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第155話 《サルヴァンの視点》王城の中庭にて

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「いよいよなんだな……」

 皆が寝静まった王城の中庭で俺は一人寝転がって月を見ていた。月はこうこうと輝き中庭を優しく照らしている。薄っすらと雲がかっちゃいるがそれが返って神秘的にすら思えてしまう。

 平民の俺なんかがこうして王城の中庭で寝転がっていられるのも俺達龍炎光牙が龍神ザルス様の試練をクリアしたおかげだろう。そのせいで神の使徒だとか持ち上げられてしまっちゃいるけどな。

「俺達はただ貧しさから抜け出したくて必死に足掻いていただけだったんだがな……」

 その手の先に何かを求めるように俺は月に向かって手を伸ばす。もちろん掴めるわけがない。

 思えばルウの奴が拡大解釈というとんでもないスキルを手に入れたことから全てが始まったんだったな。才能や成長の強化ブーストなんていうとんでもない魔法によって俺達の力は開花した。そのおかげもあり俺達は瞬く間に急成長してこの王都アプールでもトップクラスの冒険者にまでなった。

 後輩達を飢えさせることもなくなり、独り立ちできるよう支援できるほどになれた。確かにそれは俺達が望んだ未来だったし、誇らしく思う。しかしまさか世界の命運まで任せれるなんて思わなかったぜ。正直俺の器じゃねぇよな、なんて思ってる。

「でもやらなきゃならねぇよな。リーダーの俺が弱気じゃあいつらを引っ張ってやれねぇもんな」

 そうだ、俺はあいつらのリーダーだ。正直ルウの方が向いているんじゃないか、と思って相談したこともあったっけ。そしたらあいつ言ってたよな。

『僕らはサルヴァンで繋がった仲だよ。サルヴァンが居なかったら僕は飢えて死んでいたかもしれない。リーネもアレサも救えなかったと思う。そして何より後輩達が一番頼りにしているのはサルヴァン、君なんだ。だからサルヴァンしかいないんだよ、僕らのリーダーになれるのはね』

 そうだ、俺の背中にはあいつらがいる。俺が守り、俺を支えてくれる頼れる仲間たちがいるからな。だからこの戦い負けるわけにはいかない。

「サルヴァン様……?」

 寝そべっている俺を覗く顔が一つ。なんというかとんでもない美少女だな、と思ったら皇女様じゃないか。確かナターシャ様だったかな。なんでこんなとこに一人でいる?

「ナターシャ様、このような夜更けに護衛もつけずどうされました」

 まだ開戦していないとはいえ、アマラやニーグリ達から逃げて来たんだろうが。もし追手を差し向けられていたら非常に面倒くさいことになるんだがな。

「そうでございますね。ではサルヴァン様が今から私を護衛してくださいませ」

 薄っすらと優しく目を細めて微笑む。この笑顔の破壊力すげぇな。おっと、紳士に振る舞わないとな。

「名誉ある大任謹んで承りました。お部屋までお送り致しましょう」

 俺は起き上がると彼女の前に跪いた。うーん今度貴族の礼儀作法とか勉強した方がいいかもしれんな。俺の恥は龍炎光牙の恥になっちまうからな。

「ええ、ですがその前に少しお話をしたいと思っております」
「私めにですか?」

 皇女様が俺にか。アマラやニーグリに関しては確かに俺達が一番良く知っているからそのことかもしれんな。でも正直そこまで深い関わりがあるわけじゃないんだが。

「ええ、隣失礼いたしますね。サルヴァン様も楽になさってくださいまし」

 皇女様が俺の横に並び、ちょこんと腰を下ろす。高貴な方のはずなんだが草むらに腰を下ろすとは意外だな。

 ふわりと良い香りがした。こういうのをなんていうんだ?
 ふろーらるだっけ?
 なんかこう甘く鼻腔をくすぐる香りで、冷静でいようと必死に頑張ってる俺の心臓の鼓動を容易に早くする。

「こ、皇女様いけません。私のような下賤な者の隣に座るなど……!」

 浮いた話のない俺にはちょっと耐えられそうにないぞ。しかしここで変に鼻の下を伸ばすなどあっちゃならんしなぁ。

「龍神ザルス様に見出された御方が下賤な方のわけないですよ。あまり御自分を卑下なさらないでください」
「そうは言いましても俺なんて平民ですし、貧しい生まれの孤児ですよ!?」

 思わず距離を取ろうとする俺の二の腕を皇女様が自らの腕で絡め取る。

 ち、近い近い!

「お待ちくださいませ。サルヴァン様は命の恩人でもございます。それに身分などアルテア様の前ではあってないようなものでございます。サルヴァン様も私も、アルテア様の御前であれば等しく神の子なのです」
「でもここは王城でございますし……」

 本人がそれで良くても周りが納得するわけないんだよな。身分や生まれなんてものは権威の象徴たる王城じゃ絶対だろ。とはいえ、あまり邪険にするわけにもいかんよな……。

「ただお話をしたいと、それだけでございます。それすら叶わぬものなのですか?」
「い、いえ……。それでお話というのは?」

 頼むから上目遣いやめてくれ。俺みたいな単純な男なんてそれで容易に陥落する自覚があるんだよ。

「アマラのことでございます。一体彼は何者なのでございましょう」

 やはりアマラのことか。ま、俺が知ってる範囲なんてたかが知れているけどな。

「あいつは俺達と同じストリートチルドレンですよ」
「ストリートチルドレン、と言いますとつまり孤児だったということですね」
「ええ。俺達の中には親の顔も知らない者もいますし、戦争によって命からがら逃げて流れ着いた者など色々です。運良く孤児院に入れた者達と違い、俺達は常に貧しさや病気、不当な暴力に抗いながら身を寄せて生き抜いてきました。アマラもそんな中の一人だったはずです」

 そうだ。だがあいつと俺達には決定的な違いがあった。恐らくだが、これが決定的な違いを生んだのだろう。

「だったはず……?」
「ええ。ここからは俺達の想像でしかないんですけどね。あいつは不幸にも出会ってしまったんですよ。ドレカヴァクという最悪の悪魔に」
「ドレカヴァクと言いますと確か貴方がたが滅ぼした魔神でしたわね」
「ええ。あいつはドレカヴァクと契約して力を得てしまった。貧しさから抜け出すためにあいつは自分の周りの人間を差し出したんです。貧しさがあいつの心を蝕んだのでしょう。飢えってのは本当に辛いんです。生きるためにゴミを漁ることもあるし、物乞いをしてお金を恵んでもらうこともある。僅かなお金のために身体を売る話なんて珍しくもなんともないんですよ」
「…………」

 おっと、皇女様には刺激の強い話だったかもしれんな。だが事実だ。飢えを知らない者には想像もつかない話だろうな。

「そしてドレカヴァクに付け込まれ悪魔に魂を売り渡してしまったんだと思います。あくまで想像ですけどね」

 もし俺が先にドレカヴァクと出会っていたらどうなっていただろうか?
 俺にはみんなを守るんだ、という信念があった。仲間は売らなくてもそうでない相手なら容赦なく売り渡していたかもな。いや、よそう。仮定の話など意味がない。

「そうなのですね。ある意味ではドレカヴァクは全ての始まりの悪魔なのかもしれません。ならこれはお伝えしないといけないでしょう」
「え?」
「ドレカヴァクは公爵級悪魔として復活しております」
「なんだって……!?」

 はぁっ!?
 あいつの魔石は怖くて使えないとルウが収納して永遠に封印しているんだがな。一体これはどういうことなんだ?
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