上 下
95 / 105

強欲な愚か者④

しおりを挟む



「吐きそうなくらい濃い魔力だ……フェレス、早くその化け物じみたお化けをどうにかしてくれ」
「大人なのにお化けが怖いの?」
「ああ。祖父が化けて出て以降、一番苦手なものになった」


 青い薔薇から栄養を全て消滅させ、貯えた魔力を一旦己の体内に保存したシャルルの顔色は言葉通り吐き出してしまいそうな程青い。後はファラの胎にいるままの化け物を殺せば終わる。
 大事に偽物のフェレスの眼を抱えているのを見て、ふと、セラティーナはある旨を訊ねた。フェレスの返答は「見ていれば解る」と囁き、セラティーナを此処に残してファラの近くへ飛んだ。


「君には過ぎた代物だ。大事に抱えている眼を返してもらおう」
「イヤダ! コレハボクノダ! オマエノソノオメメモヨコセ!」
「君にあげる物は何一つない。返さないなら、無理矢理返してもらうとするよ」
「ゼッタイニカエサナイゾ!!」


 多数の目の下辺りが横に大きく裂けた。
 口と思しき中へ眼を放り、ゴクリと飲み込んだ化け物はにんまりと嗤った。


「フフン! コレデウバワレナイゾ! ホシカッタラボクノママモコロ……」


 愉悦を浮かべ、絶対に取られないと自信たっぷりな化け物の異変はすぐに起きた。幼稚な声はそのままに、苦しみの声を上げた。胎の中にいる化け物が苦しみだすとファラも同じように苦しみを露わにした。


「アガアアァ! アグッゥアアアアアア゛!!」


 多数の小さな黒い手が次々に千切れ地面に落ち、全て無くなった。ファラの胎から出られない筈の化け物が粘度の高い液体の如くどろりと落ちて地面をのた打ち回る。多数の目を持つ真っ黒な球形が転がる様はこの世の生物とは思えず、かなり不気味だ。


「強欲な父と母を持った子もまた強欲に生まれる。人並の同情心は持ち合わせているよ。妖精の呪いによって生まれてもいないのに長い年月を掛けて化け物になった君に」
「アガガガガ、イダイ、イダイヨオオォオオオオ、ママア、ママアアァ!!」
「そのママの胎を無理矢理破って好き勝手した時点で君が救われる道は消えた。大人しくしていれば、君だけでもどうにか助けようとする人はいたかもしれないよ」


 ちらりとフェレスから一瞥を貰ったセラティーナは肯定した。あくまで仮定に過ぎないが無害であったなら胎児だけでも救う術を模索した。だがフェレスを襲い、凶悪さを見せた段階で救う気持ちは消え失せた。
 苦しみ、のた打ち回った末、化け物は黒い液体を残して死んだ。

 青い薔薇も黒い化け物も全ていなくなった。


「あ……」


 脅威が消え去ると人間は安心しきって体から力が抜けてしまうらしく、足に力が入らなくなったセラティーナをフェレスが抱き留めた。


「大丈夫? セラ」
「え、ええ。ありがとう」
「種明かしは後で良いかな? 後片付けを優先しよう」


 蔓に拘束され魔力を吸われ、黒い化け物に眼を抉られた偽物のフェレスは何なのかの説明は後となった。
 温室周辺に展開されていた結界をフェレスが解いた直後、ガラスが割れる音が大きく響いた。アベラルドの貼った結界の上にフェレスの結界を貼って強度と遮断能力を底上げしていた。アベラルドだけの結界だけだったら、今頃小パーティーを楽しんでいるグリージョ家所縁の貴族達が騒ぎを聞き此処へ駆け付けていた。

 ポンっと空気の抜けた音がしたかと思えば、ガラス張りの天井を光が突き破り空高く飛んで行った。グリージョ公爵邸付近に潜む帝国調査員に終わりの合図を送った。もうじき調査員から連絡を受けて組合や王国騎士団が駆け付ける。


「シャルル、彼等が来るまで保つ?」
「正直、ギリギリなんだが……」
「僕がすると僕の魔力と合わさって吸収しちゃうから、一時的保存先としては人間の君しか今は頼めないんだ」
「分かってる」


 気丈に振る舞っても顔色の悪さから無理をしているのは明白。帝国調査員が到着次第、青い薔薇から回収した魔力を保存する。



  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

【R-18】愛されたい異世界の番と溺愛する貴公子達

ゆきむら さり
恋愛
稚拙ながらもこの作品📝も(8/25)HOTランキングに入れて頂けました🤗 (9/1には26位にまで上がり、私にとっては有り難く、とても嬉しい順位です🎶) これも読んで下さる皆様のおかげです✨ 本当にありがとうございます🧡 〔あらすじ〕📝現実世界に生きる身寄りのない雨花(うか)は、ある時「誰か」に呼ばれるように異世界へと転移する。まるでお伽話のような異世界転移。その異世界の者達の「番(つがい)」として呼ばれた雨花は、現実世界のいっさいの記憶を失くし、誰かの腕の中で目覚めては、そのまま甘く激しく抱かれ番う。 設定などは独自の世界観でご都合主義。R作品。ハピエン💗 只今📝不定期更新。 稚拙な私の作品📝を読んで下さる全ての皆様に、改めて感謝致します🧡

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

処理中です...