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第145話 龍神ザルス

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 目を開けるとそこはお花畑だった。そして周りもとても明るく、そしてとても温かな陽射しさえある。ここは天国?
 ちょっと待て。確か試練でアウラに挑んであれからどうなった?

「お、気がついたかルウ」
「よかったよー」

 目を開けた僕の顔をサルヴァンとリーネ、そしてアレサが覗き込む。みんな一緒なのか。それは良かった。

「みんな、無事だったんだね」
「いや、一回死んでるけどな」
「だが試練はクリアしたらしいぞ。合格だそうだ」
「へ?」

 うーん、よくわからんが合格か。ということはダンジョンを踏破したってこと?

「くぅあっはっはっは、なかなか面白いものを見せてもらったぞ。なかなか無茶をするじゃないか」

 不意に豪快な笑い声と野太い声が耳に入った。むくりと身体を起こすとそこにいたのはいかつい顔をした髭面のおっさん。しかし感じられるオーラが凄まじい。アウラも凄い存在感があったけどこの人はその上をいっている。そんな存在は一人しかいない。

「も、もしかしてザルス様!?」
「いかにも。この俺が龍神ザルスだ。おめでとう龍炎光牙の諸君。君たちは見事龍神ザルスの試練をクリアしたとこの俺が認めよう。神々の修練場たるダンジョンは世界に4つあるが、踏破されたのは2箇所目だな」

 ザルス様はお花畑に腰を下ろしたままニヤケ顔で語る。2箇所目、ということは最初にクリアしたのは英雄王ディーンかな。

「ちょっとまってください。僕たちはアウラ様に勝てたのですか?」
「いや、勝ち負けで言うなら負けだな。だが悲嘆する必要はないぞ。むしろ人の身で神霊にあそこまでの手傷を負わせたことは称賛に値するだろう」
「負けたのにクリアなのですか?」

 じゃあ何を見ていたっていうんだろうね。ある程度戦って見るべきところがあれば合格というやつなのかな?

「不服か? だが人の身で神霊に勝つなど不可能なはずなんだがな。不可能なことをやってみせろというのは試練とは言わん」
「人の身では勝てない?」

 それだとアウラ様と同格の力を持つニーグリには到底敵わないということになる。候爵級のドレカヴァクには勝てたのに、こんなに差があるものなのか。

「まぁ、とりあえず聞け。人の身で神霊を倒すのが不可能な理由は存在そのもの器が違うからだ。魔力量、肉体強度、反応速度全てにおいて神霊と人間ではものが違いすぎるのさ。そしてそれは公爵級悪魔も同じと言えるだろう。あれは人の身で勝てる存在じゃない」

 英雄王ディーンは魔王を倒しているはずなんだけど、それは?

「では英雄王ディーンはどうやって魔王を倒したと思う? 確かにディーンは剣神デュランのダンジョンをクリアし、神剣カリーンを手に入れた。だがそれだけじゃ魔王には勝てん。神々の修練場の本当の報酬はその身に神の血を与え半神とし、人の器を越えさせることにある」

 神の血……?
 ということは僕らは人の領域を越えた存在になったということ?
 それはそれで別の問題が発生しそうなんですけど……。いや、それもあるけど納得いかないことが一つある。

「えーっと、それなら何も僕らを全滅させなくても良かったと思うんですけど……」
「すまんな。血を与える前に知ってほしかったのだよ、公爵級という存在がどういうものかをな。一つ下が候爵級だが全くの別物と言っていい。それだけ隔絶した差が存在するのさ。身を持って知っただろ?」
「ま、まぁそうだな……」

 アレサがため息をつきながら答える。抜群の反応速度を持つアレサでさえ動きについていけず瞬殺されたからね。ショックだったと思う。

「で、だ。今のお前達には既にこの俺様の血がその身に流れている。だが馴染むまでは少々時間が必要でな。修行も兼ねてそれまで俺様が直々に鍛えてやる。半年くらいかかるから準備ができたらまた来い。それと神撃と勇猛といったか? そいつらも連れて来い。本来ならちゃんと踏破するべきだが今回は特別だ。それくらいしないと勝てないほど今回はまずいことになるだろう」
「そんなことになってるんです?」

 神様直々に鍛えてくれるのか。しかし半年とはまた随分長い。クランの運営に関しては下が育っているから支障はないだろうけど文句は言われそうだ。

「ああ。俺の予想ではニーグリが魔王になったとき、大公クラスの人魔と公爵級悪魔が生まれるはずだ。事態はディーンの頃の比じゃない」

 大公クラスの人魔はアマラのことか。あいつは人を人魔に作り変える術を持っている。そうなるとライミスさんや僕たちたけでは到底手が回らないはずだ。

「それならもう何人か連れて来てかまいませんか?」
「何人だ?」
「9人ほど」

 頼めそうなのはルード達と筋肉の誓いの人たちくらいだろう。首を縦に振ってくれるかはわからないが、可能であれば是非連れて来たい

「なにぃっ!? 図々しい奴だな。だがいいだろう、戦力が不足しているのは事実だからな」

 だったら神様が直々に手を下すのってダメなんですかね?
 聞いたら怒られそうだけど。

「ありがとうございます!」
「かまわんさ。今回は特別だ。神霊クラスとなると下界に行くのにも制約が多くてな。ましてや神である俺様も直接的な手出しは原則禁止なんだ。というか媒介が無い限り干渉そのものが不可能なんだけどな。その媒介となるものが神剣といった神器と呼ばれるものだ」

 思ったことバレたかな?
 ザルス様的にはどうにかしたかったけど誰も辿り着かないからやきもきしていたのかもしれない。しかしまたダンジョン踏破のタイミングと魔王の存在が都合良く被ったものだ。もしかしたらそうなるように仕組まれていた可能性もあるかも。

「あ、そうだ。もう一つ聞きたいことがあったんでした。僕の強化ブーストについてなんですけど……」
「才能や資質の強化についてのことだな。あれは一時的なものだが、きっかけにはなるな。そもそも本来の強化ブーストは筋力を増やすのではなく脳のリミッターを外すのが本質だ。魔法の威力に強化ブーストをかけると疲れるだろ? あれは増強分にかなりの魔力を使用しているからだが、資質や才能の強化は違う。あれは元々のポテンシャルを一時的に引き出すものでな。本来なら永続はしないが、それがきっかけで才能が花開くこともある。実際多くの魔導士は自分の才能を眠らせたまま生涯を終えているしな。また、肉体的な成長については個人差もあるが、環境や栄養によるところが大きい。つまり如何様にも変化するから任意の肉体的な成長を強化できる。経験値の増加については概念の強化に当たり、これは拡大解釈スキルの本領と言えるだろう」

 なるほど、概念の強化か。そういえば確率の強化とかできたもんね。この強化ブーストの拡大解釈は本当に強力だと思う。

「つまり才能や資質の強化に関してはデメリットはないということですか?」
「そうなるな。だから使っても効果がほとんど無い奴もいる」
「ありがとうございます。納得できました」

 そうか、結構安心して使えるのは助かる。でもこれ知られたら、それはそれでとんでもないことになりそうな気もするけど。結果的に才能の開花を促すことができるなんて垂涎ものの魔法だもんね。

「では俺達は戻ってこのことを報告し、メンバーを集めてきます」

 サルヴァンが立ち上がり、ザルス様にそう伝えた。メンバー招集といってもすぐにできるものじゃあない。時間がかかりそうだ。

「おう、行って来い。もしメンバーがダンジョンに潜っていたら俺様に言え。ここに転移させてやるから」
「わかりました」

 僕たちはザルス様に挨拶し、地上へ戻る魔法陣へと向かうのだった。
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