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セラティーナのせい①
しおりを挟む朝食の場。セラティーナが亡くなったフェレスの妻の生まれ変わりと知って以降シュヴァルツの突撃訪問が無くなった。どれだけ拒まれようとセラティーナとのやり直しをと願っていたシュヴァルツでも、実は前世がフェレスの妻だったと知ると諦める。漸く諦めてくれたのだと思い、後は『狩猟大会』に意識を集中させよう。
デザートのヨーグルトを頂きながら、今日は組合に足を運ぼうかと考える。『狩猟大会』まで残り十日。まだ少し余裕があるとは言え、妖精狩の黒幕と思しきグリージョ公爵の動向が非常に気になる。段々分かってきたのは、人気の少ない場所にランスやフェレスといった妖精が行くと黒い霧を纏った者が集団で襲い掛かってくる事。
ランスは強い、フェレスはランス以上に強い。
余程の相手ではない限り二人が捕らえられる真似はしない。
ヨーグルトを食べ終えたら早速出掛ける準備を、と頭に過った直後エルサに呼ばれた。
「お姉様、この後のご予定は?」
「まだ決めていないわよ」
「なら、わたくしとこの後ブティックに行きませんか? 今日は新作の発売日で初日の動向を視察するのが目的です」
いつもなら向かいにいる父は現在いない。領地へ向かう途中の宿に置いてきた母から何時までいたら良いのかと連絡が飛ばされ、今朝早くから馬車を走らせ行ってしまった。本来なら父が行くのだが、こういった事情の為エルサが代役を務める。
組合にはいつでも行ける。自分の予定よりもエルサを優先した。
ヨーグルトを食べ終え、部屋に戻ったセラティーナは早速ナディアと出掛ける準備を始めた。プラティーヌ家として赴くので貴族だと丸わかりなドレスを選んだ。
姿見で確認し、最後ハンカチを鞄に入れたらエルサの侍女がセラティーナを呼びに来た。
「今行く」
ナディアを連れ玄関ホールへ向かい、先に待っていたエルサと合流。
「行ってくるわね」
「お気を付けて、お二人とも」
ここ最近は快晴が続き、朝の妖精達の気分が最高だと毎朝現れるフェレスが言う。朝の妖精が上機嫌だと花の妖精達もご機嫌になり、強く美しい花が長く咲くらしい。
馬車に二人が乗り込むと御者は馬に鞭を叩き走らせる。ブティックの視察を終えた後は、カフェでお茶をし、以前エルサに紹介されたスイーツ店で自身の侍女にお土産を買う。
「あ、あの、お姉様」
「うん?」
「あー……いえ……ごめんなさい。何でもありません」
「どうしたの? 遠慮なく言ってちょうだい」
「いえ! また、言いたくなったら言います!」
「そう?」
「はい!」
おかしいと言えば、シュヴァルツに前世フェレスの妻だと知られた日から父やエルサから妙に視線を貰う。あの場にいたのはシュヴァルツと自分とフェレスだけ。他に人はいないから知らない筈。もし、知ってしまっていても何時かは話さないとならないから困らない。ただ、二人が聞きにくそうにしているのにセラティーナから言うのも如何なものかと抱き、言い出せずにいる。
他愛もない会話を街の広場に着くまで続け、馬車から降りると早速ブティックへ足を運んだ。今日は新作発売日とあり、開店前から店の前に列が成していた。
「結果が楽しみね」
「はい! 季節物で数量限定品ですが人気が出たら増産をする予定です」
「人から人へと情報が流れるかは、今日購入するお客様に掛かっているけれど、その価値があるかどうか認められるのは製品次第。気に入ってもらえる事を祈りましょう」
少し離れた場所で客層を眺めるセラティーナは「え」と声を出してしまった。大きな声ではないからエルサにしか聞こえなかったが「どうしました?」と訝しげに見られ、列に並んでいる女性の中にルチアとルナリア伯爵夫人がいると話した。ストールで二人とも顔を見え難くしているが間違いないと断言した。
今、プラティーヌ家の息の掛かった商会から取引を停止されたルナリア伯爵家は窮地に立たされている。シュヴァルツとルチアが婚約しないと取引停止を免れないので伯爵は毎日グリージョ公爵に婚約をと押し掛けている。シュヴァルツの動きが止まり、ルチアも動いていなかった為油断した。
ブティックがプラティーヌ家の運営だと知らない筈はない。のなら、目的は何か。
「エルサ、裏口から入って中の様子を見ましょう」
こういう時の嫌な予感は大抵当たる。
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