忘れ得ぬ過去

十条沙良

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( 息が出来ない。苦しい。もう我慢出来ない。
今ここで死ぬのだ。
なぜ今、今までじゃなくて。
いい事何もなかった。)
と、思った時、私を踏み付けていた足の力が少しだけ緩みました。

息が出来ました。と同時に、 

くるんと転がって足から私は逃げました。


ただ息が出来るだけで幸せだと思いました。

薄暗い隣の部屋の隅に女がぼうっと見えました。

女は男を止めた事はなく、いつものように私がひどい目にあわされるのを黙って見ていました。

( この家には私を守ってくれる人は誰もいない。)
と、1歳の女の子の私は良くわかっています。

( あの女の所へ行っても何もいい事は無い。)
わかっているのに、この場から逃げるため私ははって進みます。

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