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罪人の子であろうと愛している②
しおりを挟む温室内を見回し、呆然とするシュヴァルツの後ろからやって来たルチアやローウェンも同じ。天井や地面に広がる大きな穴や見たこともない大きな植物の枯れ果てた姿、地面にある黒い謎の液体が二つ、騎士に拘束され連行されていく父アベラルド。どれもこれも、入院先から駆け付けたシュヴァルツには理解するのにかなりの時間を有する。
セラティーナはシュヴァルツと目が合うと「セラティーナ!」と呼ばれ、目の前まで来ると状況説明を求められた。
「ほんの少し前に病院で目が覚めたんだ。そうしたら、突然騎士が来て父上が……」
「……」
最初から最後までいるセラティーナならシュヴァルツに詳しく説明は可能だが、言葉で表すには難しく、自分が話して良いのかさえ思えてくる。何を言おうかと迷っていると「終わったよ」とフェレスの声がセラティーナの近くから発せられた。
振り向くと父の治療をしていたフェレスがセラティーナの側にいて、父ジグルドは騎士に話を聞かれていた。
「お父様の傷はもう大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。ちゃんと塞がったし、出血分の血も戻した。ふう……」
珍しくフェレスが疲れている。確か、あの偽物を作るのに七割の魔力を使ったと語っていた。フェレス程の魔法使いが大量の魔力を消費することは滅多にない。首飾りをフェレスから返されたエルサは再び身に着けた。以前の輝きは保ったまま。曰く、微量の魔力を残しているからだとか。
「さて」とフェレスがシュヴァルツに向き、セラティーナを背にやった。
「グリージョ公爵令息君。詳しい話が聞きたいなら、僕がしてあげよう」
「何故、貴方もいるんだ。それに」
言葉の続きは灰色の瞳が隣国の皇帝シャルルへと向いて紡がれた。
「何故、皇帝陛下までが」
「全部を話すと長くなるから簡潔に言おう。妖精狩は知ってる?」
「妖精だけが狙われる事件と存じています」
「妖精狩の黒幕が君のお父上だった、って事」
「なっ!」
かなり前から続く妖精の命が狩られる痛ましい事件。その黒幕がアベラルドだと告げられたシュヴァルツが否定するのも無理はない。
シュヴァルツが否定しようと黒幕がアベラルドだという事実は覆らない。連行されていくアベラルドを呼び止めたシュヴァルツが無実だと言ってほしいと叫ぶが……。
足を止め、顔をシュヴァルツへと向けたアベラルドは虚ろな灰色の瞳をしていた。ゾクリとした寒気を覚えるシュヴァルツ。
「ち、父上……」
「……お前は最後まで現実を見ようとしないな」
「な、え」
「その点は私も同じか……。シュヴァルツ、妖精狩の犯人は私だ。私一人で全てやった。セラティーナ嬢もジグルドもカエルレウム卿も陛下も皆私が巻き込んだ」
「う……嘘ですよね……?」
「現実を見ろ。お前の今後はある程度願い出るつもりだ。お前は何も知らないのだからな」
話は終わり。前を向いたアベラルドは騎士を促し、後ろで未だ叫ぶシュヴァルツは良いのかと問われるも首を縦に振り歩き始めた。
「ファラとの子だったら……最善を尽くしてやりたい気持ちは生まれただろうが……」
最後の最後までシュヴァルツを――息子を――心の底から愛せなかった。妻エリスにしてもそう。エリスに関しては、本人は気付いていないだけだがまだジグルドを愛している。愛しているが故の憎しみを捨てられた時の憎しみだと思い込み、ジグルドに向けられないなら娘のセラティーナへとぶつけていた。
――ファラ……待っていてくれ。
すぐには無理であろうがアベラルドも地獄行きは確定している。先に逝ったファラの所へ早く行きたい気持ちしか、今はもうない。
「父上……」
どんなに呼んでも二度と立ち止まらない父の背を見るしかないシュヴァルツ。ふらりと後ろに向き、縋るようにセラティーナは見られ、声を発し掛けたらルチアの声が響いた。
「おじ様が妖精狩なんて非道な事件を起こした犯人だなんて……っ、これからシュヴァルツはどうなってしまうの?」
黒い液体を帝国の調査員と共に調査している騎士に詰め寄っても、騎士の仕事の範疇を超えている為回答を持っていない。
「殿下……!」泣きそうな面持ちでローウェンに訴えた。ローウェンならどうにかしてくれる、そんな気持ちを持って。
「あ……いや……」
「殿下、シュヴァルツも逮捕されてしまうの!?」
「さっきのグリージョ公爵の言葉通り、シュヴァルツが何も知らないなら関わっていない。逮捕はされない」
「良かった……!」
「逮捕はされないが……」
言いにくそうに口ごもるローウェンは逮捕されないと知り喜ぶルチアにそれ以上は言えなかった。
当主が重罪を犯したと発覚した今、シュヴァルツは今後貴族でいられなくなる可能性が非常に高い。一族郎党処罰される可能性だってある。
ローウェンはルチアを悲しませる言葉だけが出せずにいた。
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