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第153話 《ナターシャの視点》そして運命の歯車は動き出す後編

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「助けていただいたこと感謝するぞ、冒険者殿。余は神聖エスペラント教国教皇ディバスである」

 さすがは父上ですわ。たとえ身分の低い平民であっても命の恩人であれば礼を尽くすのは当然と言えましょう。世界最高の権威である教皇であるにも関わらず頭を下げているわ。

「教皇……様? おい、ルウ本物か?」

 あら、この方は疑っていらっしゃるのね。嘘をつく理由もないというのに。

「あはは、嘘だったらこの人たちの首が跳ぶよ。確認したけど本物みたいだね」

 確認した?
 どうやって確認したというのでしょうか。しかしこの小さい方が私達に向かって跪くと他の者たちも一斉に跪いたのです。信じてもらえたようで良かったですわ。

「し、失礼いたしました。もったいないお言葉恐れ入れます。それで、なぜ教皇様が護衛も連れずにこんな森の中にいるのでございましょうか」
「それについては今はまだ話すわけにはいかん。だが我らには為さねばならぬ使命があるのでな、しばらくそなた達を雇いたい。かまわんな?」

 そうですわね。いたずらに情報を広めれば混乱を招くことになります。この国の上層部に伝えることが先決ですわ。

「それはかまいませんが、我々も今依頼中でございまして」
「サルヴァン、依頼なら僕が一人で終わらせておくよ。それより教皇聖下を早く安全な場所にお連れしないと」

 この小さい方はなかなか理解の早い方のようですね。恐らくこのパーティの参謀役といったところなのでしょう。

「そうか、わかった。失礼いたしました教皇様。その依頼受けさせていただきます」
「そうか、引き受けてくれるか。これで一安心だな」
「ううっ、私は早くお風呂に入りたいです」

 ほっとしたらこびりついた血がものすごく気になり始めましたわ。先程までは気にしている余裕もなかったということなのかもしれません。

「ルウ、行く前にあのこびりついた血をなんとかしてさしあげろ」
「うん、そうだね。しかしなんの血だろうねこれ。まぁとりあえず回復ヒール

 回復魔法?
 そんなもので洗えるわけがないでしょう。どうやら魔道士としては三流なのかもしれませんね。

「うん……? 弾かれたか。どうやら普通の血じゃないみたいだね」

 このルウという方、私達の付けている血が気になっているようですね。確かに普通の血ではないでしょう。恐らく洗っても落ちることはないのかもしれません。お気に入りでしたのに……。

「うん……。その血はどうやら浄滅魔法を使わないと落ちないみたいだね」

 ……?
 この方、急に剣呑な表情になったかと思ったらまたすぐに真顔に戻りましたわ。表情の豊かな方なのでしょうか。

浄滅アニヒレーション浄化プリファイ

 2つの魔法をほぼ同時に発動させ、眩い光が私達を包みます。浄滅魔法は人には無害な魔法ですので不敬罪の適用は勘弁して差し上げますわね。

 そして光の過ぎ去った後には衣服や肌、髪にへばりついていた穢らわしい血は全て消失しておりました。三流と思ってしまったことは心の中で詫びておきましょう。

「凄い、あの血が綺麗サッパリだ!」
「うむ、実に見事である。これなら街に出ても恥ずかしくはない」
「ありがとうございます」

 お兄様も父上も喜びと驚きの混じった表情をしておりますわ。まさかこんな洗濯方法があるなんて知りませんでした。

「サルヴァン、とりあえず周りのクラックオンも僕が片付けておくよ。すぐに追いつくからこの方たちを早く国王陛下の下へ。リーネ、もう飛空艇の運転は大丈夫だよね」
「うん、任せて。って、あれ使うほど急がなきゃダメなの?」 

 飛空艇とはなんでしょうか?
 名前からして空を飛ぶ舟ですか。そんなものが開発されたという話は聞いたことありませんが。

「どうせわかることだから先に伝えておくよ。ニーグリが魔王になった」
「な、なぜそれを……!?」

 一体いつの間に知ったのでしょうか。いえそれより彼はニーグリを知っているというのでしょうか。

「おいおいマジか。そりゃ至急国王陛下に報告せんとまずいよな」
「そうだよ。しかもかなり最悪な状況だと思うけど、それは僕の口からはとても言えないかな」

 こ、この方はどこまで知っているのでしょうか。まるで全てを見透かしたような目で私達を見ていますわ。

「おいおい、まさかエスペラ……」
「アレサしーっ! もし間違ってたら不敬罪になっちゃうよ」

 な、なかなか勘の鋭い方達ですのね。でもそうですわね。確かに私達がここにいるということは本国に何かあった、と考えるのが普通かもしれません。

「じゃ、とりあえず周りの片付けるか。拡大解釈、クラックオンの遺体を浄化し滅する。神域への昇華ディバインレムル

 そ、その魔法は最高難度の広域浄滅魔法てはありませんか!
 我が国でも使い手は数えるほどしかいなかった魔法です。それをあんな少年が使いこなすなんて!

 光が広がり、凍りついていたクラックオンたちがその光に 包まれてはその身を消滅させていきました。

 そして後に残ったのは大量の魔石。

蒐集コレクション

 聞いたことのない魔法ですわね。と私が目をパチクリさせていると、散らばっていた大量の魔石が一斉に小さな魔導士の頭上に集まり始めました。なんと便利な魔法なのでしょうか。そしてその魔導士はその集めた魔石を一瞬で収納魔法にしまい込んでしまいました。

「お、お前たちは一体何者なのだ?」
「俺達か? 俺達はこのエストガレスのSランク冒険者パーティ龍炎光牙です。俺はリーダーのサルヴァン、背の高い女性がアレサであの2人は魔導士のリーネとルウです」

 龍炎光牙……!
 聞いたことがあります。魔神ドレカヴァクを倒すのに大きく貢献した冒険者パーティがいて、確かその名が龍炎光牙。なんでもアルテア様を召喚したという話もあり、2人の聖人を抱える優秀なパーティだとか。

 そうなのですね。神は、神は我々をこの方たちと引き合わせるためにこの地へ送ったのですね!
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