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第三章「日本編」
第75話「師弟不二」
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私こと七瀬メイはいつも通りトレーニングを終え、炭酸水を飲んでいた。スポーツドリンクは糖類が多く、飲んでも乾きが止まらないとのアドバイスを受け、最近は炭酸水を飲んでいる。最初は慣れなかったけど、今ではいい感じに美味しく感じる。また、プロテインにも手を出し、通販で幾つか購入して、飲んでいる。ちなみにどちらも理沙からの助言で、彼女はそういうことにも詳しい。
ミカちゃんはあれから少し落ち着いたようで、一緒にトレーニングしたり、雑談したり、いつも通りだ。でも夜は何故か私の所に来て一緒に寝ている。前から仲良しだけど、もっと距離が近くなったなって感じがする。あとは師匠のことだけど、ほとんど音沙汰がない。私のトレーニングしている所はノノがビデオに撮って渡しているそうだけど、特に何か言われたことはない。トレーニングメニューもいつも一緒。文句を言う気はないけど、少しお話しようかな……考えながら外の自販機でぼうとしていると。
「メイ、特訓お疲れ様」
「あ、師匠」
「悪いんだけど、ちょっと話たいことがあるの。今から時間ある?」
「はい、大丈夫です」
「よかった。私の部屋に行きましょう」
師匠はそれ以上言わず、私は黙って後についていく。師匠の部屋は1階にあり、部屋といっても、旅館の一室なのであまり代わり映えはしない……のはずだが、師匠の部屋には机の上に高そうなパソコンがあったり、Blu-rayも見れるレコーダーや最新のテレビもあったりと、どう考えても旅館の備品ではないものばかりがあった。
「師匠、いつのまにこんな機材を?」
「梨音がセッティングしてくれたのよ。これでメイのトレーニングを分析したの」
「そうでしたか」
なるほど、梨音さんはこういうのも得意なのか。師匠はこんなに機材を使って私の事を見てくれていたんだな。でも、それにしては何も音沙汰がないのは、宝の持ち腐れじゃないかなって思ってしまう。私達は向かい合って座り、お茶を飲みながら一息つく。
「メイ、ごめんなさい。最近ずっとあなたと話してなかった。これは完全に言い訳になるけど……あなたを避けてたわけじゃないの。私は自分の気持ちに向き合うのに必死であなたのことを考える余裕がなかった。とはいえ、師匠となった以上、弟子を見るのが当たり前だというのに、私は自分の気持ちばかり優先していた。ごめんなさい」
「師匠……」
「あの子、キャミィを殺してしまったことを私は激しく後悔した。前にも言ったけど、あの子とは同じ孤児でね。親のいない私達は年齢も近くて、気が合った。2人で市場で盗みをしたこともよくあったわ。そのうち、教会に引き取られて、見習い修道女として寄宿舎で住んだの。私は真面目にしてたけど、あの子は寄宿舎を抜け出し、男遊びに走ってよく怒られてたわね。大人になってから私は剣の道に進んだけど、あの子は男遊びが抜けなくて、金持ちの男をとっかえひっかえして、贅沢三昧にうつつを抜かしていた」
私は師匠の言葉を黙って聞く。
口を挟むのは後だ。
「私はあの子が好きだった。あの子を愛したかったし、告白もしたけどフラれちゃってね。それでも諦められなくてね。でも、好きな人が別の好きな人と幸せならそれでよかった。結婚したとしても、それでいいと思った。男と女が結婚するのが、世間的にも生物的にも当然の事だからね。旦那の愚痴を聞き、酒でも飲み交わせたらそれでよかった。……でも、あの子は悪い男ばかりを選んだ。犯罪者の男の方が羽振りがいいからね。贅沢三昧はますますエスカレートして私と口論になったこともあったのよ。私はあの子の幸せの為に戦っていたし、あの子の為に剣を振っていた。弟子達に逃げられても、あの子が私以外の誰かと愛し合っても、私はあの子の幸せだけを願っていた……」
私にはかける言葉が見つからない。
ただ黙って師匠の独白を聞く。
「でも、あの子は何を言っても聞かなかった。悪い男とばかりつるんで贅沢三昧に現を抜かしていた。1度、生活水準を上げると落とすことはそう簡単じゃないわ。挙句の果てにメイを殺そうとするんだからね。もう、どうしようもなかった」
「師匠、辛かったんですね。すいません、私の為に……」
「メイが悪い訳じゃない。あの子を説得できなかった私が悪いのよ。ずっとそのことばかり頭にあってね、メイの事を第一に考えられなかった。本当にごめんなさい」
師匠は頭を下げた。
私にはそれだけで充分だった。
「でも、少し気持ちを切り替えたの。ある事が起きてね」
「ある事って?」
「夢の中にマルディス・ゴアの使いが来たのよ」
「ゴアの使いが!?」
「ゴア様に忠誠を誓え。七瀬メイを殺せば、お前の想い人を復活させてやるってね」
「……師匠は私を殺すつもりで?」
「まさか。もちろん、蹴ったわ。今更あの子に会ったところで合わせる顔もない。それに何でかわいい愛弟子を殺さなきゃいけないのよ。そもそも、キャミィが大事でメイの事がおざなりなら、ナトロフ島で助けたりしないでしょ?」
「……それもそうですね」
「大前提として、私はそもそも悪党が大嫌いなの。だから剣の道に進んだのよ。ナイトゼナは治安が悪くて、絡まれている子を助けることもよくあったわ。そう、私は正義の為に剣を振るってきた。だから、ゴアなんかに忠誠を誓ったりはしないわ」
「師匠、それじゃあ?」
「明日からは私もあなたの修行に同行するわよ。でも、こんな私でもいいの? こんな人間的に弱い私でも」
「完璧な人なんていません。私の師匠はサラさんだけです」
「ありがとう、メイ」
師匠は私をぎゅっと抱きしめてくれた。そう、完璧な人間なんて誰もいない。みんな、弱い部分もあるし、悩むことだってある。それは何歳になっても変わらない。人生を歩み続ければ歩み続けるほど、悩みは増えていくに違いない。でも、一緒に頑張ろうという支えてくれる仲間がいる。そして、師匠がいる。私にはそれが何よりも幸福だった。
「ところで師匠、ナトロフ島でガルオンを倒した時、死霊剣と鍵を手に入れました。あれを使えば、世界中央図書館に行けるはずです。呪いを解除するにはセグンダディオの事を更に知る必要があると思います」
「残念だけど、この作られた日本では発動しないのよ。更にナイトゼナのある場所に行って発動しないといけないようにされているの」
「そうなんですか?」
「ナイトゼナでは各地を旅してたからね。ま、その辺りはナイトゼナ戻ってから教えるわ。今話しても仕方ないからね」
確かにここは作られた日本であり、実際の世界じゃない。ナイトゼナに戻る方法はわからない。一度、亀裂みたいなのがあって戻れたけど、あの日以降は亀裂は見かけていない。
「さ、今日は長々話して悪かったわ。ゆっくり休んで」
「師匠、たまには一緒に寝ましょうよ。私、ずっと寂しくて……」
「ありがと。じゃ、寝る前にお風呂付き合ってくれる? メイも汗だくのまま寝たくないでしょ?」
「ふふ、そうですね。じゃ、お風呂行きましょう」
「おっしゃ、しゅぱーつ」
お風呂でゆっくりする私達。師匠とお風呂はいつぶりだろうか。熱いお湯に疲れがとけていくのを感じる。何を話すでもなく、私達はのんびりと入り、一息つく。
「ママ」
と、そこへリュートがやってくる。
あれ、ジェーンさんに預けていたんだけどな。でも、飛び方がフラフラして、蛇行していて、見るからに危なっかしい。
「どうしたの、リュート」
「なんか、しんどくて……」
「え、アンタすごい熱なんだけど?」
リュートのおでこを触ると随分と熱い。息遣いも荒く、明らかにしんどそうなのがわかる。目も虚ろで体調不良なのは明らかだ。風邪か何かだろうか?
「師匠、私、先に出ますね。リュートお部屋に行きましょう」
「気を付けてね」
私は脱衣所で急いで着替えを済ませ、リュートを抱えて部屋に連れて行くことにした。早く休ませてあげないと……。
ミカちゃんはあれから少し落ち着いたようで、一緒にトレーニングしたり、雑談したり、いつも通りだ。でも夜は何故か私の所に来て一緒に寝ている。前から仲良しだけど、もっと距離が近くなったなって感じがする。あとは師匠のことだけど、ほとんど音沙汰がない。私のトレーニングしている所はノノがビデオに撮って渡しているそうだけど、特に何か言われたことはない。トレーニングメニューもいつも一緒。文句を言う気はないけど、少しお話しようかな……考えながら外の自販機でぼうとしていると。
「メイ、特訓お疲れ様」
「あ、師匠」
「悪いんだけど、ちょっと話たいことがあるの。今から時間ある?」
「はい、大丈夫です」
「よかった。私の部屋に行きましょう」
師匠はそれ以上言わず、私は黙って後についていく。師匠の部屋は1階にあり、部屋といっても、旅館の一室なのであまり代わり映えはしない……のはずだが、師匠の部屋には机の上に高そうなパソコンがあったり、Blu-rayも見れるレコーダーや最新のテレビもあったりと、どう考えても旅館の備品ではないものばかりがあった。
「師匠、いつのまにこんな機材を?」
「梨音がセッティングしてくれたのよ。これでメイのトレーニングを分析したの」
「そうでしたか」
なるほど、梨音さんはこういうのも得意なのか。師匠はこんなに機材を使って私の事を見てくれていたんだな。でも、それにしては何も音沙汰がないのは、宝の持ち腐れじゃないかなって思ってしまう。私達は向かい合って座り、お茶を飲みながら一息つく。
「メイ、ごめんなさい。最近ずっとあなたと話してなかった。これは完全に言い訳になるけど……あなたを避けてたわけじゃないの。私は自分の気持ちに向き合うのに必死であなたのことを考える余裕がなかった。とはいえ、師匠となった以上、弟子を見るのが当たり前だというのに、私は自分の気持ちばかり優先していた。ごめんなさい」
「師匠……」
「あの子、キャミィを殺してしまったことを私は激しく後悔した。前にも言ったけど、あの子とは同じ孤児でね。親のいない私達は年齢も近くて、気が合った。2人で市場で盗みをしたこともよくあったわ。そのうち、教会に引き取られて、見習い修道女として寄宿舎で住んだの。私は真面目にしてたけど、あの子は寄宿舎を抜け出し、男遊びに走ってよく怒られてたわね。大人になってから私は剣の道に進んだけど、あの子は男遊びが抜けなくて、金持ちの男をとっかえひっかえして、贅沢三昧にうつつを抜かしていた」
私は師匠の言葉を黙って聞く。
口を挟むのは後だ。
「私はあの子が好きだった。あの子を愛したかったし、告白もしたけどフラれちゃってね。それでも諦められなくてね。でも、好きな人が別の好きな人と幸せならそれでよかった。結婚したとしても、それでいいと思った。男と女が結婚するのが、世間的にも生物的にも当然の事だからね。旦那の愚痴を聞き、酒でも飲み交わせたらそれでよかった。……でも、あの子は悪い男ばかりを選んだ。犯罪者の男の方が羽振りがいいからね。贅沢三昧はますますエスカレートして私と口論になったこともあったのよ。私はあの子の幸せの為に戦っていたし、あの子の為に剣を振っていた。弟子達に逃げられても、あの子が私以外の誰かと愛し合っても、私はあの子の幸せだけを願っていた……」
私にはかける言葉が見つからない。
ただ黙って師匠の独白を聞く。
「でも、あの子は何を言っても聞かなかった。悪い男とばかりつるんで贅沢三昧に現を抜かしていた。1度、生活水準を上げると落とすことはそう簡単じゃないわ。挙句の果てにメイを殺そうとするんだからね。もう、どうしようもなかった」
「師匠、辛かったんですね。すいません、私の為に……」
「メイが悪い訳じゃない。あの子を説得できなかった私が悪いのよ。ずっとそのことばかり頭にあってね、メイの事を第一に考えられなかった。本当にごめんなさい」
師匠は頭を下げた。
私にはそれだけで充分だった。
「でも、少し気持ちを切り替えたの。ある事が起きてね」
「ある事って?」
「夢の中にマルディス・ゴアの使いが来たのよ」
「ゴアの使いが!?」
「ゴア様に忠誠を誓え。七瀬メイを殺せば、お前の想い人を復活させてやるってね」
「……師匠は私を殺すつもりで?」
「まさか。もちろん、蹴ったわ。今更あの子に会ったところで合わせる顔もない。それに何でかわいい愛弟子を殺さなきゃいけないのよ。そもそも、キャミィが大事でメイの事がおざなりなら、ナトロフ島で助けたりしないでしょ?」
「……それもそうですね」
「大前提として、私はそもそも悪党が大嫌いなの。だから剣の道に進んだのよ。ナイトゼナは治安が悪くて、絡まれている子を助けることもよくあったわ。そう、私は正義の為に剣を振るってきた。だから、ゴアなんかに忠誠を誓ったりはしないわ」
「師匠、それじゃあ?」
「明日からは私もあなたの修行に同行するわよ。でも、こんな私でもいいの? こんな人間的に弱い私でも」
「完璧な人なんていません。私の師匠はサラさんだけです」
「ありがとう、メイ」
師匠は私をぎゅっと抱きしめてくれた。そう、完璧な人間なんて誰もいない。みんな、弱い部分もあるし、悩むことだってある。それは何歳になっても変わらない。人生を歩み続ければ歩み続けるほど、悩みは増えていくに違いない。でも、一緒に頑張ろうという支えてくれる仲間がいる。そして、師匠がいる。私にはそれが何よりも幸福だった。
「ところで師匠、ナトロフ島でガルオンを倒した時、死霊剣と鍵を手に入れました。あれを使えば、世界中央図書館に行けるはずです。呪いを解除するにはセグンダディオの事を更に知る必要があると思います」
「残念だけど、この作られた日本では発動しないのよ。更にナイトゼナのある場所に行って発動しないといけないようにされているの」
「そうなんですか?」
「ナイトゼナでは各地を旅してたからね。ま、その辺りはナイトゼナ戻ってから教えるわ。今話しても仕方ないからね」
確かにここは作られた日本であり、実際の世界じゃない。ナイトゼナに戻る方法はわからない。一度、亀裂みたいなのがあって戻れたけど、あの日以降は亀裂は見かけていない。
「さ、今日は長々話して悪かったわ。ゆっくり休んで」
「師匠、たまには一緒に寝ましょうよ。私、ずっと寂しくて……」
「ありがと。じゃ、寝る前にお風呂付き合ってくれる? メイも汗だくのまま寝たくないでしょ?」
「ふふ、そうですね。じゃ、お風呂行きましょう」
「おっしゃ、しゅぱーつ」
お風呂でゆっくりする私達。師匠とお風呂はいつぶりだろうか。熱いお湯に疲れがとけていくのを感じる。何を話すでもなく、私達はのんびりと入り、一息つく。
「ママ」
と、そこへリュートがやってくる。
あれ、ジェーンさんに預けていたんだけどな。でも、飛び方がフラフラして、蛇行していて、見るからに危なっかしい。
「どうしたの、リュート」
「なんか、しんどくて……」
「え、アンタすごい熱なんだけど?」
リュートのおでこを触ると随分と熱い。息遣いも荒く、明らかにしんどそうなのがわかる。目も虚ろで体調不良なのは明らかだ。風邪か何かだろうか?
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