84 / 109
狩猟大会⑤
しおりを挟む小さく欠伸を漏らしたフェレスは「まあ、いいさ」と零し。
「で、公爵、どうしてその後も王家や世間に公表しなかったんだい」
「恐らくファラの呪いが解けていても、アベラルドが既に証拠を隠滅した後だ。私やフリードではどうしようもない」
「なら組合に手を借りるという選択もあった筈では?」
「ファラがああなってしまった以上、アベラルドも余計な真似はしないと踏んでいた。実際、母がセラティーナを見せに行くまでは妖精狩は起きていなかった」
「ふむ……」
つまるところ妖精狩が起きた原因は、プラティーヌ先代公爵夫人がアベラルドにセラティーナを見せてしまったから。何れ起きていたにしても、だ。
「君は公爵が何を企んでいるのか予想は?」
「……あいつはファラを通して美しかった若き頃の母を見ていた。セラティーナを母やファラの代わりとするつもりなんだろう」
予想通りの返答にフェレスは「そう」とだけ返した。フェレス自身はもっと他の予想を持っているが目の前の男に話す程ではないか、と話すのを止めた。話したところで余計な混乱を招くだけなのだ。
「もう一つ聞いていい?」
「まだあるのか」
少々うんざりしているジグルドに「まあ、付き合ってよ」と朗らかに笑い掛け、指を鳴らした。直後、周囲に小さな光が多数出現した。これらは目に見えないとても小さな妖精を目視出来るようにしたもの。
「彼等はどんな場所にも、何処にでもいる妖精達さ。当然、君の周囲にだっている。彼等が面白いものを見せてくれたんだ」
これだよ、とフェレスが合図を送ると小さな妖精達が集まり一つの丸になった。光る丸にある光景が映し出された。
「っ」
「一歳になったセラティーナだって」
乳母に抱っこをされ、キョトンとジグルドを見上げるセラティーナ。瞬きを何度かすると相手が父親だと認識したのか、キャッキャッと嬉し気に声を上げ小さな手を伸ばした。ジグルドは今では想像もつかない優しい笑みを浮かべながら乳母からセラティーナを貰い、抱き上げた。父に抱っこをされ、更に喜ぶセラティーナを見つめるジグルドの顔は父親のそれだった。
「プラティーヌ家は魔法使いを嫌う。……の割にね、随分とセラティーナを可愛がっていたね」
それから四歳くらいになるまでジグルドはセラティーナに愛情をたっぷりと注ぎ、徐々に態度を変え、今のようになってしまった。
「妖精は見ているよ、どんなものでも。君がセラティーナに冷たくし始めたのを気にしていた。そしてセラティーナ自身も。セラティーナを気にして守護を掛けるのはやりすぎだけど」
「守護?」
「人間で言うと祝福の魔法かな」
「……そうか」
愛していたのに、途中から愛していない風を装うのは、目の前にいる男にとっても苦痛だったろうに。頑なにセラティーナへ冷たくし続けたのは多分……王国から何の憂いも残さず追い出す為。アベラルドの執着から逃がす為に。
「……私からも一つ聞きたい」
「どうぞ」
「……この間、グリージョの倅が来ていた時、セラティーナに何を言うか気になって扉の前で話を聞いていた。そこに貴殿が現れた」
「はは、そういえば妹君もいたね。セラティーナは気付いてなかったけれど」
「盗み聞きしていたのは謝る。ただ、一つ聞きたい。セラティーナが……貴殿の亡くなった奥方の生まれ変わりというのは……」
「事実さ」
「そうか。それだけ聞ければもういい」
どこか安堵した、すっきりとした表情になったジグルドは席から立ち上がるとフェレスに頭を下げた。
「セラティーナを……お願いします。そして、今日が終わったら直ぐにでも帝国へ連れて行ってください。妖精狩についても関わるなと」
「君から話したら良い。親子なんだ、言えないことはないだろう」
「……」
沈黙し、間を空けてジグルドは重く頷いた。
そろそろ時間停止を解くよ、とフェレスは小さな妖精が届けた情報を聞かされ微かに瞠目した。小声で何かを伝えると時間停止を解除した。
――フィリップと別行動を選び、獲物を探す傍ら、土に触れ森に生きる植物に触れながら移動をするシャルル。上質な土と栄養が行き届いた植物に感心しつつ、ふと気配を感じ後ろを振り向いた。
「皇帝陛下?」
「確かグリージョ公爵令息だっかな?」
いたのはシュヴァルツだった。
「獲物を探している訳では……なさそうですが……」
「なに。初めての参加というのもあるが他国の植物には興味があってね。直に触れられる貴重な時間を無駄にしたくはない。もう少ししたら狩にも参加するさ。そういえば、君は優勝経験があったね。お手柔らかに……と言いたいが遠慮はいらないよ」
今後も手を借りたいなら、フィリップかシャルル、どちらかが優勝しろとフェレスに脅されており、相手にも手を抜かされるなとのお達し。内心、あのじじい……と悪態を吐きつつ、シュヴァルツに笑んだ。
「勿論です。私も優勝を狙って全力で挑みます」
「はは。頼もしい。優勝者は、望んだ相手から栄誉を与えられると聞いた。君は毎回聖女を望んでいるから、今年もそうするのだろう?」
「いえ。これからはセラティーナを」
「ほう……?」
帝国の魔法使いであるフェレスが求婚していると知りながら、敢えてシャルルに告げたシュヴァルツ。強い意思を感じさせる灰色の瞳の熱量にまた笑み、お互い良い結果を残そうとシャルルは姿を消した。
一人残されたシュヴァルツは……。
「……たとえセラティーナがカエルレウム卿の亡くなった奥方の生まれ変わりであろうと、今の婚約者は私だ」
必ず優勝し、セラティーナからの栄誉を望み、そこで誓いを立てる。
そうすればセラティーナはフェレスと共に帝国へは行けなくなる。
192
お気に入りに追加
8,542
あなたにおすすめの小説
一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
逃がす気は更々ない
棗
恋愛
前世、友人に勧められた小説の世界に転生した。それも、病に苦しむ皇太子を見捨て侯爵家を追放されたリナリア=ヘヴンズゲートに。
リナリアの末路を知っているが故に皇太子の病を癒せる花を手に入れても聖域に留まり、神官であり管理者でもあるユナンと過ごそうと思っていたのだが……。
※なろうさんにも公開中。
もう二度とあなたの妃にはならない
葉菜子
恋愛
8歳の時に出会った婚約者である第一王子に一目惚れしたミーア。それからミーアの中心は常に彼だった。
しかし、王子は学園で男爵令嬢を好きになり、相思相愛に。
男爵令嬢を正妃に置けないため、ミーアを正妃にし、男爵令嬢を側妃とした。
ミーアの元を王子が訪れることもなく、妃として仕事をこなすミーアの横で、王子と側妃は愛を育み、妊娠した。その側妃が襲われ、犯人はミーアだと疑われてしまい、自害する。
ふと目が覚めるとなんとミーアは8歳に戻っていた。
なぜか分からないけど、せっかくのチャンス。次は幸せになってやると意気込むミーアは気づく。
あれ……、彼女と立場が入れ替わってる!?
公爵令嬢が男爵令嬢になり、人生をやり直します。
ざまぁは無いとは言い切れないですが、無いと思って頂ければと思います。
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。
心の鍵は開かない〜さようなら、殿下。〈第一章完・第二章開始〉
詩海猫
恋愛
侯爵令嬢フィオナ・ナスタチアムは五歳の時に初めて出会った皇弟フェアルドに見初められ、婚約を結ぶ。
侯爵家でもフェアルドからも溺愛され、幸せな子供時代を経たフィオナはやがて誰もが見惚れる美少女に成長した。
フェアルドとの婚姻も、そのまま恙無く行われるだろうと誰もが信じていた。
だが違った。
ーーー自分は、愛されてなどいなかった。
☆エールくださった方ありがとうございます!
*後宮生活 5 より閲覧注意報発令中
*前世話「心の鍵は壊せない」完結済み、R18にあたる為こちらとは別の作品ページとなっています。
*感想大歓迎ですが、先の予測書き込みは出来るだけ避けてくださると有り難いです。
*ハッピーエンドを目指していますが人によって受け止めかたは違うかもしれません。
*作者の適当な世界観で書いています、史実は関係ありません*
【完結】旦那様、わたくし家出します。
さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。
溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。
名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。
名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。
登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*)
第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる