法の網に捕われ、2人は驚きの声をあげた。内通者確保!
 これはなかなかの手柄だと思う。もしかしたらレオン様が褒めてくれるかも。

 レオン様の頭なでなで……。最高じゃないですか!

「こら、私を誰だと思っている! 男爵たる私にこんなことをしてタダで済むと思うなよ!」
「それはルーセル辺境伯様に判断していただきましょう。ゾーア教団の関係者と内通していたんだから罪は重いですよ?」

 証拠は魔道士の持っているメモが該当するだろうからね。モロに内通の証拠になると思うんだけど。

「くそっ! なんということだ」
「じゃあ早速ヘルクス様のところに行きましょうか」

 悪魔の手で2人を雑に持ち上げる。手一つで十分持ち上がるのでそれで良しだ。手順上はヘルクス子爵に報告になるかな。さすがにいきなりトップの前に引きずり出すのはよろしくないからね。

 私は意気揚々とヘルクス子爵のところへと向かうのだった。道中2人はお互いに責任をなすりつけ合ってたけど知らんがな。
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