上 下
68 / 109

狙われているのは

しおりを挟む


 同時刻、五十年振りに叶った愛しい人とのデートを終え、ご機嫌に組合へ戻ったフェレスを待っていた受付嬢が神妙な面持ちで駆け寄った。聞くとランスが昼食を食べに出てから戻らないのだとか。


「どこか寄り道をしているんじゃないの」
「ランスさんは見た目に反して律儀な人で昼食を食べて来ると言ったら、他の店には寄らず真っ直ぐ組合に戻って来る人なんです」


 見た目に反しては余計だろうが受付嬢の言葉が事実なら、ランスが昼食を食べに組合を出て既に二時間以上経過している。余程行列が成している人気店へ行っているのかと問うても違うと首を振られた。


「ランスが普段使う店はどこ?」


 妖精狩が頻繁に起きている現状、人間のハーフと言えど半分妖精であるランスも狙われている。若いながら確かな実力を持つランスだが、何が起きるか分からない。受付嬢から場所を聞いたフェレスが転移魔法で即座に移動した先は中心街から離れた人気の少ない道。隠れ家のように料理店を営むらしく、目立つ看板もない為、隠れた名店として有名なのだとか。


「ここか」


 扉の上に小さな木札が掲げられ、小さく『フルーチェ』と刻まれている。ドアノブに提げられた“OPEN”の札を見るにまだ営業中。店内から騒がしい声はしない。試しに入ってみるかとドアノブに手を掛けると先に扉が開いた。
 現れたのはランス。フェレスがいて吃驚している。


「フェレス? どうしたんだよ、お前もこの店を知っていたのか?」
「君の帰りが遅いと心配した受付嬢に聞いたんだ」
「ああ、そうか、悪かったな」


 下から上を見て怪我はしていないと解り安堵する。ピカピカ頭を申し訳なさげに掻くランスに事情を聞くと、さっきまで酔っ払いが店で暴れていて、偶然居合わせたランスが酔っ払いを撃退。外へ逃げて行ったのはいいものの、酔っ払いに突き飛ばされて怪我をした店主の手当てをしていたのだとか。更に荒らされた店内の掃除と壊れたテーブルの修理を今終えて外に出て来た。幸か不幸か客はランス一人だけだったので他にけが人は出なかった。


「連絡くらい寄越してあげなよ。心配していたよ」
「あ、ああ、悪かったよ」
「特に今は状況が状況だ」
「戻ったら謝りまくる」


 無事と判明した今、ランスの心配は不要。さっさと戻ろうとフェレスの転移魔法で組合へ戻る。つもりが状況が一変する。
 突然二人を囲む黒い影。以前二人を襲った時や単独行動をしていたフェレスを襲った時よりも明らかに数と魔力濃度が違う。


「ふーん」
「こいつら……いきなり実力が上がりすぎやしねえか?」
「本格的に僕を狙い始めたか」


 捕まれば死ぬまで魔力を奪われ続ける。態と捕まっても良いが逃げる手段を見つけていない今は捕まってやれない。不意に、極小の風の妖精が組合にセラティーナが来ていると報せた。ちょっと前に別れたセラティーナは屋敷の料理長を連れてフェレスに会いたいと言ったそうだ。手には亡くなった叔母の研究書。

 予想するにセラティーナが連れて来た料理長が事情を知っていて、フェレスに報せる為にセラティーナが連れて来たのだろう。

 拳を合わせ、肉体に魔力を巡らせたランスの気配を察知し、フェレスは肩を竦めた。


「君は捕まるなよ」
「お前もな!」
「僕は対策さえ講じれば平気さ」
「その自信が命取りにならないといいな」


 言うが早いか、敵とランス、同時に飛び出し両者の魔力が衝突した。

 周囲に被害が及ばぬよう自身のいる場所から半径二キロ圏内に結界を貼ったフェレス。建物が破壊されても自動的に修復されるオプション付き。三体を同時に相手をするランスへ身体強化・運勢強化を付加し、自分を取り囲む十人くらいの黒い影へ嗤って見せた。


「僕の魔力が欲しいなら、死ぬつもりで来い。僕もその分――痛くするけどね」


 一斉にフェレスに飛び掛かった黒い影。その場所だけ暗黒に包まれるも、次に見せたのは眩い光。光の中心地点に立つのはフェレス。フェレスに襲い掛かった黒い影は消え、代わりに体の一部に洗脳魔法を掛けられた証が刻まれた人間が現れた。呻き声をあげ苦しむ彼等の体が瞬く間に石化した。

 これで任務に失敗しても殺害の命令は起動しない。全て組合に持ち帰り、帝国から派遣された調査員達に調べさせる。

 ランスは、と魔力を辿った直後。背後から忍び寄る蔦に気付かずフェレスの体が縛られた。咄嗟に全身に炎を纏って蔓を燃やした。追加の蔓は来ず、気配を探っても感知は出来なかった。

 だが、収穫はある。


「へえ……例の植物に捕まっても……」


 意味深な言葉を紡ぐと不敵な笑みを見せ、敵を片付け死体を運びに戻ったランスに振り向いた。


しおりを挟む
感想 349

あなたにおすすめの小説

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。 運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。 殿下、婚約破棄致しましょう。 第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。 応援して下さった皆様ありがとうございます。 リクエスト頂いたお話の更新はもうしばらくお待ち下さいませ。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

処理中です...