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捕獲優先

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 背凭れに体を預け、窓越しから夕焼けを見上げていると幼い頃の記憶が蘇る。朱に染まった空は青よりも綺麗だとよくファラは言っていた。青も朱も何なら紺も変わらないと淡々と言うと「違います!」ときっぱりと断言された。


「理由を聞いておけば良かった……」


 夕焼けを見ているとファラとの記憶が浮かぶばかり。緩く頭を振ったアベラルドは執務机に向き直り、広げている書類を一つに纏め置いた。


「もうすぐだ。もうすぐ完成する」


 ただ、完成直前まで迫った今、より多くの妖精の魔力が必要。若い妖精を捕え栄養にして十八年の時間が掛かるとは思いもしなかった。古く強い妖精では捕える率が圧倒的に下がる。強くてもまだ未熟で若い妖精の方が捕えやすい。

 アレを完成させる最も有効的な手段は一つ。今現在王国に滞在している帝国の魔法使いを捕え、その魔力を奪う事。フェレスは千年以上生きる古い妖精の一人で強大な魔力を持つ大魔法使い。それ程の妖精の魔力を栄養にしてやれば、アベラルドが予想する以上の成長を見せてくれるに違いない。

 問題はどうフェレスを捕えるか、だ。何度か試してみているが全て失敗に終わっている。生半可なやり方ではフェレスは捕らえられない。かと言ってアベラルド自身が出向く訳にもいかない。王国でも屈指の魔法使いとして名を馳せるアベラルドでもフェレスを前にするとその他大勢に分類される。


「だが」


 どうしてもフェレスの魔力が欲しい。恐らくフェレスが滞在する期間はセラティーナを帝国に連れ帰るまで。まだいるのは求愛している最中だからだろう。
 何故千年以上生きる妖精が人間の娘に惚れたかは分からない。妖精は非常に気紛れな性質、今は夢中になっていても何れ飽きて捨てる。


「まあ……フェレス=カエルレウムについてはまた今度だ」


 対策を練っていない訳ではないが捕らえられる確率があまりにも低い。もっと確率を上げる方法を探すのだ。他に考える件はまだまだある。
 大きな例を出せば息子のシュヴァルツ。少し前プラティーヌ家に行って以来部屋に引き籠っている。何があったか訊ねても黙りでアベラルドもエリスもお手上げ。


「ふむ……」


 考えられるのはフェレスの求愛を既にセラティーナが受け入れているという可能性。散々放置し、他の女を愛してきた男の言葉を一月で信じられるかは本人次第。シュヴァルツの場合はルチアもシュヴァルツを愛している為に尚更信用されない。

 愚か者が、今回の件が起きてから何度もシュヴァルツに放った言葉だ。何をしても好きでいてくれる相手等極少数。セラティーナの場合はそもそもシュヴァルツを愛してもいなければ、ルチアといようとどうも思っていなかった。


「何故あの様な馬鹿で愚かなんだか……」


 シュヴァルツがちゃんとルチアを忘れ、セラティーナだけを見ていれば面倒は起きなかった。たとえフェレスに求愛されてもシュヴァルツがいるからとすぐに断られた。


「ファラ……必ず君を……」


 もうすぐ完成する青い薔薇とセラティーナさえいればファラは…………。


「……その為にはやはりフェレス=カエルレウムがいる」


 最も手っ取り早いのはフェレスを罠に掛け捕らえる事。



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