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聖女を脅しても罰が下らないのが彼②

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 どう説明をしたらルチアに分かってもらえるのかとばかり頭の中が思考で回る。シュヴァルツと婚約破棄を望んでいるのは本心だと言ってもルチアは頑なに信じようとしない。余程、シュヴァルツに拒否されたのが堪えたのか。


「カエルレウム卿だってセラティーナ様を早く帝国へ連れて帰りたいですよね!」
「否定はしないかな」
「なら」
「だが、此方にも事情がある。第一、何故君に指図されないとならない」
「私は聖女です!」
「だから? 古い妖精の僕にはどうでもいい」
「なっ」


 はったりでも何でもない、フェレスが長生きな妖精なのは事実。聖女の力も地位も特別なのはフェレスとて認めているがあくまでも人間側の話。とことん人間に付き合う妖精ならともかく、程々にしか付き合いをしないフェレスからすれば言葉通りどうでもいい。


「ほら、こんな所にいないでさっさと君の愛する人の許へ行って君を受け入れてもらいなよ。今こうしている内にも、君の愛する人は彼女とやり直そうと色々考えている最中だろうし、君の家も君と君の愛する人をどうにか婚約出来ないかと頭を悩ませている最中だよ」
「セラティーナ様とやり直すなんてシュヴァルツが考える筈がないわ! やっぱりセラティーナ様がシュヴァルツに何かしたのね!」


 話す相手がフェレスに変わっても結局は同じ繰り返しとなる始末。小声で「やっぱり殺そう……」と呟いたフェレスに待ったを掛け、涙目になって此方を詰るルチアにセラティーナは大きな溜め息を吐き一歩前へ出た。護衛が警戒心を露にして何もしないという意味で首を振った。


「ルチア様。カエルレウム卿の言う通り、早くお引き取りください。そして、私ではなくシュヴァルツ様やグリージョ公爵様を説得してください。グリージョ公爵夫人とは仲がよろしいでしょう? 夫人に協力をしてもらっては?」
「そんなの当然でしょう! おば様は私とシュヴァルツが婚約するのをずっと楽しみにして下さっているもの!  セラティーナ様なんてお呼びじゃないの!」
「同じ台詞をグリージョ公爵様にも言ってくださいね」
「あ、当たり前よ!」


 多分言えないだろう。二人の婚約を是が非でも継続させたいと薄々ルチアとて感付いている。公爵夫人を味方にしてもあまり意味はない。セラティーナが好かれているかと聞かれるとそれはない。

 元々、公爵夫人は父ジグルドと婚約予定だったと聞く。祖母の遠縁の侯爵令嬢で身分も釣り合う。けれど父が選んだのは現在の妻、セラティーナの母。


 ――お父様はお祖母様の遠縁だから、公爵夫人との婚約を回避したかったのだとしたら……親子関係が悪くても避ける理由はファラ叔母様にある。


 青い薔薇の件はフェレスに任せ、自身はファラについて調べよう。


「ああ!  そうだわ、シュヴァルツが言っていたのだけれど」
「はい?」
「カエルレウム卿には、五十年前に亡くなった奥方がいらっしゃるの」
「はあ……」


 心の中でそれは私です、と言いつつルチアの言葉を待つ。


「たとえカエルレウム卿に嫁ごうとセラティーナ様は亡くなった奥方の代わりとなるだけ。シュヴァルツと婚約している時と変わらず愛されないのね。ごめんなさいセラティーナ様。私、やっと気付きました。セラティーナ様は家族にもシュヴァルツにもカエルレウム卿にも愛されない方なのだと」
「……」


 隣にいるフェレスの表情から急激に温度が消えていき、徐に手が上がりそうなのを察してフェレスの手を握った。ら、握り返された。一瞥したらご機嫌な面持ちをしていた。


「私は聖女です。愛されないセラティーナ様に祝福を授けます!」
「間に合ってますので結構です」
「私の祝福を受けたい方は大勢いるのですよ!?」
「では、その大勢の方々に授けてください」


 ルチアに授けられる祝福がどの様なものか不明なのに受ける気はない。いい加減にしろと言いたげな組合の魔法使い達の視線はルチアに注がれているものの、気付こうとしない神経には呆れるばかり。


「セラ。タイムアップだ。僕は飽きた」


 小声で囁かれると頭にキスをされ、ぽんぽん撫でられた後フェレスがルチアの前に来た。怯えた様子を見せるルチアを守ろうと護衛が間に入った。
 邪魔、と光の球形に閉じ込め天井付近まで飛ばし、強く怯えを見せ始めたルチアに凄絶な微笑をやった。


「神の人間性を見抜く目は腐ったのかな、って心配になるくらい君は聖女に相応しくない」
「な、なっ」
「役目を果たしても普段がこれでは、いつか君は聖女の力を失う。そうなりたくないなら、今後セラティーナに関わらないことだ」
「だ、だって、セラティーナ様がっ」
「セラティーナの婚約者を手に入れたいなら、聖女の力が失うと大聖堂や王家に泣き喚いたらいい。君、そういうの得意だろう?」
「私への侮辱です!  抗議します!」
「お好きに」


 ぎゃあぎゃあ煩くなったルチアも光の球形に閉じ込め、天井付近に飛ばした護衛共々消し去った。慌てるセラティーナに違う場所へ飛ばしただけだとフェレスはにこやかに語った。



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