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狙われているのは
しおりを挟む同時刻、五十年振りに叶った愛しい人とのデートを終え、ご機嫌に組合へ戻ったフェレスを待っていた受付嬢が神妙な面持ちで駆け寄った。聞くとランスが昼食を食べに出てから戻らないのだとか。
「どこか寄り道をしているんじゃないの」
「ランスさんは見た目に反して律儀な人で昼食を食べて来ると言ったら、他の店には寄らず真っ直ぐ組合に戻って来る人なんです」
見た目に反しては余計だろうが受付嬢の言葉が事実なら、ランスが昼食を食べに組合を出て既に二時間以上経過している。余程行列が成している人気店へ行っているのかと問うても違うと首を振られた。
「ランスが普段使う店はどこ?」
妖精狩が頻繁に起きている現状、人間のハーフと言えど半分妖精であるランスも狙われている。若いながら確かな実力を持つランスだが、何が起きるか分からない。受付嬢から場所を聞いたフェレスが転移魔法で即座に移動した先は中心街から離れた人気の少ない道。隠れ家のように料理店を営むらしく、目立つ看板もない為、隠れた名店として有名なのだとか。
「ここか」
扉の上に小さな木札が掲げられ、小さく『フルーチェ』と刻まれている。ドアノブに提げられた“OPEN”の札を見るにまだ営業中。店内から騒がしい声はしない。試しに入ってみるかとドアノブに手を掛けると先に扉が開いた。
現れたのはランス。フェレスがいて吃驚している。
「フェレス? どうしたんだよ、お前もこの店を知っていたのか?」
「君の帰りが遅いと心配した受付嬢に聞いたんだ」
「ああ、そうか、悪かったな」
下から上を見て怪我はしていないと解り安堵する。ピカピカ頭を申し訳なさげに掻くランスに事情を聞くと、さっきまで酔っ払いが店で暴れていて、偶然居合わせたランスが酔っ払いを撃退。外へ逃げて行ったのはいいものの、酔っ払いに突き飛ばされて怪我をした店主の手当てをしていたのだとか。更に荒らされた店内の掃除と壊れたテーブルの修理を今終えて外に出て来た。幸か不幸か客はランス一人だけだったので他にけが人は出なかった。
「連絡くらい寄越してあげなよ。心配していたよ」
「あ、ああ、悪かったよ」
「特に今は状況が状況だ」
「戻ったら謝りまくる」
無事と判明した今、ランスの心配は不要。さっさと戻ろうとフェレスの転移魔法で組合へ戻る。つもりが状況が一変する。
突然二人を囲む黒い影。以前二人を襲った時や単独行動をしていたフェレスを襲った時よりも明らかに数と魔力濃度が違う。
「ふーん」
「こいつら……いきなり実力が上がりすぎやしねえか?」
「本格的に僕を狙い始めたか」
捕まれば死ぬまで魔力を奪われ続ける。態と捕まっても良いが逃げる手段を見つけていない今は捕まってやれない。不意に、極小の風の妖精が組合にセラティーナが来ていると報せた。ちょっと前に別れたセラティーナは屋敷の料理長を連れてフェレスに会いたいと言ったそうだ。手には亡くなった叔母の研究書。
予想するにセラティーナが連れて来た料理長が事情を知っていて、フェレスに報せる為にセラティーナが連れて来たのだろう。
拳を合わせ、肉体に魔力を巡らせたランスの気配を察知し、フェレスは肩を竦めた。
「君は捕まるなよ」
「お前もな!」
「僕は対策さえ講じれば平気さ」
「その自信が命取りにならないといいな」
言うが早いか、敵とランス、同時に飛び出し両者の魔力が衝突した。
周囲に被害が及ばぬよう自身のいる場所から半径二キロ圏内に結界を貼ったフェレス。建物が破壊されても自動的に修復されるオプション付き。三体を同時に相手をするランスへ身体強化・運勢強化を付加し、自分を取り囲む十人くらいの黒い影へ嗤って見せた。
「僕の魔力が欲しいなら、死ぬつもりで来い。僕もその分――痛くするけどね」
一斉にフェレスに飛び掛かった黒い影。その場所だけ暗黒に包まれるも、次に見せたのは眩い光。光の中心地点に立つのはフェレス。フェレスに襲い掛かった黒い影は消え、代わりに体の一部に洗脳魔法を掛けられた証が刻まれた人間が現れた。呻き声をあげ苦しむ彼等の体が瞬く間に石化した。
これで任務に失敗しても殺害の命令は起動しない。全て組合に持ち帰り、帝国から派遣された調査員達に調べさせる。
ランスは、と魔力を辿った直後。背後から忍び寄る蔦に気付かずフェレスの体が縛られた。咄嗟に全身に炎を纏って蔓を燃やした。追加の蔓は来ず、気配を探っても感知は出来なかった。
だが、収穫はある。
「へえ……例の植物に捕まっても……」
意味深な言葉を紡ぐと不敵な笑みを見せ、敵を片付け死体を運びに戻ったランスに振り向いた。
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