陰陽ノ花〜現代陰陽師奇譚〜

＊弐ー②

第四集：野望

紫苑｢土御門の人間は、木気と土気を操るのが得意でしょ？｣

　癒良｢せやな。｣


紫苑｢だから、土御門の当主相手に木気を使うのは不利だってあの人は考えたんじゃないかな。正明さんは霊力も強いし。｣



　癒良｢なるほど！｣



　　清秋｢土は水を吸い過ぎると崩れる。だから水気を使ったのか。｣


　　　唯幸｢でも、水気で土気を相殺させようとしたらかなり長い間自分の霊力を土気に注入しないといけないのであの人には不利ですね。｣



　　芦屋｢その分こっちには有利になるけどな。｣



自分を拘束する固い土に水気とともに多量の霊力を注入し終えた増輝は、先程までの余裕の表情と違い、その顔に疲れを浮かべていた。正明の方を見ると、ニヤリと笑っている。





　紫苑｢･･･もしかして...あの人が水気を使って土気を相殺させて霊力をたくさん消費されたのは正明さんの狙い通りだったのな？｣
　
　　癒良｢･･･そうかもしれへんな。｣
(正明...従兄ながらホンマにおそろしい奴やで。あいつが敵やなくてよかったわ。)




正明｢式神招来。｣



　正明｢雷狼。あの人に貴方の雷を落としてさしあげなさい。｣



　　　雷狼｢御意。｣


雷狼が一吠えしたかと思うと、増輝に向かって雷が一筋落とされた。増輝はそれを防ぐと、何やら呟いた。


　　増輝｢菅公雷。｣


紫苑｢か、菅公？!｣


　　　紫苑達は驚きを隠せない表情を浮かべながらも雷を防ぐ。
菅公というのは菅原道真のことである。菅原道真は、学問の神,天神として祭られている人霊なのだが、平安時代、自分の死後に悪霊となり都に雷を落としたくさんの人々を殺した怨霊でもある。が、陰陽師や僧侶、神職達に社に封印されて神格化されたのだ。



唯幸｢あの雷は、菅原道真公...天神様の荒御魂の化身ですか。｣





  神の魂には、穏やかな性格の和御魂(にぎみたま)と荒々しい性格の荒御魂(あらみたま)がある。和御魂は生き物に神の恩恵を与え、荒御魂は人間を祟るのである。