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SS ガレスの末路

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「ら、ライミス……!」

 ルウが走り去った後、ガレスは少しホッとしたのだがそれも一瞬だった。ライミスがアリシアを片腕で抱きとめながら冷たい眼差しを向けていたからだ。

「やぁ、ガレス。僕の仲間やアリシアが世話になったみたいだね……」
「ま、待て、待ってくれ!    もうやり合う気はねぇ!    左目は見えねぇし身体の感覚がおかしくって立ち上がれねぇし、おまけにスキルまでなくなっちまった!    もう勘弁してくれ!」

 ガレスは怯えた目でライミスを見つめ、許しを乞う。アリシアの頬は赤い。はたかれた、あるいはそれに相当する暴力を振るわれたのは間違いなかった。

「うちのリーネが世話になったようだな。ルウにコテンパンにやられたようだけど、それで済むなんて思ってないよな?」

 サルヴァンが怒りに満ちた目でガレスを睨みつける。正直ブチ切れそうだった。

「待て。怒りをぶつけるなら俺たちに優先権があるはずだぜ!?」

 ガレスが後ろから聞こえてきた声にビクッ、と震える。スキル隷属契約は破壊され、アリシアもリーネもその呪縛から解放された。だが隷属させられていたのはその2人だけではない。

 ガレスが振り向いた先には今まで卑怯な手段で隷属させられ、歯向かうことを許されなかった者たちがいた。彼らの怒りは如何ばかりか。

「お、おまえら……!」
「あのルウって奴には感謝しないとな」
「全くね。おかげでもうこんな奴に従わずに済むんだものね」
「さてガレスさんよぉ。覚悟はできてるよな?」

 隷属させられ、虐げられてきた者たちの逆襲が今始まろうとしていた。

「殺してはダメですよ?    私を拐った報いを受けていただかないとギルドとして示しがつきませんから」
「わかってるよ。死ぬ前に回復魔法でしっかり治してからシメ直すから」
「終わったらギルドに突き出しておくから話通しておいてくれよ」

 アリシアが額に青筋を立てて伝えると、彼等はわかってますよ、と不敵に笑う。もちろん目は笑っちゃいないが。

「では行こうか。なに、彼が生きていてくれればクラン勇士の紋章に喧嘩を売ったツケを払うことになる。君たちの溜飲も下がるはずさ」

 ライミスは不敵に笑みを浮かべるとサルヴァンたちを促す。その意味を理解しているメンバー達はクランハウスを出ようとした。ただリオネッセだけは、

「ですが万が一があっても困りますからぁ。私は残って、もし死んだら生き返らせるために残りますねぇ~」

 と笑顔を見せて残ると言い出した。もちろんそれは誰も止めない。

「あれは絶対怒ってるな……」

 リオネッセは怒ると怖い。それこそ同パーティのリーダー、アレクでさえもびびるほどに。妹同然に可愛がっているリーネやお気に入りのルウを傷つけられて怒っていないわけがなかった。

 メンバーたちがクランハウスを出ると、ガレスの悲痛な叫び声が響き渡った。




 その後のガレスにさらなる事態が鞭を振るう。まずギルドからは永久追放処分。冒険者資格の剥奪はもちろん、受付嬢をさらい、暴力をはたらいた罪で護法取締所に突き出された。

 そしてライミスが報復としてエストレガス王国の第一王子に働きかける。国宝となった水の神石を作った魔導士の価値を説き、その狼藉を語るとその王子は憤慨し「国宝を作った優秀な魔導士を保護すべき立場にある国王陛下の顔に泥を塗った」として不敬罪の適用を訴えたのだ。

 一部にしか公表されていない事実に本来なら保護も何もあったものではない。しかし罪人の罪は事実に基づくものであり、調書でも多くの人間の恨みを買っていることがわかっていた。そのため容易にその訴えは正当なものとして扱われたのだった。




    それから数日後、アプールの街の処刑場では公開処刑が行われていた。かつての中世ヨーロッパでは死刑が見世物であったように、この世界においてもそれは変わらなかった。

     処刑は第一王子の名のもとに行われ、まず罪人に石を投げつける時間が設けられた。
    罵詈雑言を浴びせられ、国王陛下に不敬を働いた罪を喧伝されたため石を投げる者は多い。その中にはガレスにクランメンバーを卑怯な手段で奪われた者、そして隷属支配により従わされた者たちも混じっていた。

「ちくしょう……、あんな奴に手を出すんじゃなかったぜ……」

    石をぶつけれながら後悔を口にしても誰も聴く者などいない。

     やがて投石が止むと、処刑人が大振りの斧を持ってやって来た。その斧で首を切り落とすのである。

「罪人ガレス。覚悟はいいな?」
「や、やめてくれ……」

    か細い声で懇願するが今更だった。そして、断罪の刃が振り下ろされる。



 それからほどなくして、処刑場にはガレスの首が転がることとなった。


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