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叔母の研究④
しおりを挟むこの本を見てほしいとフェレスに持っている叔母の研究書を見せた。
「私の亡くなった叔母が研究していた花がフェレス達が探している花と少し似ているから、気になって見てもらおうって」
「どれ」
似ている点は魔力を吸う性質。少し興味が湧いたらしいフェレスが研究書を受け取り、パラパラパラとページを開き、全て捲ると次の研究書に手を伸ばした。全部の研究書を捲り終えたフェレスが個室に置かれている丸テーブルに載せると意味深に笑った。
「君の叔母というのは、余程この花を咲かせたかったらしいね」
「ええ。最後の研究書には、やっと開花させられたってあるから、開花自体には成功したみたいだけど」
「その後が書かれていない。セラはそこも気になっているんでしょう?」
「ええ」
開花した事が余程嬉しくて、もう研究書に書く必要はないと叔母は思ったのだろうか。恐らく違う、とフェレスは否定した。
「研究書を眺めながら、この本を持っていた人間の思念を辿ってみた」
「そんな魔法もあるのね……」
相変わらず、魔法の腕に関しては超一流。使えない魔法がないのではないかと信じてしまうくらいに。
「所々書かれているけど、どうも君の叔母は君の父親に対して果たしたい願いがあったようだ」
「……恐らく、叔母は青い薔薇を咲かせて父が魔法を使えるようにしたかったのではと考えているの」
魔力があっても魔法が使えない一族。それがプラティーヌ家。
地位と権力、財力は最高でも魔法使いの才能がないと蔑まれる。セラティーナは魔法使いの才能があったから、あまり言われなかった。その代わり、家族や婚約者に愛されない、相思相愛の二人を引き裂く悪女という不名誉な名が付けられた。
「魔法使いに馬鹿にされない為には、魔法を使えるようにならないといけない。叔母は魔法が使えても父は使えない。二人の仲が良いとは聞かないけれど、実際は仲が良かった。叔母は病が原因で亡くなったけど、この青い薔薇を咲かせた事と繋がりはあるのかしら?」
「僕の予想だが……死んだ理由は病ではなく、多分この薔薇だ」
「え……」
「あくまで予想。気にしないで」
人が気にする言葉を使っておいて気にするなは無理がある。
フェレスに聞いても蕩けそうな甘い微笑みを貰うだけで言葉は貰えず。もう、と溜め息を吐く。
「セラ、そう怒らないで。ただ、興味はある。協力者であったグリージョ公爵を調べてみよう」
「ありがとう、フェレス」
開花させた青い薔薇の行方も気になる。その点も含め、グリージョ公爵を調べるとなった。
「ねえセラ。折角だから、僕とお茶をしようよ。美味しいスイーツとお茶を組合に用意させるから、此処で君とお茶がしたい」
「勿論」
外に出ないのなら、誰かに見られる心配はない。生まれ変わって初めてのフェレスとのお茶。早速、組合に言ってくるよとフェレスが扉を開けた時だ。下の方から騒がしい声がしていた。二人で顔を見合わせ、気になって階段を少しずつ降りて様子を覗くと――吃驚する相手が受付嬢に食って掛かっていた。
「此処にカエルレウム卿がいるのは分かっています! 早く出しなさい」
「ですから、カエルレウム卿は外出中でまだ戻っていません!」
本当は戻っているがフェレスを出せと騒ぐ相手に教える気はない受付嬢は、毅然とした態度で騒ぐ相手――ルチアとお付きの護衛と向き合う。
「言伝てなら、カエルレウム卿が戻り次第、組合からルナリア伯爵令嬢にお伝えします。本日のところはお引き取りください」
「酷いわ! 私はカエルレウム卿に会いたいのよ! セラティーナ様がカエルレウム卿に求婚されたって聞いたから、直ぐにでもセラティーナ様を連れて行ってほしいのに!」
人が多い場所で大きな声を出していい台詞じゃないのだがシュヴァルツの婚約者になりたくてもなれない最大の原因たるセラティーナが求婚されている。ルチアとしては、この機会を逃したくはない。お付きの護衛は聖女たるルチアの願いを叶えない受付嬢に苛立ちを募らせている。今にも襲い掛かってきそうな雰囲気。苛ついた気配を察して組合に所属している魔法使い達の雰囲気も刺々しい。
「カエルレウム卿が戻るまで待たせてもらいます。一番良い部屋に案内しなさい!」
「此処は宿では御座いません。先程も申したようにカエルレウム卿が戻ったら、ルナリア伯爵令嬢にお伝えします。お引き取りを!」
「さっきから聞いていれば、組合の受付嬢風情が伯爵令嬢であり聖女であらせられるルチア様に無礼だぞ!」
剣に手を掛けた護衛を見て、これ以上は見ていられないとセラティーナは階段を降りた。突然現れたセラティーナに瞬きを繰り返すルチアに一言申した。
「なら、伯爵令嬢風情のルチア様が公爵令嬢である私の顔を打ったのも無礼に値するわね?」
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